ブロックチェーンの台頭により、私たちの身近なものになりつつあるフィンテック。日本はフィンテック分野において世界に遅れをとっている状況であることはよく言われている。しかし、その市場は世界で盛り上がりをみせている。

アクセンチュアの最新調査によると、フィンテックへの投資額は2017年に過去最大の前年比18%増の274億ドルとなっている。今回は、このアクセンチュアの最新調査をもとにフィンテックの投資状況をみていこう。

保険・銀行・証券業界のスタートアップへの投資が多数

この調査はベンチャー企業の財務データ収集・分析業務を国際的に行う、CB Insights社が提供するデータをアクセンチュアが分析したもの。これによると、2017年のフィンテック投資額は、米国が前年比31%増の113億ドル、英国は前年比約4倍の34億ドル、インドは前年比約5倍の24億ドルだった。

投資案件数に関しては、グローバル全体では2016年の約1,800件から約2,700件へと拡大し、昨年に続き、保険・銀行・証券業界のスタートアップ企業への投資が多く見られたという。

アクセンチュア金融サービス本部のシニア マネジング・ディレクターであるジュリアン・スカン(Julian Skan)氏は次のように述べている。

「成長の主な促進要因となっているのが、中国、ロシア、中東といった新興国からの新たな投資の流れだ。特に米国と英国ではその傾向が顕著に見られる。さらに、銀行におけるB2Bフィンテックモデルの成功事例も増えている。また、インシュアテック(InsurTech)のスタートアップ企業が急増している。インドでは、高額紙幣廃止後のキャッシュレス・サービスの力強い需要を受け、フィンテックが急成長する結果となった。」

2010年から2017年までのグローバルにおけるフィンテック投資額の累計は977億ドルに達し、そのうち米国のスタートアップ企業に対するものが54%を占めている。同期間におけるフィンテック投資額の年間平均成長率(Compound Annual Growth Rate)は47%であり、案件数でみれば35%で推移している。

アクセンチュア金融サービス本部のグループ・チーフ・エグゼクティブを務めるリチャード・ラム(Richard Lumb)氏は次のように述べている。

「金融サービスにおける新しいデジタル・イノベーションの需要拡大が、投資の増加に反映される結果となった。今後もフィンテックは、金融サービスの変革を支える重要な役割を担っていくと考えられる。英国ではEU離脱の問題により経済成長が鈍化し、産業の不透明感が増している。こうした国々にとって、フィンテック市場の活況は明るい兆しと言える。」

世界のトレンドを反映して、米国では融資・決済業務を行うフィンテックのスタートアップ企業に投資が集中しており、これは米国のフィンテック投資総額113億ドルの60%を占めている。

インド、米国、英国が世界的な成長をけん引

中小企業向けにオンラインで融資を提供する米国の「Kabbage」は、2017年に3度の投資ラウンドを実施し、単独で9億ドルを調達した。同じく、オンライン融資を手掛ける米国の「Social Finance(SoFi)」は2017年2月に5億ドルを、「LendingPoint」はクレジットラインにより同年9月に5億ドルをそれぞれ調達している。

スタートアップ企業が成長し、ビジネスの成熟度が増すにつれて、各投資ラウンドの金額規模は拡大傾向にあるという。また、企業の信用力を利用し、スピード感をもってさらなる成長を試みる企業も出てきている。

一方、英国では、デジタル保険会社「BGL Group」が9億ドルの資金を調達し、これにより同国内のフィンテック投資額は34億ドルに達し、過去最高額を記録した。なお、決済ベンチャーの「TransferWise」は、同国内で2番目に大きい2億8,000万ドルを調達した。

インドのデジタル決済スタートアップ企業の「Paytm」は、ベンチャーキャピタルから14億ドルの資金を調達し、これにより、インド国内のフィンテック投資額は2016年の約5倍にまで拡大した。また、インドのフィンテック投資案件数は、2016年の1年間で65%増加している。

その背景には、汚職対策のために中央銀行が高額紙幣の廃止に踏み切り、多数のインド国民がモバイル決算や「Paytm」などが提供するキャッシュレス・サービスの利用に移行したことが挙げられるとしている。

中国では投資案件数は増加。しかし、超大型案件は減少

2016年にはいくつかの超大型案件が、中国をベンチャーキャピタルの最大の投資先へと押し上げたが、2017年にはこのような案件は減少に転じた。

これは、超大型案件に多額の資金を投じた投資家たちが、その後の投資を控えたことによるもの。2016年には「Ant Financial」や資産管理のプラットフォームを提供する「Lufax」など、複数の企業が数十億ドル規模の調達ラウンドを実施し、中国国内のフィンテック投資総額は、過去最高の100億ドルを記録した。これに比べて2017年の投資総額は72%減の28億ドルとなり、平均投資額も2016年の1億8,600万ドルから1,900万ドルへと大きく減少している。

しかしながら、4月には不動産仲介業を行う「Homelink」が4億4,000万ドルを、6月にはオンライン金融会社「Tuandai」が2億9,000万ドルをそれぞれ調達するなど、国内では引き続き大型の投資も見られるという。

また2017年は、決済や融資業務を手掛けるスタートアップ企業が多額の資金を調達しており、どちらも全体の約30%を占めている。これに対して、保険関連サービスを提供する企業の資金調達額は全体の12%にとどまっているとしている。

日本では産官学が一体となった取り組みが必要

2017年のフィンテック投資額の対GDP(国内総生産)比でみると、日本は米国や英国、インドの30分の1程度にとどまっており、1年間の投資額は1億500万ドル、投資件数は24件だった。日本においてもフィンテック・スタートアップが多数起業し、金融機関や一部の大企業との協業が増加しているものの、日本の潜在力を引き出しきれていない状況といえると分析している。

アクセンチュア株式会社 常務執行役員 金融サービス本部 統括本部長 中野将志氏は次のように述べている。

「近年、米国などのフィンテック先進国の動向をみると、社会課題を金融機関がフィンテック企業とともに解決していくケースが見られ始めている。社会課題先進国と言われる日本こそ、この社会課題の解決に向けたフィンテックの活用に今後期待がもてる。そのためには、金融機関とフィンテック企業のみならず、産官学が一体となった取り組みも必要になると考える。」

Venmoを筆頭にP2P決済サービスが盛り上がりを見せる

最近では、フィンテックサービスとして金融機関も参入している。ミレニアル世代を中心に急成長を見せるVenmoを筆頭に、IT企業大手や金融機関によるいわゆる「個人間送金」であるP2P決済サービスがそれだ。

その代表的なサービスが「Venmo」だ。ユーザー数は公表されていないが、2016年最終四半期だけでトランザクションの累計額は前年同時期比126%に当たる56億ドルを記録した。

2013年に同サービスを買収したPayPalによると、Venmoによる送金の平均金額は1.5〜2.0ドル(2015年7月時点)。1ドル100円換算で150〜200円とかなり少額だ。この安さは、支払いの目的で食事代が最も多いことに起因しそうだ。

VenmoにはメールアドレスやFacebookアカウントでユーザー登録できる。銀行口座またはデビットカードを連携させることで、Venmoのデジタルウォレットにお金を出し入れできる仕組みだ。

お金を支払う相手はFacebookアカウントや電話番号で見つけるほか、今月リリースされた「Venmo Codes」でQRコードにも対応した。

若い世代にVenmoが魅力的に映る理由はそのシンプルな使い勝手もあるが、一部を除いて手数料無料で使えることが大きいだろう。クレジットカードで送金する場合だけ、3%の手数料が発生する。

Venmoのソーシャルな側面が若い世代を惹きつけているのだとすれば、FacebookやSnapchatといったSNSによるP2P決済サービス領域への参入は、ごく自然な流れだと言える。

Snapchatは2014年11月に「Snapcash」をリリースし、Facebookもまた2015年3月にFacebookメッセンジャー内で使える友人への送金機能をリリースした。どちらもデビットカードを連携させる仕組みだが、Snapcashが決済サービス「Square」を使っているのに対して、Facebookはシステムを独自に開発。双方とも、Venmoのようにお金を残高として残す仕組みはない。

また、2017年6月にP2P決済サービスへの参入を発表したのが、Appleだ。「Pay Cash」は同年秋のリリースを予定するiOS 11からサービス開始予定。ユーザーには、Apple Payの機能の一貫としてバーチャル口座が与えられ、銀行口座を連携させることでお金の入出金ができる。お金のやり取りは、友人知人とのコミュニケーションに使われるiMessageで行うこともあって、iPhoneでしか使えないという弱点がある。

Appleの競合であるGoogleもまた、2015年9月からAndroidとiOSの両プラットフォームで「Google Wallet」を提供している。クレジットカードを使った送金には手数料が発生するサービスが多いが、Googleは無料だ。

さらに、P2P決済サービスは他にも「Square Cash」や「Dwolla」、「Xoom」などいくつも存在する。

より大規模かつ次なるステージへ

今回の調査からわかるように、フィンテック投資額は年々増加している。中でも、米国、英国、インドが旺盛な投資意欲を見せているようだ。

この拡大に伴い同社では、「より大規模かつ次なるステージへの投資が行われつつある」(ジュリアン・スカン氏)と予測している。ここしばらくは、フィンテック投資活動から目が離せない状況が続きそうだ。

PR TIMES , Venmo