日々の暮らしのなかにあるサステナビリティを紹介する特集「サステナブック」。第9回に登場するのは、小諸市農ライフアンバサダーとして活動する武藤千春さん。仕事よりも“暮らし”が中心になったと語る武藤さんが、東京と長野県小諸市での二拠点生活の魅力を紹介。
- 【プロフィール】
- 武藤千春さん
- 2011〜2014年にダンス&ボーカルグループで活動。現在はユニセックスストリートブランド「BLIXZY」のプロデュースをしながら、東京と長野県小諸市にて二拠点生活を送る。2021年に農ライフブランド「ASAMAYA」を立ち上げ、2022年に小諸市農ライフアンバサダーに就任、CHIHARU名義にて音楽活動も再開している。
東京と長野。“農”を楽しむ二拠点生活
——なぜ長野県小諸市にも拠点を構えたのかお聞かせください。
20代前半ぐらいから田舎への憧れがありました。でも東京でやりたい仕事もあるしどうしようかなと悩んでいた時に、祖母から小諸への移住の話が出たんです。東京から小諸くらいの距離だったら試しに週の半分くらい住んでみて、無理だったら辞めればいいかと軽い気持ちで始めました。
始めてすぐにコロナ禍に入ったので、仕事もほとんど小諸でできるようになってしまって、全然東京に行かなくても大丈夫じゃんって、気がついたら今3、4年ぐらい経っている感じです。夏の間は農作業があるので9割は小諸で過ごしています。
——二拠点生活を送ることで、ご自身にどのような変化がありましたか?
1番は時間の使い方が変わりました。20代前半の頃は仕事が忙しくて、食事も睡眠も作業でしかなく、暮らしを“楽しむ”という選択肢がありませんでした。体調を崩した時に「このままでは30代40代を走ることはできない。仕事とプライベートの環境を分けたい」と思い、東京と小諸を行き来する生活をスタートしました。
小諸に来てみたら、皆さん自分で家庭菜園をやられていたり、基本的にビニール袋をもらわなかったりといった選択をされているので、私もサステナブルな生活を送るようになりましたね。農作業を始めたこともあり、今では仕事よりも“暮らし”が人生の中心です。
——時間に余裕が生まれたことで“農”を始めたのですか?
そうですね。小諸では飲食店も早めに閉まってしまうので、東京に住んでいた時には考えられなかったのですが、何もしない時間が増えました。夕方の5時にはお風呂に入ってご飯を食べて、夜の8時には暇になるんです。
そこで “やらなきゃいけない”を減らして健康と向き合い、「本当にやりたいことは何だろう?」と考えたことが農を始めた大きなきっかけになっていると思います。
私なりのサステナビリティ
——ご自身が手がける農ライフブランド「ASAMAYA」では、どういった視点で取り扱う農産物を選んでいますか?
人ですね。地球温暖化が進み、北海道でレモンが作れたり沖縄でお茶が作れたりする環境になってしまったら、いずれ“産地の価値”というものがなくなってしまうと思うんです。温暖化を一気に止めることはできないので、産地を除いたときにどうしたら選んでもらえるのかを考えたら、「誰が選んで、誰が届けているか」という人の部分だと思いました。
一括りに「長野県産」と書かれていても、長野県には77の市町村があり生産者さん一人ひとりにこだわりがあります。野菜がおいしいのはもちろん、生産者さんも素敵なのにそれが伝わらないまま流通するのはもったいないので、ストーリーをお伝えできるツールを作ろうと「ASAMAYA」を立ち上げました。
——特にフードロスには意識を向けているのでしょうか?
かかりつけ農家さんが何人かいるのですが、「ちょっと曲がっているんだけど持っていく?」とか「小さいけど刻めば大丈夫だから」とか、スーパーでは流通しない野菜も一緒に買わせてもらっています。距離が近ければ近いほど選択肢って増えていくと思うので、生産地に住んでいる特権ですよね。持続可能な取り組みだと感じます。
——東京と小諸では、サステナビリティに対する考え方に違いを感じることはありますか?
そうですね。例えば、コンポスト(生ゴミなどを堆肥にすること)にしても、小諸ではどの家庭でも当たり前にやっていて、昔ながらの持続可能な暮らしをしている方が多くいらっしゃいます。
そして、みなさん第一の選択が消費ではありません。何かがなくなったり足りなくなったりしたら、代用したり直して使ったりしています。都会と農村ではそのあたりの考えや行動にギャップがあると感じています。
持続可能な社会という目的には共感しますが、個人的に「SDGs」や「サステナブル」といった言葉をファッション的に使いたくはありません。目の前の困りごとを1つ1つ解決していく——。その先に持続可能な社会があることが理想なので、小諸の生活から学ぶことはたくさんあります。
——今後、私たちはサステナビリティとどのように向き合うべきだと思いますか?
物事を選ぶときの主語を“自分”にしておけば、心地悪くなることはないと思います。例えばエコバッグにしても、誰かに言われて持つのではなく「このエコバッグかわいいから持ち歩きたい! ビニール袋を買わなくて済むしラッキー!」と自分の意思で選べば負担もないですよね。
まずは、求めているものを日々自問自答することが大切。他人基準ではなく自分の心と会話をすれば、本当に求めている暮らしの選択ができるはずです。それが積み重なるだけで、きっと地球や環境、社会にとっていいアクションが起こると思います。