現在、さまざまな産業でAIやIoTを活用した業務の効率化が試みられている。企業のみならず、政府や自治体、あるいは産学連携で日本各地においてその試みが進められている。

そしてその分野は、魚の養殖での取り組みも行われる。ウミトロン株式会社は、大分県と進める「平成30年度おおいたIoTプロジェクト推進事業」において、ぶり養殖における動産(養殖魚の在庫価値)の準リアルタイム評価・把握に向けた取り組みを開始した。

このプロジェクト「養殖産業におけるAI・IoT技術を用いたデータ経営実現プロジェクト」では、AI・IoT技術を活用して洋上の各生簀での動産評価を自動化することで、養殖業の経営に欠かすことの出来ないデータを継続的にみえる化し、経営へ役立てるための実証を行う。

現場の取得プロセスをIoTとAIで効率化

大分県とウミトロンは、7月27日付で採択済みの『平成30年度おおいたIoTプロジェクト推進事業』において、生簀内の養殖魚の動産価値(在庫価値)を準リアルタイムで評価・管理するためのシステム開発を進める。

水産養殖の現場では、洋上に設置した小割り生簀あたり数千尾の魚を飼育しており、水中を泳ぐ魚の資産価値を評価することは容易ではない。

これまで養殖現場における動産管理は、生簀内の魚を網で集めてタモ網などで掬い出し資産評価に必要なデータを手作業で取得する手法や、大型の水中カメラを洋上の生簀へ持っていき、取得した画像データを持ち帰ってから手作業で解析を行う手法が取られてきた。

ウミトロンは、これら現場におけるデータ取得プロセスをUmiGarden®の開発で培ったIoT技術を応用することで遠隔的に行えるようにするとともに、AIを用いた画像解析などの技術を用いて動産評価を自動化する取り組みを進める。

このシステムにより、養殖事業者は事業経営にとって重要な動産価値を準リアルタイムで取得できるようになるという。

また、ウミトロンは、準リアルタイムで取得できる動産データの活用方法として、実際の生簀内の動産に準じた養殖保険の設計検討を開始する。

現在の養殖保険は、継続的な動産評価・把握の難しさから、保険提供元が予め過去のデータを元に設定した資産価値を基準に提供されている。しかし、魚の成育速度は、稚魚の導入時期や生簀を設置した海洋環境、各生産者の事業戦略によって異なるため、実際の資産価値と異なる場合があるという。

そこで、ウミトロンでは、このプロジェクトで開発を進める準リアルタイムでの動産評価システムによって、継続的に取得できる生簀内の動産価値を活用する方法について、保険適用の観点から、検証していく方針だ。

今回のプロジェクト内では、大分県内の養殖生産者と連携して、各種データの取得を進める予定である。

同社では、生簀内の魚の資産価値を継続的に評価・把握することができれば、事業管理にとって有益となるばかりでなく、実態に即した保険や融資の際の評価などデータを活用したサービスを提供することで、経営の安定化にも寄与するという考えのもとプロジェクトを進めていくという。

産学連携でマダイ稚魚選別作業の効率化実験も

水産業においてAIやIoTを導入した取り組み例として、近畿大学水産研究所、豊田通商株式会社、日本マイクロソフト株式会社が実証実験を進めている「稚魚自動選別システム」がある。これは、これまで人手に頼っていた養殖現場でのマダイの稚魚の選別作業に対し、AIやIoTなどを活用した業務効率化を図るというものだ。

マダイの稚魚の選別は、目検と手作業で行うため、専門作業員の経験と集中力が高度に要求され、作業員自身への体力的負担が大きく、自動化が長年の課題となっていたという。

この実証実験はAIとIoTを活用した⾃動選別システムで、この課題を解決しようというものだ。

具体的にはベルトコンベア上の⿂影⾯積とその隙間の⾯積をマイクロソフトのAIを活⽤して画像解析し、⼀定⾯積あたりの稚⿂数を分析。さらに選別者の作業ワークロードを機械学習させ、作業のための最適値を割り出し、ポンプの流量調節作業を⾃動化するソフトウェアを試作した。

現在は実証実験を継続し、データの収集・分析を⾏うととともに、改良した制御システムを2019年3⽉までに本番環境に実装することを⽬指している。

第一次産業の「働き方改革」の実現が目の前に

水産業などの第一次産業の作業は体力や手間がかかるものが多い。AMPでも以前取り上げたが、水産業以外でも畜産業での取り組みもある。

こういった第一次産業の作業をIoTやAIで飛躍的に効率化させようという試みがいよいよ本格的化してきた。こうした作業の効率化によって、第一次産業における「働き方改革」の実現は目の前まで来ている。

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