料理の工程を早送りしながら、テンポよく1分にまとめられた動画は、見ているだけでも楽しい。

食材を切ったり炒めたりする様子が全部動画でわかると、レシピ本やレシピサイトよりも料理手順を理解しやすい。普段料理をしない人にも受け入れられているのは、そのわかりやすさからだろう。

なぜ人々は料理動画に釘付けになるのか

「料理動画」領域には、様々なプレイヤーが参入している。海外から日本に上陸したTastemade Japan、BuzzdFeedが運営するTasty Japan、日本発のものではmogooDELISH KITCHENKurashiruなどがある。

それぞれのサービスは、Instgramだけでも48万〜140万フォロワーを抱えるまで成長し、早回しの料理動画はスマートフォン・SNS時代の一大人気コンテンツとなっている。

料理動画には、人の視線を釘付けにする快感のアルゴリズムが存在するように思える。早回し映像のテンポの良さ、料理の手際の良さは見ていて気持ちが良いし、音が無くても映像だけで十分に楽しめる。

動画の結末(=完成した美味しそうな料理)のイメージがあるから、最後まで見続ける心理的負担が低い。料理動画にある一定のお作法が、人間の根源的快感をもたらす要因となっているのではないか。

料理レシピ動画のマネタイズ手法

料理動画サービスを始める敷居は高くない。レシピと機材と料理ができる人がいれば始めることができ、参入障壁が低いために数多くのプレイヤーが存在する。料理動画サービスを提供する各社は差別化を図り、マネタイズ手段を模索中だ。

多くの料理動画サービスは、伝統的なメディアと同じくスポンサーを獲得し、広告やタイアップコンテンツを制作。InstagramやFacebookといったソーシャルメディアにコンテンツを配信している。

だが、この取り組みだけでは安定的な収益基盤になりにくい。なぜなら、プラットフォームの方針変更によって動画のビュー数が急減する可能性もあるからだ。複数のビジネスを展開することで、安定的に収益を上げる構造を構築する必要がある。

各社が着実に増やしてきたファンという「資産」をビジネスにどう活かすのか。以前AMPではTastyが開発したスマート調理器具「Tasty One Top」を紹介した。

「Tasty」のスマートフォンアプリとプロダクトをBluetoothで繋ぎ、アプリに蓄積された1700以上のレシピと連動。ユーザーの調理をサポートするという機能を持つ。

料理動画サービスを提供する各社は、新たなマネタイズ方法を模索している。その手段のひとつが、スマートフォンの画面を超えたリアルなユーザー体験の提供だ。

料理はしない。インスタ映えする食事の演出テクニック講座

mogooは、盛り付け・盛り合わせ次第でおしゃれな料理に見せる「mogoo 盛りつけワークショップ」を開催した。

このワークショップの特徴は料理をしないこと。コンビニのチキンとパンで作るパンケーキチキンバーガーや、フォトジェニックな『パワーサラダ』など、スーパーやコンビニで簡単に手に入る食材だけで、いかに美しく盛り付け・盛り合わせをして健康的かつフォトジェニックに見える食生活を演出できるかがテーマだ。

インスタ映えする撮影テクニックも講座に盛り込まれていた。キューピーが運営する「MORI MALL(モリモール)」とのタイアップで開催され、mogooのInstgramで参加者を募ったところ、1日に100件を超える応募があったという。

料理をすることより、「インスタ映え」な食生活を演出したいというユーザーのニーズを汲んだワークショップを提供することで、リアルな場での新しいユーザー体験を提供している。

Tastemadeは「食のウッドストック」と提携。イベント事業を本格化

Tastemadeは「スモーガスバーグ(Smorgasburg)」と提携し、定期的なライブイベントを行う道を選んだ

スモーガスバーグは、ニューヨーク・ブルックリンで毎週末に開かれるフードマーケット。かつてニューヨーク・タイムズが「食のウッドストック」と呼んだことでも知られている。出店者が提供する食事のクオリティが高く、かつ斬新なものが多いということで、年間150万人もの集客力を誇る。

ここに出店した屋台が注目を集め、実際の店をオープンするケースも多い。スモーガスバーグ自体が新しくフードビジネスを始めたい人にとって、見本市的な役割を果たしている。日本にも大阪・梅田で2日間の期間限定でスモーガスバーグが上陸した。

Tastemadeは、米国でスモーガスバーグが開催するコンサートやフードフェスティバルといったイベントのスポンサー権を販売することになった。すでに数多くの広告主と取引が進んでいるようだ。

Tastemadeはスマートフォンの向こう側にいるユーザーだけでなく、得られたブランド力を背景にリアルイベントに進出。広告主とユーザーとお店を繋ぎ、ビジネスを拡大中だ。

スモーガスバーグとの提携には、イベントに参加するフードベンダーやシェフを取り上げる動画の制作も含まれる。Los Angelsで開催されたスモーガスバーグのイベントの様子をレポートした動画は、Facebook上だけで170万回以上も再生されている。

Tastemadeは年間150万人が訪れるスモーガスバーグのユーザーをサービスに取り込むことができ、出店するフードベンダーやシェフはTastemadeの拡散力を活かすことで自身のフードブランドを広めることができるだろう。

収益源を分散させ、サービスの成長を目指す

食と料理のコンテンツは、全世界の人間に共通する興味関心事だ。SNSやスマートフォンで気持ちよく視聴できるユーザー体験を提供することで、料理動画サービスは急成長してきた。

蓄積したファンという資産を活かしてビジネスをするために、複数のプレイヤーが「体験」へと目を付け、行動をし始めている。

リアルイベントという体験コンテンツは、マネタイズのひとつの選択肢として注目ではないだろうか。

img : Smorgasburg, Tasty One Top, mogoo, Tastemade