人間による利便性の追求に終わりはない――。
住環境を良くするための掃除や室内温度のコントロールは、掃いたり拭いたり窓を開けたりと、そもそも手作業によって行われるものだった。しかし、テクノロジーの進歩により家電が登場。さらに近年は家電自体が自動化、また通信による遠隔操作も可能になったことで、新たなステージへと移行している。
もはや人の手による「家電を操作すること」自体も、過去のものとなるかもしれない。そう感じさせるのが、三菱電機が新たにリリースするルームエアコン「霧ヶ峰」の新シリーズだ。
「霧ヶ峰」は1967年の登場以来、今年で50週年を迎える。近年の大きな特徴として挙げられるのは「ムーブアイ」と呼ばれる赤外線センサーを搭載していること。体の部位や部屋の温度をモニタリング(センサーの名称や検知範囲はシリーズによって異なる)し、快適な風を送り続けてきた。これだけでも十分に便利なシステムだが、ついにエアコンにも「人工知能(AI)」が搭載※されると発表された。(※FまたFZシリーズのみ)
独自のセンシングシステムとAI技術を融合
前述したセンサーは「ムーブアイmirA.I.(ミライ)」と新たに名付けられ、360°センシングによって人の温冷感・住宅性能・外気温(日射熱)・小さな熱源(家電など)を感知。これまで培われてきたセンサー技術を集約し、AIによる温度変化の予測が可能になった。
「先読み運転」と呼ばれるこの機能は、窓などからの外気温や日射量低下の影響で室温が変化する前に稼働し、体感温度の低下を防ぐ。暖めすぎず冷やしすぎない、また後追い運転によるリモコン操作や消費電力の無駄がなくなり、省エネ性能も高くなる。
例えば同じ部屋にふたりが過ごしているとき、どちらかがアイロンを掛けていたとしよう。ふたりの体感温度はかなり違ってくるが、「ムーブアイmirA.I.」は部屋中の温度変化を読み取り、両者に快適な風を吹き分ける。
稼働するほどに住環境のデータを蓄積、最適化していく
ではAI部分の性能はどうなっているのだろうか。特徴としては、断熱性や気密性、立地や間取りを分析することで環境変動の影響を予測できるのがポイント。マイコン部分に搭載されたチップによって制御しているとのこと。クラウドなどのIoTは現時点で利用しておらず、スタンドアローン型として稼働する。
ディープラーニング的な要素を備え、「使えば使うほど」住環境に適応し、予測の精度が上がる。例を挙げると、夕日が差し込み温度が上がりやすい部屋であれば、その時間になると温度が上昇しすぎないように先読み稼働。生活者が暑い・寒いを感じる前に先回りして空調をコントロールすることで、家電操作の手間を省くことに成功している。
これはロボット掃除機を代表するルンバなどと同様、家電の全自動化に通じる進化だ。冒頭で述べたように、家電はそもそも人間の住環境を向上させるために生まれたもので、その究極は何もせずとも家電自体が判断して稼働することにある。今回「霧ヶ峰」に搭載されたAIは、まさにそれを体現するシステムであり、人が寒暖を感じる前に空調をコントロールできるなら、電源さえ入れておけばOKということになる。
そういった意味で言えば、AIは家電との親和性が高く、今後の業界全体に与える影響は大きい。すでにAmazon Echoといった家電コントロールを音声で行うスマートスピーカーにはAIが搭載され、新たな機能性を獲得しつつあるが、テレビ・洗濯機・掃除機・冷蔵庫・扇風機などあらゆる機器にAIが搭載されることで、「霧ヶ峰」のような”何もしない”を実現する未来が待っているのかもしれない。