世界中の人々を魅了するアニメーションと問われたとき、何を思い浮かべるだろうか。

年齢・国籍問わず多くの人々は『ピクサー』を思い浮かべるのではないだろうか。それもそのはず、ピクサーは1995年に世界で初めてフルCG長編アニメーションを制作した、世界の3Dアニメーションを牽引する存在だ。

そんな世界初のフルCGアニメーションは、皆さんご存知の『トイ・ストーリー』。2019年夏には、最新作の『トイ・ストーリー4』が公開された。最初のトイ・ストーリーから24年の歳月が経ち、歴史が積み重なるごとにCGアニメーションのクオリティが上がっていく。初めて見たときからリアリティに溢れた表現であったが、新しい作品を見るとまるで本物のおもちゃが動いているように見えるのだ。

これほどまで質の高い作品を作り上げるピクサーには、多くの優秀なクリエイターが活躍している。そして、その中に日本人クリエイターも複数人在籍している。

今回は、ピクサーで活躍する日本人クリエイターの一人、CGアニメーターの原島朋幸氏へ取材することができた。彼は最新作である『トイ・ストーリー4』の制作にも携わっている。そんな原島氏の役割を伺うとともに、ピクサー・アニメーション・スタジオの制作現場の“こだわり”についてお話を伺った。

原島 朋幸(はらしま・ともゆき)
米国アカデミー・オブ・アート大学の大学院にて美術学修士号取得。
2015年ピクサー入社、日本人のアニメーターとして、ピクサーの『アーロと少年』『ファインディング・ドリー』『カーズ/クロスロード』、『リメンバー・ミー』『 インクレディブル・ファミリー 』そして最新作『トイ・ストーリー4』 を手掛ける。現在六本木ヒルズ展望台東京シティビューにて開催されている「PIXARのひみつ展 いのちを生みだすサイエンス」では原島氏が携わった作品等の制作の裏側をハンズオン展示で学ぶことができる。本展覧会では、数々の魅力的なキャラクターが、どのように生みだされ、作品がどのように作られていくのか、実際のアニメーション制作の工程が体験できる。

世界最高峰のCGアニメーション制作会社ピクサーにおけるアニメーターの役割

原島氏がピクサーで担当するのは『アニメーター』という役割だ。
3DCGアニメーションは、CGでパペット(人形)を制作する。このパペットに命を吹き込み動かす仕事がCGアニメーターの仕事だという。

原島「アニメーションに登場するキャラクター達の意思が見えるように動かす、それがアニメーターの役割です。彼らが生きていたらどんな考えを持って決断して動くのか、例えばウッディだったら、自分がウッディになりきったつもりで作り込みます。キャラクターをただ動かすだけじゃダメなんです」

トイ・ストーリー4で原島氏が担当した一つに、オープニングの回想シーンがある。前作までのおもちゃの持ち主であるアンディが、自分の部屋におもちゃを抱えて入り、ベッドにおもちゃを置く。その後、おもちゃ達がアンディの妹の部屋に走っていくというシーンだ。

一瞬のように思われるこのシーンの中でも、キャラクターへ命を吹き込むことに全力を尽くすのがCGアニメーターの仕事である。

トイ・ストーリー4』 2019年 7月12日(金) 全国公開 ©2019 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

キャラクターの3Dモデルを作る『モデリング』、カメラやレンズの動きを決め、バーチャルの世界を構築する『カメラレイアウト』。作られたレイアウトをもとにキャラクターへ命を吹き込んでいく『アニメーション』。キャラクターの動きに合わせて細かい服の動きや髪の動きをつける『シミュレーション』。キャラクターたちのいる世界の視覚効果(雨、炎など自然の表現)を担当する『エフェクト』。照明や陽の光などの色や明るさを調整する『ライティング』。音や声をつける収録する『サウンド』。これら全ての要素をまとめて一つの映像として形にする『エディティング』。

一つのシーンを作るために、これほどの役割が存在し、多くの人が関わっているのだ。

エンジニアからCGアニメーターを志した異色の経歴

原島氏は、もともとアニメーターを目指していたわけではないと話す。
なぜ彼は、この仕事に就こうとしたのだろうか。

原島「大学4年生の時、『トイ・ストーリー』の1作目と『ジュラシック・パーク』を見て、映像制作に興味を持ちました。ですが、もともと理系の大学に進学していて、当時は映像制作に関わることになると全く思ってなくて(笑)大学卒業後はエンジニアとして就職したんです。興味はあったものの、どうやったら自分がこの仕事に関われるか分かっていなかったこともあって」

今でこそ、3DCGは当たり前の映像手法であるが、当時はちょうど出始めたタイミング。自主制作をするにしても莫大な金額を支払わなければシステムを用意できない時代だ。

そんな中、徐々にテクノロジーが発展していき、3DCG制作への敷居が少しずつ下がった。やがて日本でも学ぶことのできる場所が誕生することとなる。『デジタルハリウッド』だ。

原島「CGなら僕がエンジニアとして学んできたコンピューターの知識が活かせる、夢に見ていた映像制作をする側に回れるんじゃないかと思って。デジタルハリウッドの説明会に行ったら、いよいよその想いがクリアになってきて、僕がやりたいのはこれなんだと確信が持てました。そこから会社員を辞めて、CGを学び始めたんです。

そして、卒業制作として一人でショートフィルムを作りました。
作っていく中で、アニメーションとしてキャラクターを動かした時、自分の思ったように動いた時、すごく感動して。『僕はキャラクターを動かすCGアニメーターになりたい、なろう!』と思ったんです」

そこからの原島氏の行動力は計り知れない。デジタルハリウッド卒業後、CGアニメーションのルーツはアメリカだとアメリカへ留学。アニメーションのスキルを叩き込み、『ヒックとドラゴン』で知られるアメリカの映画制作会社ドリームワークスアニメーションで仕事をする。

その後、「やはり自分がCGアニメーターを志したきっかけとなるトイ・ストーリーを制作したピクサーで働きたい」と強く想い、2015年にピクサー・スタジオへの門を叩いたのだ。

「良いものを作りたい」このゴールが、観客を感動へと導く

ピクサー入社後、数々の3DCGアニメーションの制作に携わってきた原島氏。
世界最高峰と言われるCGアニメーション制作の現場で、原島氏が大切にしていることは何かと問うと、彼は「キャラクターが生きているように見せること」と話す。

原島「トイ・ストーリーという作品の中でも、様々なキャラクターがいます。キャラクターという定義を一括りにせず、人と同じように個性を持たせて、実際に生きているように見せる表現は特に意識している部分です。

おもちゃの重さや大きさ、プラスチックなのか金属なのか布なのか…そういった素材によって動きが変わってきます。そういった細かい部分を表現をするのはとても大変ですが、それがキャラクターの個性にも大きく結びついてくる。とても大事な作業なんです」

このように、それぞれのプロフェッショナル達がこだわりを持っているからこそ、時には監督と現場の間で議論になることもあるそうだ。

原島「制作中に違和感を持った場合、監督に意見を伝えることもあります。もちろん、ただ伝えるだけではく、監督がどういう意図で決定したのかも含めて話し合う。

制作したアニメーションに修正が必要な時も同様に、その修正の意図を把握することから始めます。修正してもクオリティに変化がないなら時間を割いてまで修正する意味があるのか、クオリティが少しでも上がるなら時間を割いてでも修正しようという考え方なんです」

ピクサーが作品作りにおいて目指すゴールは一つ「良いものを作りたい」、ただそれだけだ。そのゴールに向かって、原島氏含め多くのプロフェッショナルたちが活躍しているピクサーだからこそ、私たちを感動へと導いてくれる素晴らしい作品を作ることができるのだろう。

文:阿部 裕華
写真:西村克也