公正取引委員会は、アップル・インク(以下、アップル)に対し行ってきた、独占禁止法の規定に基づいた審査を終了したと発表した。

公正取引委員会は、アップルが、iPhone向けのアプリケーションを掲載するAppStoreの運営に当たり、AppStore Reviewガイドラインに基づき、デジタルコンテンツの販売等について、アプリを提供する事業者(以下、デベロッパー)の事業活動を制限している疑い等があったことから、アップルに対し、平成28年10月以降、独占禁止法の規定に基づいて審査を行ってきた。

今回、アップルから関連するガイドラインの規定を改訂する等の改善措置の申出がなされたため、公正取引委員会において、その内容を検討。

その結果、上記の疑いを解消するものと認められたことから、今後、アップルが改善措置を実施したことを確認した上で同件審査を終了することとしたとのことだ。

1.アップルの概要

名称:アップル・インク
所在地:アメリカ合衆国カリフォルニア州クパチーノ市アップル・パーク・ウェイ1番地
最高経営責任者:ティム・クック

2.スマートフォン市場

日本におけるスマートフォンの出荷台数は年間3,000万台を超えており、このうちApple Japan合同会社の出荷するiPhoneの直近のシェアは46.5パーセントを占めている。

3.AppStoreの概要

(1)iPhoneは、AppStoreのみからアプリをダウンロードすることができる。アップルは、AppStoreに掲載するアプリが遵守すべきガイドラインを公表した上で、これに基づいてアプリの審査を行っており、アップルがガイドラインを遵守していないと判断したアプリはAppStoreへの掲載を行うことができない。

(2)アップルは、ガイドラインに基づき、デベロッパーがアプリ内でデジタルコンテンツの販売等をする場合、アップルが指定する課金方法(以下、IAP)の使用を義務付け、IAPを使用した売上げの15又は30パーセントを手数料として徴収している。

4.スマートフォンへの音楽配信事業、電子書籍配信事業および動画配信事業について

インターネットを通じて行われる音楽配信事業、電子書籍配信事業及び動画配信事業の各分野の市場規模は、それぞれ783億円、4,569億円、3,200億円。

スマートフォンへの音楽配信事業、電子書籍配信事業および動画配信事業では、著作権料等の負担が大きく、デベロッパーの努力によって費用を圧縮することが難しい状況にあるという。

この音楽配信事業等においては、アプリ内でデジタルコンテンツを販売等しておらず、ユーザーがウェブサイト等で購入したデジタルコンテンツを専ら視聴等することに用いられるアプリ(以下、リーダーアプリ)があり、これを活用しデジタルコンテンツ等をウェブサイトにおいてのみ販売等するデベロッパーも存在している。

なお、アップルは、音楽配信事業等において自らが運営するアプリを提供し、自らもデジタルコンテンツの販売等を行っている。

5.審査事実

(1)IAPの使用等について

● 事実
ガイドラインには、デベロッパーがアプリ内でデジタルコンテンツの販売等を行う場合、IAPを使用しなければならないことに加え、消費者をIAP以外の課金による購入に誘導するボタンや外部リンクをアプリに含める行為(以下、アウトリンク)を禁止することが定められている。

● 独占禁止法上の考え方
デジタルコンテンツ等はウェブサイト等アプリ以外の媒体でも配信されており、消費者は当該コンテンツ等を配信するデベロッパーのウェブサイト等を訪れて決済することも可能。

このように、IAP以外の課金による販売方法という選択肢が存在することは、デジタルコンテンツ等の価格を引き下げる効果を持ち得、消費者の利益となり得るものであるとのことだ。

上記および3(2)のような状況の下、アウトリンクを禁止する行為は、IAP以外の課金による販売方法を十分に機能しなくさせたり、デベロッパーがIAP以外の課金による販売方法を用意することを断念させたりするおそれがあり、独占禁止法上問題となり得るという。

● アップルからの申出
公正取引委員会がアップルに対して上記イの問題を指摘したところ、同社は、音楽配信事業等におけるリーダーアプリについてアウトリンクを許容することとし、ガイドラインを改定することを当委員会に申し出たとのことだ。

● 申出に対する評価
上記の申出により、デベロッパーは、リーダーアプリを活用することで、自らのウェブサイトへのリンクなどを表示することができるようになり、IAP以外の課金による販売方法の提供が妨げられる懸念が解消されるという。

したがって、上記の申出は、音楽配信事業等における独占禁止法上の問題を解消するものと認められる。

(2)その他の行為について

● 事実
多数のデベロッパーから、ガイドラインの記載やリジェクトの理由が不明確であるとの指摘。

● 独占禁止法上の考え方
アップルが、特定のデベロッパーを排除するなど独占禁止法上不当な目的を達成するために、AppStoreの運営事業者として、不透明な審査基準を用いるなどして当該デベロッパーのアプリをリジェクトする場合、独占禁止法上問題となり得る。

また、不当な目的でなくともアプリがリジェクトされることやAppStoreから削除されることは、デベロッパーの事業活動に大きな影響を与える。

ガイドラインの記述やリジェクトの理由が不明確であることは、デベロッパーの事業活動上の予見可能性を損ない、新規参入や投資を制限する効果を与えるものであり、競争に悪影響を与える可能性があるという。

● アップルからの申出
上記の申出に加え、アップルは今後、デベロッパーの予見可能性を高めるため、ガイドラインの明確化やアプリ審査の透明性の向上のための取組を進める。また、その取組状況について、3年間にわたって年1回、公正取引委員会に報告する旨を申し出たとのことだ。

6.同件の処理

公正取引委員会は、上記5を踏まえ、今後、アップルが申し出た上記5(1)の改善措置を実施したことを確認した上で同件審査を終了するとしている。