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大学4年生の頃、奨学金の返済に関する説明会が開かれた。周囲からは「こんなに借りてたの」と笑いまじりに話す声も聞こえた。
「独立行政法人日本学生支援機構」の調査では、奨学金の延滞者のうち申込手続きの前に返還義務を知っていた人は過半数以下だという。無延滞者の9割が理解していたのに対して著しく低い。
無知のせいでトラブルに陥ってしまわないよう、中学校や高校でも実用的なお金の知識を教えることが求められている。
必修の学校が16.4%?アメリカで進むファイナンス教育
米国では、金融リテラシーを高めるために、中学や高校でファイナンス教育を取り入れる動きが進んでいる。
ウィスコンシン州の「Oconomowoc High School」は、先日パーソナルファイナンスの授業を全生徒に受講させると発表した。授業では、クレジットカードの使い方や借地・借家契約書の読み方、投資、学生ローンの返済方法などを扱う。いずれも近い将来に生徒たちが必要になる知識ばかりだ。
同カリキュラムの監修を行なうJohn Flannery氏は「子どもたちには将来起こりうるシナリオに備え、知識やスキルを身につけてほしい」と必修化の目的を語った。
現在、米国内でパーソナルファイナンスを必修科目に定める高校は16.4パーセント程度だ。5つの州では同科目が全ての高校の卒業必修単位に含まれている。
かたや、日本国内では“実用的”な金融知識が授業で扱われる機会は限られている。『日本証券業協会』が金融経済教育について実施した調査では、「経済の基本的な仕組み」を取り上げる中学校・高校は半数を超えるが、「クレジット、ローン、証券」や「保険の働き」においては3〜4割に過ぎない。
現場の教師からは「知識は身に付くが、能力や態度が身に付きにくい」や「金利や金融商品の種類、リスクとリターンの関係など、実践的な知識が少ない」といった問題点も指摘された。
数は多くないが、すでに国内で実践的なファイナンス教育を進めた事例はある。2013年には、東京都八王子市の大竹高等専修学校が1年間を通してパーソナルファイナンスを教える授業を実施。受講した生徒のうち「お金に対する意識や行動が変わった」と答えた生徒は7割に達し、「実用的な勉強ができてよかった」と生徒からも好評だったという。
金融庁も中高生向けに副教材の提供や講師の派遣を行うなど、金融教育に積極的な姿勢を見せている。今後は国内でもファイナンス教育の実践が広がっていくかもしれない。
大人にも「金融リテラシー」が求められる時代
日本では学校でのファイナンス教育と平行して、大人も金融リテラシーの向上に努める必要があるだろう。
2016年に金融広報中央委員会が実施した「金融リテラシー調査」では、日本は米国や英国、ドイツと比べて正答率が低い結果となった。金融制度が異なるため単純な比較は危険だが、金利・複利やインフレ、住宅ローンにおいて日本人の知識が少ない傾向は明らかになっている。
また、保険やローンなど身近な金融商品に対する知識も十分とはいえないようだ。同調査では「金融取引の基本」に関する設問の正答率が70%を超えるのに対し、「保険」や「ローン・クレジット」など、身近な内容に関する正答率は50%程度だった。
金融庁は、国民が「最低限身に付けるべき金融リテラシー」の一つとして「適切な金融商品の利用選択」を挙げ、補償範囲を理解した上での保険加入や無理のない借入限度額の設定を呼びかけている。
FinTechとInsurTechで変わる“最低限”の知識
IT技術を駆使した新たな金融サービス「FinTech」が次々と登場する今、金融庁のいう「最低限身に付けるべき」の基準も常に変化していくと予想される。
例えば、金融庁は今年に入りビットコインを始めとする「仮想通貨」技術や、この仕組みを通して資金調達を行う「ICO(Initial Coin Offering)」について注意喚起を行なった。いずれの文書でも「リスクを十分に理解した上での利用が必要だ」と強調している。
・次世代の資金調達手段「ICO」を知るために抑えるべき5つのキーワード
最近はFinTechの勃興と平行して、保険分野でテクノロジーを活用した「InsurTech」も海外を中心に盛り上がりをみせている。
今後も発展が期待されるFinTech、InsurTechサービスの恩恵を誰もが享受するためにも、中高生から大人まで、基礎的な金融リテラシーの重要性は増していくだろう。