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2018年はビューティーテック元年と呼ばれ、「美容」×「テクノロジー」でさまざまなイノベーションが起こった。時代の流れを受け、「美容」×「テクノロジー」の領域で新たな挑戦をすべく立ち上がった美容系スタートアップ企業が、次々と進出を果たしている。
今回は、「ヘアケア」×「テクノロジー」で美容アップデートを起こしている株式会社Sparty(スパーティー)の代表取締役でもあり、日本初のパーソナライズシャンプー「MEDULLA(メデュラ)」を創り出した深山 陽介氏から話を伺った。
“パーソナライズ”という視点がヘアケアに与える新たな可能性、テクノロジーと対面接客の融合が引き起こす次世代のECついて語ってもらう。
- 深山 陽介(株式会社Sparty CEO)
- 大手広告代理店勤務を経て、2017年にSpartyを起業。自身のパートナーがシャンプー難民だったということをきっかけに、ヘアケアに対して問題意識を持つ。現在では、日本初のパーソナライズシャンプー「MEDULLA(メデュラ)」を軸としたサービスを提供する。
“先駆者”になることで、ヘアケア業界のアップデートを目指す
――深山さん、今回はよろしくお願いします。早速ですがこの記事で「MEDULLA」を初めて知る読者のために、簡単にサービスについてご紹介いただけますか。
深山:一言でサービスを伝えるのなら、パーソナライズシャンプーの提供です。シャンプーを入り口とし、お客様一人一人のスマホの中にあるサロンを目指します。Web上で答えてもらう“髪質”“なりたいヘアー像”など7つの質問から、自分に合ったシャンプーを提携しているOEM企業協力の下、100通りの処方から作り出し、お客さまの手元に届けます。
――“パーソナライズ”という点に注目した理由を教えてください。
深山:妻が“シャンプー難民”として、ヘアケアの悩みを抱えていたことがきっかけです。調べてみると、自身が感じているよりもシャンプーに問題を抱えている人が多くいらっしゃいました。
広告代理店で化粧品に関する業務を担当していたとき、海外ではすでに“パーソナライズ”が先行していたことも後押しとなり、“シャンプーのパーソナライズ化”は誰かがやらなければいけないと動き始めました。
――シャンプーなどのヘアケア用品は大手企業が市場を独占している印象です。スタートアップが参入する強みはどこにあるのでしょうか。
深山:“パーソナライズシャンプー”はスタートアップだからこそ作れたサービスです。それは、これまで業界で常識とされてきた製造・流通のあり方を覆す必要があったからに他なりません。現在、私たちの販売スタイルは“ECによる直接販売”です。
これは卸屋・店舗経由といった従来の流通構造とは異なります。時代の変化に対応できるデジタル企業を新しく生み出さないと、“パーソナライズ”のような新たなサービスを生み出すことは到底難しいと実感していたからです。
「スマホの中にあるサロン」提供したいのは“お客さまだけのサービス体験”
――MEDULLAでは“サービス体験”に着目した発売戦略がされていますが、具体的にどのようなことを実施しているのでしょうか。
深山:まず私たちが提供したいのは、「スマホの中にあるサロン」です。商品の購入はエンターテインメントだと考えています。だからこそECで買う場合には、店舗で体験するよりも、もっとお客さまたちが楽しめるような取り組みが必要だと思いました。MEDULLAでは、各ポイントにおいて購入された皆さんのテンションを上げる工夫が随所になされています。
――それはすごい。ぜひ、どのような工夫がなされているかを教えてください。
深山:MEDULLAを利用してくれる人によりハッピーをお届けできるよう、短期記憶や中期記憶に結びつくようなアクションを取り入れました。
例えば、製品カラーは意図的に色付けをしています。これまで、オーガニック・ボタニカルと言うキーワードが入るプロダクトはシャンプーの色が透明でした。ヘアカラーの長持ちを目的としたカラーシャンプー以外で、製品に色がつき始めたのはこの数年のことです。
また、箱を開けると選んだシャンプーの香りがかげるよう、一つ一つの箱に香りを吹き付けています。その他にはメッセージカードやボトルに、ニックネームを印字するなどして、届いたときにより満足していただける体験を意識しています。
――サービスを運営される上での工夫や強みは如何でしょうか。
深山:お客さまのフィードバックを元に、高速PDCAを社内で回していることです。
企業階層が大企業のように深いわけではないため、サービスに寄せられるお客さまのフィードバックやデータから随時アップデートしていけます。
TwitterやFacebookで拡散しやすいよう、シェアの方法も仕組み化しました。こうした反響が連鎖して、MEDULLAは口コミベースで順調に成長しています。
「O2Oの定義を変える」狙うはD2Cのゲームチェンジ
――今後ヘアケア業界において、どのような変革やチャレンジを起こしていきたいかについて教えてください。
深山:D2C(Direct To Customer)のあるべき姿を変えていきたいです。私たちはヘアケア業界において、オンラインで覇権を握りたいと思っています。
D2Cの定義を簡単にご説明すると、オンラインで売買していることです。そのためには“O2O(Online to Offline)”の定義を変えることが重要だと考えます。
今のO2Oはオフラインが強いです。それをSpartyはオンラインが優勢の盤上にしていきます。オフラインはどうするかというと、サービスに触れてもらう体験の場にすることで、商品を知ってもらう機会を増やします。
例えば、中国にあるLuckin coffeeはアプリでしか商品が買えません。彼らは1年間でO2Oビジネスのパネルを逆転させたユニコーン企業です。見事に店舗を“体験の場所”に変えました。これがD2Cのあるべき姿だと思います。
今後は私たちも、実店舗の運営や美容室との連携強化などによって、オフライン上にMEDULLAを体験できる場所をもっと作り出したいと考えています。そしてオンライン上の流入へと結びつけていきたいです。
――深山さんは、美容業界のテクノロジー化は今後どのように進むと思いますか。
深山:次世代美容業界に求められるのは“AIと人のハイブリット接客”だと思います。ホワイトカラーの仕事はこの先どんどんAI化するかもしれませんが、美容部員の仕事はAIに置き換わることが難しいです。
それはお客さまとの直接のコミュニケーションが必要だからに他なりません。美容や化粧といった商品購入の最終決定には人が関わるからこそ、そのぬくもりや、親身さが生きてくるのです。こうした要素がカバーできていればやり取り自体は対面でもオンラインでも問題ないと思います。
一方で判断基準やそのプラットフォーム形成においてAI化はますます進むでしょう。しかしあくまでもAIは判断資料にすぎません。提案は人が行うからこそ意味があります。人がサービスへの付加価値を付けるのです。
“色気”が引き寄せる人の連鎖
――Spartyのコーポレートサイトには“色気”というキーワードが上がっています。ここで言う色気とはどのようなことなのでしょうか?
深山:“色気”とは人を引き寄せる要素です。MEDULAに引き寄せられ商品を利用した人たちが、また別の誰かを引き寄せる。同時に色気は、素材が持つ魅力を引き立たせます。
今は、誰でも自分のブランドを作ることができる時代です。商品が世の中にあふれているからこそ、誰かとかぶってしまう。
色気はAIを使って世の中を合理的にしようとしている中、人の個性を生かして、人を結び付けようとします。それが色気の連鎖を生むのだとも思います。ご自身の色気をMEDULLAによって高めてもらえるとうれしいです。
――最後に今後の展望と目標について教えてください。
深山:今後はお客さまたちのフィードバックと合わせて、その人ごとの髪や頭皮情報から処方の提案をできるようにしていく予定です。
サービスを拡大していく中でも、“パーソナルライフ”という軸はぶらさず、ヘアケア以外にも体験を増やしていきます。実店舗でのサービス体験をはじめ、Googleカードなどを使って外部サイトから商品を購入できたり、ユーザーさんたちに向けて会員制サロンやコミュニティーを形成したりと触れ合う間口や機会を今以上に増やしていく予定です。
大量消費ではなく、直接つながる機会を増やして、「Spartyの体験、良いよね」とお客さまたちにこれからもおっしゃっていただけたらと思います。そういう意味では、ヘアケアのトップランナーでありたいです。
取材・文:杉本 愛
写真:西村 克也