これまで、コンピューターは人間の文章を校正してきた。Wordを使ったことのある人なら誰でも一度は文章に赤い線を引かれた経験があるはずだ。
機械が当たり前のように文章を直してくれる時代に、サンフランシスコ発の文章校正ツール「Grammarly(グラマーリー)」が1億ドルを超える資金調達に成功している。
Grammarlyは自然言語処理やマシンラーニング技術を駆使して英文を校正するツールだ。2009年にAlex Shevchenko氏とMax Lytvyn氏が設立し、現在では1日およそ690万ものユーザーが利用するサービスに成長。
基本的な文法・スペルをチェックできる無料版に加え、文体に合わせた表現の提案、剽窃のチェックを備えた有料版が用意されている。有料版では「アカデミック」「ビジネス」「テクニカル」「メディカル」「クリエイティブ」「カジュアル」といった6種類の目的を選ぶことが可能だ。
ChromeやSafari、Firefox向けの拡張機能を使えば、FacebookやGmailといったウェブサービス上でも英文が自動で校正される。
効果的なコミュニケーションで人間の能力を引き出す
英文校正の技術が目新しいものではない今、Grammarlyが多額の出資を集められた理由はどこにあるのだろうか。Grammarlyの掲げるビジョンにそのヒントが隠されている。
General CatalystのHemant Taneja氏は「なぜ今スペルチェッカーに多額の出資をしたのか」と問われ、以下のように話す。
「『Grammarly』が取り組んでいるのは、人間をbotに置き換えるのではなく、人間が抱えている業務でより成果を出せるようにすることです(中略)人間が効果的にコミュニケーションを取るには才能やスキル、訓練が必要ですよね。誰しもが伝えることの難しさに直面したことがあるでしょう。そうした人間同士のコミュニケーションの複雑さが、能力を存分に発揮する機会を奪っていることもあるのではと考えています」
能力を最大限に活用するというサービスの思想はCEOのBrad Hoove氏もインタビューで強調している。
「我々のミッションは人々が十分理解し合うための手助けをすることです。そうすれば、課題解決のプロセスを加速させ、人間のクリエイティビティーを解放し、衝突を減らすことができる」
人間同士のコミュニケーションをより効率化するために、今後どういった機能を実現していくつもりなのだろうか。同社の共同設立者Lytvyn氏はWall Street Journalのインタビューに対し、会話のコンテキストに沿って最適なコミュニケーションを提案するシステムの開発により一層注力したいと意欲を語る。最終的には文中に書かれたジョークが適切かどうかを判断できるまで精度を高めていきたいという。
Grammarlyが仕事の生産性を高めるサービスであることは間違いないが、生産性向上を謳うアプリやサービスと大きく異なる点がある。コミュニケーションという評価の難しい曖昧な対象を効率化しようと試みていることだ。
効果的なコミュニケーションを実現するには時間や労力さえ削減できれば良いわけではない、成功したかどうかを測る明確な指標もない。そもそも効果的なコミュニケーションとは何なのだろうか。どうすれば互いに理解が深まった状況に至るのか、根本的な疑問は尽きない。
Grammarlyは同社のミッションを実現していく過程で、いったいどんな解答を示してくれるのだろうか。
img : Grammarly