3Dや2Dのキャラクター、イラストをアバターとして利用しYouTubeなどの動画配信サイトで動画配信を行うバーチャルタレントとして、2018年大きな話題となった「バーチャルYouTuber(VTuber)」。

日本のみならず世界からも注目を集める「キズナアイ」を筆頭に多くのバーチャルYouTuberがデビューを果たし、2018年12月時点でバーチャルYouTuberの総人数は6,000人を突破した。 2019年には総勢30人超のバーチャルYouTuberが出演するアニメ「バーチャルさんはみている」が放映されることを受けTwitterトレンドが世界1位になるほど、今後もさらなる注目を集めると予想される。

そんな新しいムーブメントを日本に巻き起こした企業をご存知だろうか。その企業の名はActiv8株式会社だ。“生きる世界の選択肢を増やす”を目標に掲げ、2018年5月にはバーチャルタレントの活動を支援するプロジェクト「upd8(アップデート)」を発足。前述した世界で最も有名なバーチャルタレント「キズナアイ」も参加しており、同プロジェクトは大きな話題を呼んだ。

このムーブメントを巻き起こした人物の一人こそ、Activ8株式会社の代表取締役、大坂武史 氏。本記事では、バーチャルタレントの誕生秘話から、ムーブメントを引き起こす手法などバーチャルタレントを通じて、新しい文化の形成の極意に迫っていく。

大坂 武史
Activ8株式会社 代表取締役
大学卒業後、web系のメディアやコンテンツを開発する会社にて営業、経営企画を経験。2015年、米サンフランシスコに本社を持つT-Rex Lab Co.の日本法人責任者就任。その後、2016年9月バーチャルワールドで生きられる社会を実現させるべく、Activ8株式会社を創業(代表取締役CEO)。「生きる世界の選択肢を増やす」をmissionに掲げ、バーチャルタレントのプロデュースやサポートプロジェクト「upd8」を企画、運営。1986年日本生まれ、好きなアニメは「攻殻機動隊シリーズ」「銀河英雄伝説」

Activ8が発足したバーチャルタレント活動支援プロジェクト「upd8」とは?


img:upd8 公式HP

Activ8が2018年5月に発足させたバーチャルタレント活動支援プロジェクト「upd8」。
バーチャルタレントのマネジメント・プロデュースを行う。

バーチャルタレントのマネジメントとは、upd8に参加するタレントをさまざまなビジネスに展開していくこと。プロモーションやIP活用を考えている企業と参加タレントをつないでいるのだ。 バーチャルタレントが生み出せる価値全てを事業と結びつけ、バーチャルタレントが当たり前の存在として社会から受け入れられることを目標に置いている。

そしてその参加タレントをプロのタレントたらしめるために行っているのが、バーチャルタレントのプロデュースだ。

このように同プロジェクトでは、新しいタレントの創出や、参加タレントが活動するのに最適なコンテンツの企画・制作・配信・運用など、バーチャルタレントがスタープレーヤーになるための支援をしている。

「個」の時代に着目し、新たなムーブメント「VTuber」の創出へ

このupd8の代表的な参加タレントの一人が「キズナアイ」だ。彼女は2016年12月YouTubeで動画投稿をスタート。瞬く間にバーチャルYouTuberとしての人気を博し、現在はYouTubeだけでなく幅広いエンターテイメントの場で活躍するバーチャルタレントになった。


A.I.Channel 公式YouTubeチャンネル

そんな彼女を発掘し、バーチャルYouTuberという新しい言葉を世に知らしめ、新しいムーブメントを引き起こしたのもActiv8株式会社なのだ。

なぜ、バーチャルタレントという存在を世に出そうと考えたのか。 それは大坂氏が感じていたアニメ・ゲーム業界の課題が鍵となる。

大坂:「Activ8を起業する前、僕はゲーム・アニメ業界にいました。この業界にいたことで、2次元コンテンツの持つ影響力、日本においての優位性、可能性を感じていたんです。

一方で、この業界のビジネスモデルは旧態依然だと課題に思っていて。その課題を打破するために何ができるか考える中、見えてきたのがキャラクターコンテンツの可能性でした」

近年では、作品という「全」が力を発揮するだけでなく、人(役者やタレント)といった「個」が力を発揮し作品を引き立てることが増えている。この時代の流れを受け、2次元も同様に作品に登場するキャラクター(「個」)が、情報を発信し視聴者とコミュニケーションが取れるよう進化を遂げるべきだと感じていた最中出会ったのが、YouTuberだった。

大坂:「彼らは動画配信を通して情報を発信し、視聴者とコミュニケーションを取っている。まさに今の時代に合ったフォーマットだと思ったんです。そして、キャラクターもYouTuberと同じことができるようになれば、よりキャラクターコンテンツの可能性が広がっていく。そう感じたタイミングでキズナアイさんと出会ったんです」

この着眼点が功を奏し、新しいムーブメントを引き起こしたのだ。

社会現象を巻き起こす鍵は「新規性」と「本格性」

新しいムーブメントを引き起こすこと自体、そう簡単なことではない。そんな中、バーチャルタレントをムーブメントにするために、Activ8が重要視したことが二つあると大坂氏は話す。

一つ目に「新規性」だ。

キズナアイが活動を始めた当初、バーチャルYouTuberという存在はいなかった。
だからこそ人気が出たともいえるだろう。

大坂:「僕たちが常に意識しているのはユーザーのニーズの“半歩先を行く”こと。ブルーオーシャンに飛び込むこと。

ユーザーが求めるニーズを最適化するだけでは月並みのモノしか生まれない。とはいえ、全くニーズのないところを攻めても誰にも注目されない。新しいモノであり、あったらいいなと思うモノを体現するかが重要だと思います」

人が想像もしていなかったモノと出会った時、ムーブメントが巻き起こる。だからこそ、顕在化されたニーズに迎合していくのではなく、思想から始める。新しい世界、新しいエンターテインメントという「新規性」をどう見せていくかを考え、彼らはプロデュースしている。

二つ目に「本格性」。

新しいモノがいかに本気であり、本格的だと、マジだと、ユーザーに思われることも重要であると話した。

大坂:「キズナアイさんがデビューした当初、一番気をつけていたのは動画の投稿頻度でした。YouTuberさんって基本的にほぼ毎日、頻度高くコンテンツを提供していて。そこからユーザーを獲得して、仕事につながって、再生数で収益を得ていた。

それと同じことを、本格的だとユーザーに思ってもらうために、キズナアイさんにも週5配信を頑張ってもらっていました。バーチャルタレントだからといって妥協せずに。」


YuNi – virtual singer -公式Youtubeチャンネル

2018年にデビューしたバーチャルシンガーの「YuNi」は、“新規性”と“本格性“をまさに体現している。

今までのバーチャルタレントはトークをメインの活動としていた。しかしYuNiに関しては違う。それまで当たり前とされていた動画上でのトークや前口上のようなものは一切ナシ、歌のみで活動を始めたのだ。

そこには「バーチャルタレントを代表する歌姫になりたい」という彼女の思いがあったから。

彼女の素晴らしい歌と、歌姫になりたいという真摯な姿勢からファンを獲得し、昨年の秋には全てのバーチャルタレントの月間ランキングで再生数がキズナアイに続き2位という成長を遂げた。

大坂:プロデュースする時は、タレント一人一人に目標を設定し公言することを推奨してます。そうすることでユーザーとのコミュニケーションのフックになります。

また、関わる頭数が多く、結果が出始めるまで時間を要するバーチャルタレントビジネスにおいて、軸がブレることなく、信じた道にチャレンジし続けることができる。僕たちもそのゴールを目指して、信じて、チャレンジしてプロデュースすることができる」

目標という軸があるからこそ、恐れずにブルーオーシャンに飛び込むことができる、それが彼らの強みではないだろうか。

新しい文化を形成させる一翼を担う「多様性」

2018年12月時点でのバーチャルタレントの総人数が6,000人にも上っている中で、サポートを必要とするタレントも少なくはない。 Activ8では自分たちでタレントをプロデュースするだけではなく、個人で活動しているタレントのサポートもupd8プロジェクトで行う。

upd8に所属するタレントは個性に満ちあふれている。女性のみならず、男性や動物、囚人といった異彩を放つタレントも参加している。

大坂:「タレントの多様性を僕らは重要視しています。現在は萌え系のバーチャルタレントが主流になっているけど、時代によってブームが変化するパターンもある。 新しいブーム、新しい文化を形成させる一翼を担うためにも多様性を重要視しています

そんな多種多様なタレントの持つ魅力を最大限に引き立たせるために必要な「テクニック」と、その魅力が埋没しないために必要な「スキル」のサポートをしていく。

大坂:「タレントに最適なコンセプトの設計や見せ方といった“テクニック”。ユーザーに見てもらうために必要なSEOの考え方、映像編集の方法、番組制作の方法、最適な動画アップ時間などタレントを伸ばすための“ノウハウ・スキル”をサポートすることもあります。

生身の人間ではないため、技術的観点やマーケッター的観点も磨く必要もある。そういったバーチャルタレントが活動していく上で必要とされるモノ全てを提供していきたいと考えています」

より良い番組を生み出してもらうため、Activ8本社に置かれる撮影スタジオを提供することもあれば、メディアへ出演してもらうため、テレビの話があれば積極的に声をかけることもある。

さらにタレントが継続して活動するため、企業契約やライセンス契約の方法といったビジネススキルをサポートすることもあるそうだ。

また、初めからプロを目指すタレントもいれば、自己表現の手段としてやっているといった趣味的に活動するタレントもいる。活動の目的をそれぞれ尊重しながら、タレントの輝くものを信じ、upd8はサポートを続けているのだ。

差別化を図るために重要な“三つの要素”とは

このバーチャルタレントのブームは恐らく今後もうなぎ上りに上昇していくことだろう。同時に今以上にバーチャルタレントが増加し、生き残りをかけた激戦の時代が幕を開けることも予想される。 この激戦時代の到来が予想される中、バーチャルタレントのプロデュース・サポートをするActiv8が今後差別化を図るための重要な要素を三つ語ってくれた。

一つは「音楽」だ。

大坂:「音楽そのものが強烈なコンテンツであり、人の心を動かし、影響を与えることができる。そのため、音楽ができることは優位性を高める。」

例えば、リアルイベントにおいて1~2時間トークをすることは至難の業である。しかし、音楽があることにより、会場を一体化させエンゲージメントを上げやすいのではないだろうか。

このように音楽は差別化を図る上で、重要なファクターになる。

二つ目は「複数での活動」。

最近では、有名なYouTuber同士がユニットやグループを作り活動をすることで話題になることも増えてきた。バーチャルタレントも同様に複数人で活動することで、表現の幅を広げられる。

大坂:「複数人の場合、一人だとできないトークの掛け合いや、一人ではできない企画ができる。より文脈が作りやすくなります。バーチャルの世界なので、複数人の企画は、いろいろ大変な面もあるのですが(笑)できるようになることで可能性がより広がると思います。」

三つ目に「最適なプラットフォームの選択」と語る。

バーチャルタレントだからといって、みんなYouTubeで動画投稿をする必要はない。

今はやりのTikTokだっていいし、最近だとSHOWROOMで活動するバーチャルタレントもいる。SHOWROOM独自のギフティングという仕組みを利用し、バーチャルYouTuberとは違ったタレントとユーザーの新しいコミュニケーションを確立させた。

大坂:「既存のやり方じゃなく、タレントに合ったオリジナルのコンテンツ作りや、コンテンツに合ったプラットフォームの選定ができる人は強い

さらに、VRやARなどデジタルを利用した、バーチャルならではの価値、表現を体現していくことが今後は重要になってくるし、僕たちも確立させていきたいと思っています」

バーチャルタレントから生み出される新しい時代

現在はエンターテインメント業界を中心に活動しているバーチャルタレントだが、今後は「人が求めるところならどこでも活躍できる」と大坂氏は述べた。

例えば「教育」の現場。最近では、ドラゴン桜の主人公・桜木建二がバーチャルYouTuber化したことが注目された。同キャラクターは作中において尊敬される人物であり、読者の心も魅了していた。このように尊敬できる人物から何かを「教わること」はとても価値あることではないだだろうか。

大坂:「自分の理想とする教育者から学ぶことで勉強の効率が上がる可能性もある。勉強に限らず、理想的な存在が必要な場所こそ、バーチャルの住人たちの居場所になってくると思う。バーチャル世界の住人が当たり前になる時代が来る

この新しい時代の到来が、Activ8が掲げる「生きるための選択肢を増やす」というビジョンを体現するのだ。バーチャルタレントはテクノロジーの塊であり、未来を体現している。

だからこそ、バーチャルタレントを通じて「未来に対し肯定的に関心を持ち、希望を持って欲しい」という思いが大坂氏にある。

大坂:「変化が加速している今、未来に不安を抱えやすい時代だと思うんです。でも、未来に希望を持てるからこそ今頑張れる。今頑張ることで未来を創っていくことができると僕は信じていて。

だからこそ、バーチャルタレントという新しい文化やワクワクする未来をエンタメ化することで、多くの人たちにバーチャルタレントを通じて未来の希望を与えていきたいと思っています」

どうしたら未来に希望を持てるかに目を向け思想から落とし込み、その思想を信じて、ブルーオーシャンに飛び込む。信じて頑張っている今が、未来を体現している今が幸せだと彼は語った。

取材・文/阿部裕華
写真/西村克也