近年、仕事に対する「価値観」に変化が起きている。

ひと昔前であれば、大企業に正社員で入社することが正解だという傾向があったが、時代とともにベンチャー企業やスタートアップ、フリーランスなど様々な選択肢が増えている。さらにリモートワークやパラレルワークといった働き方も普及し、採用市場は変革期を迎えている。

だが多様化するこれらの仕事の選択肢に自信をもって自ら飛びこんでいける者はまだ少ない。

筆者は約13年人事業界に携わってきたということもあり、就職や転職の相談にのる機会が多い。その中でも特に頻繁に聞かれる質問がある。

それは、「大手とスタートアップ(ベンチャー)、どちらに転職すべきか?」だ。

おそらく質問者の中には就職への「不安」があるためこの質問を聞いてしまうことが多いのだろうと感じている。

確かに聞きたいことをストレートに聞くことも時には必要だが、それでは適切な答えは導き出せない。

自分のキャリアを考える上で最も大切なのは、「何を聞くか」より「何を問うか」だと考えている。

これからの時代、ビジネスパーソンがキャリアを考えるうえで、どのように問いを立てるべきなのか考えたいと思う。

問いの立て方が解決の質を左右する

まず前提として、筆者は問いの立て方によって導き出される答えの質に差が出ると思っている。

例えば、有名な話に「ニュートンが落ちるリンゴをみて、万有引力の法則を発見した」がある。

このエピソードは、よくニュートンが落ちるリンゴを見てひらめいたような表現がされているが、実はニュートンが法則を発見するキッカケとなったのは、落ちるリンゴを見たことだけではなく、「空の月は落ちないのに、なぜリンゴは落ちるのか?」という問いを立てたからである。

ここで重要なのは、この2つの事実にある「差がなんなのか」を問うていることである。

おそらく「なぜリンゴは落ちるのか?」という問いだけでは万有引力までたどり着かなかったはずだ。

このように、どのような問いを立てるかによって、導き出せる答えの質に差が出るのである。

大手か、スタートアップか? 悩むその真意とは

冒頭にあった質問にもどるが「大手とスタートアップ(ベンチャー)、どちらに転職すべきか?」という問いには、2種類のパターンがある。

それは、この悩みのベクトルが内(自分)に向いている場合と外(社会)に向いている場合だ。

問いのベクトルが内(自分)に向いているというのは、「大手、スタートアップのどちらに転職したほうが、より不安がなく安心か」という、”自分の不安を取り除く”ために答えを探している状態である。

対して、ベクトルが外(社会)に向いているというのは、「大手、スタートアップのどちらに転職したほうが、より自分の力を発揮し貢献できるか」という自らの経験の活用法を探している状態だ。

このベクトルをどの方向に向けて問いを立てるかによって、転職や会社選びに関しても導き出せる答えの質が大きく変わる。

相談される側としても、問いのベクトルが内に向いている悩みを相談された場合、親身に質問に答えたい想いはあっても「最終的には自分次第ですよね」という答えにしか辿り着かないのだ。

“正しい問い”が自分のキャリアを導く

ではどのような問いを立てると良い答えが導き出せるのか。

それは、「過去の経験」と「将来なりたい自分像」の間にどのような差があるのか問いを立てることである。

そうすることで、「その差を解決できる企業がこの企業であり、それが結果的にスタートアップ(大手)だった。」という明確な答えが導き出せるだろう。

キャリアを考えるうえで大切なことは「大手か、スタートアップか」という2択の問いではないのである。

人にキャリアの相談をするときも同様だ。

例えば、単に「大手とスタートアップどちらに転職したほうが良いか?」という問いではなく、「今まで○○な経験をしてきました。

将来○○といったことをしたいと思っています。

大手とスタートアップのどちらが力を発揮できますか?」や「ビジョンに共感できる会社に転職したいんですが、大手の○○とスタートアップの○○ならどちらが自分の考えるビジョンにフィットしますか?」など、より自分と社会とをすり合わせるような問いの立て方をすることが大切だ。

そして、適切な問いを立てて企業を選ぶと、入社した後の納得感も変わってくる。

これはよく私も会社のメンバーに伝えていることだが、
「何が正解か?」という問いを立てるよりも「選択したものを正解にするためには?」という問いを立てようと話している。

人は常に正解を選択できるものではないし、選択肢がどれも正しい場合もある。

そしてそれはキャリアも同様だ。だからこそ、その時々に最適な問いの立て方次第でその状況は「間違い」にもなれば「正解」にもなるだろう。

文:熊谷 豪