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お気に入りの服を着て気分が上がるように、お気に入りの家に住めば人生はもっと楽しくなる。
セレクトショップ「フリークス ストア」を手がけるデイトナ・インターナショナルが、アパレルの垣根を越えて住宅をプロデュース。ベツダイが展開する住宅ブランド「ライフレーベル」と協業し、「フリークスハウス」を今年7月にローンチした。
”なぜアパレル企業が住宅を?”と疑問に思うかもしれないが、実はそれ自体はそこまで珍しいことではない。衣食住のライフスタイル・プロデュースは、セレクトショップを中心とするアパレルカンパニーが標榜するところであり、服のほかに家具や雑貨、飲食店などを手がけている企業も少なくない。これまでも大手アパレルが、事業の一環として不動産に手を伸ばした例もある。しかし、これら不動産事業は長続きしなかった。その原因は明確で、カタチだけ”それっぽく”作っていただけだからだ。フリークスハウスもまた同じ道を辿るのだろうか?
資料請求は一週間で異例の1000件超え
フリークスハウスのディレクターを務める柴田恭亨氏は、フリークス ストアの店舗開発を手がける1人。出店計画から店舗設計まで行っており、今回の事業は社長から一任され、柴田氏の完全なるワンディレクションで話を進めたという。
「僕が本当に住みたい家を作りました。お気に入りの服を着て気分が上がるように、お気に入りの家に住めば人生はもっと楽しくなるはず。とはいえ家は簡単に買えるものじゃないので、つながりを楽しめる家で豊かな家庭を築いてほしいと願い、それこそ僕自身が人生を賭けて住みたい家をディレクションしたんです」
コンセプトやデザイン提案のみならず、フリークスハウスに関しては間取りから建材、家具や植栽のイメージまで、すべてを1人で監修したという。そこには経営戦略を超えた熱量、”素敵な家に住んで幸せな人生を歩んでほしい”という純粋な思いがあった。
そんな本気度が伝わったのか、人気セレクトショップが住宅を手がけた話題性からか、ローンチ後わずか1週間で異例ともいえる1000件を超える資料請求があったという。また、フリークス ストア公式インスタグラムで告知したところ、3時間で3000の“いいね!”を超えたとも。広告を打ったわけではないにも関わらず、注目度の高さに当人たちも驚いたそうだ。
あくまでも服屋が本業。家は僕らが提案するスタイルの集大成
アパレルブランドであるフリークス ストアが家を作ること。その狙いを単刀直入に聞いた。
「ビジネスとしては、我々の本業はあくまでも服屋。家や家具を売って儲けようとは思っていません。しかし、この家を作ることで、フリークス ストアはこんな家に住んでこんな暮らし方を提案していて、その上でこういった服を売っているのか、という背景が見えてくると思うんです。家を作ることは、そういったフリークス ストアの根っこの部分、自分たちの裸を見せるようなもの。アパレルブランドとしては勇気のいることですが、家を作ることで、よりコアなファン、僕たちの考えや魅力を正しく理解してくれるファンを増やしていくのが狙いです」
服が売れないと言われる現在、どんな人がそれを選んで仕入れているのか、どんな背景や意図でデザインしているのか、というところに価値を見出している人が増えている。事実、流行りの服はどれも似ていて、そういう商品を扱っても今は売れないと柴田氏は話す。
「だからこそ、こういう家を作っている我々が提案している服なんだよ、という説得材料になると思います。フリークスハウスは、フリークス ストアというアパレルブランドが提案するスタイルの集大成のようなものですね」
ファッションはデザインも大事だが、その背景にあるカルチャーやスタイルが重視されるため、これらを消費者に伝えることがアパレルブランドにとっての命題でもある。”服を売るために家を作る”ー服屋を本業とするフリークス ストアの意図が見えた。
フリークス ストアが提案するアメリカンライフスタイル
そもそもフリークス ストアは、「アメリカの豊かさを日本に伝えたい」との想いからスタートしたセレクトショップ。1986年の創業以来、”アメリカンライフスタイルの提案”を軸に、洋服や生活雑貨など、自分たちが本当に”良い”と想えるものを展開している。
フリークス ストアもまた、根底にあるアメリカンライフスタイルを色濃く反映しているのが特徴だ。アメリカンローカルハウスの平屋をイメージした開放的なリビングと、L字デッキで庭を囲むことで、室内と屋外の一体感を演出。吹き抜けで上下階の閉塞感をなくすなど、できるだけ仕切りを取り払い、家族がコミュケーションをとりやすい=家族が仲良くなれる家を目指した。
フリークス ストアが提案するアメリカンライフスタイルは、サーフやスケート、モーターサイクルといった一つのカルチャーに限定していない。この自由度の高さ、多様性がアメリカの魅力だと柴田氏は語る。
「ヨーロッパのように歴史や伝統に縛られず、好きなものは好きと言える強さがアメリカにはある。そういった自分たちの幸せを追求することでデザインが洗練され、結果的に機能がついてきて質実剛健なモノが生まれる。とはいえ古いものも大事にするヴィンテージカルチャーもあり、新しいことを生み出すチカラも持っている。そんなアメリカンカルチャーにどうしても惹かれるんです」
コミュニケーションをデザインしたフリークスハウス
先述したように、家族の結びつき、人と人とのつながりに重点を置いて作られたフリークスハウス。例えばキッチンは庇のあるカウンタースタイルで、まるでカフェを想起させるショップ感を創出。カウンター越しに人が向かい合い、家族や仲間が集まり、自然と会話が生まれる空間をデザインしている。
2階に上がったところには”SHARE=共有”をテーマにしたスペースを設置。サーフィンが好きならサーフボードを並べ、自転車が好きならメンテナンススペースに、趣味やライフスタイルに合わせて使い方を自在に変えることが可能。1階のキッチンスペースとつながりを持たせている点も、時間と空間をシェアする工夫のひとつだ。
キッチンからはリビング、デッキ、2階のシェスペースが見渡せる。家族の中心ともいえるママが、キッチンに立っていても子どもを見守ることができ、また子どもたちもママが見えることで、安心して思い思いに遊ぶことができるのだ。
住宅のブランディングが服へと帰結する
フリークスハウスは、延床面積116.45平米(35.22坪)、床面積は1階74.36平米(22.49坪)、2階42.09平米(12.73坪)、税抜価格1980万円。キッチンのタイルカラーやドアなどの建具は選べるものの、この間取り、このカタチ1種類のみで展開。ライフレーベルが展開する住宅ブランドの一つとしてラインナップされる。バリエーションを設けなかったのは、フリークスが提案するスタイル・コンセプトをより明確にするためだという。すなわち「この家に暮らす人が着る洋服=フリークスストアの洋服」だと明確化したのだ。
提案している洋服の背景にあるライフスタイルやカルチャーを、住宅を通して伝えることで、よりブランドを好きになってもらうのがフリークスの狙い。今後、洋服の購買に繋げるためには、自分たちの想いを理解してもらうことが、アパレル企業の命題なのかもしれない。
img:Takashi Akiyama