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現代の私たちの文明は、プラスチックの上に成り立っているという。
今から5年前、2014年にはその1年間だけで、3億1100万トンのプラスチックが生産された。1964年には1500万トンだったため、プラスチックの生産量は50年間で約20倍に増えてしまった。
今後、2050年には2014年の3億1100万トンの50倍にまで膨れ上がると予想されている。
分解されないプラスチック。生物への悪影響も
プラスチックは加工がしやすく、利便性が高い素材であるが、環境に及ぼす影響が大きいため、その使用に関して長らく議論がなされてきた。
この問題の解決策のひとつとして、プラスチックの使用量削減があげられる。大手コーヒーチェーンのスターバックスが、2020年までに世界中の全店舗でプラスチック製ストローの使用を廃止すると発表したことなどが記憶に新しいだろう。
だが、現在生産されているプラスチックの中でリサイクルに回されているのは、全体のたった15パーセントのみ。ほとんどは、焼却処分、埋め立て、ポイ捨てされてしまうのである。
プラスチックは地中に埋めても分解されることはなく、処分するには焼却以外の方法がない。確かに、世界中でプラスチック使用の削減が進めば、焼却量は減るが、ゼロにはならない。焼却の際には有害物質が発生するため、プラスチックが存在する限り地球も生物たちも被害を受けることになる。
また、海洋に溜まった「マイクロプラスチック(5ミリメートル未満の小さなプラスチック片)」も問題視されている。これらを魚などの海洋生物が飲み込んでしまうと死んでしまうこともあれば、飲み込んだ魚が私達の食卓に並んでいる可能性もある。
今年6月には、オーストリアのニューカッスル大学が、世界の人々は週平均2000個ものマイクロプラスチック、クレジットカード1枚相当のプラスチックを摂取しているという研究結果を発表しており、私たちの体はプラスチックに確実にむしばまれている。
石油じゃない、植物由来の新プラスチック
そのような中、従来のプラスチックの代替品として注目を集めているものがある。
それは「生分解性プラスチック(Biodegradable plastics)」と呼ばれるもので、世界経済フォーラムが発表した「2019年の新興技術トップ10(Top 10 Emerging Technologies 2019)」のひとつに選ばれた、期待度の高い新プラスチック素材だ。
現在、私たちが使っているプラスチックは石油由来のものであり、前述の通り非分解性で、形をなくすためには焼却しか方法がない。そのため、生物への悪影響が問題となっており、将来石油が枯渇することも危惧されている。
これに対して、生分解性プラスチックは植物由来の素材であり、そのまま捨てられても地中で分解されるため、生態系や環境を損なうことがないと言う。とうもろこし・サトウキビや、廃油などの希少性の低いものが原料であるという点も注目されている。
特に、生分解性プラスチックの原料として有力なものが、「セルロース」と「リグニン」という2つの物質だ。
セルロースは炭水化物の一種であり、植物細胞の細胞壁・植物繊維の主成分である。地球上で最も多く存在する炭水化物でもある。リグニンは木材に含まれている。植物細胞が崩れないように強度・堅さを保っているのはこのリグニンのおかげである。
この2つの物質は非食用植物、そして豊かでない土壌に育つ植物からも採取できるという利点があり、セルロース&リグニン製のプラスチックは、とうもろこしなどで作られたものよりも強度が高く、見た目も幾分改善されたものになったという。
技術革新が実用化へ近づく
手に入りやすい物質から作ることができ、環境を損なわない生分解性プラスチックであるが、実用化にはまだまだ課題が残されている。課題解決に向けて、注目すべき技術を持ち、研究を行っている団体をいくつか紹介しよう。
インペリアル・カレッジ・ロンドンのスピンオフであり、「イオン液体」を低コストで生産するための取り組みを行っている。このイオン液体とは、イオンのみから成る溶剤のことであり、処理しやすくリサイクルしやすいというメリットがあるが、製造にとてもコストがかかるというデメリットがある。
生分解性プラスチックの原料となるセルロースとリグニンを採取する際に液体を使用するのだが、リグニンは液体に溶けにくい性質を持っている。だが「イオン液体」であれば、リグニンを分解できることが分かった。
これまでそのコストの高さのために、なかなか産業活用されなかったイオン液体であるが、Chrysalixは低コスト製造を実現して、将来的にはセルロースとリグニンを原料として熱・電気・物質などを生産することを目指している。
フィンランドに拠点を置くバイオテクノロジー企業。リグニンを含む物質からリグニンを取り出す(切り離す)酵素の遺伝子操作研究を行っている。取り出されたいリグニンは、幅広く応用ができる。
「The Friendly Enzyme Company=(環境に)優しい酵素の企業」というニックネームを持ち、バイオテクノロジー業界での受賞経験も持つ。Chrysalix同様リグニンに可能性を見出し、「今日石油から作られているものは、将来的には木材(リグニン)から作り出すことができる」と考えている。
アメリカに拠点を置く。前身は「Grow Bioplastics」。リグニン由来のプラスチック小球の開発を行っている。その小球は、生分解性プラスチックの植木鉢、畑で使うビニールシートをはじめ、様々な製品をつくる際に使用される。
生分解性プラスチックの実用化にあたって何よりも重要なことは、製造するための土地の利用、水の使用を最小限に抑えることである。特に、水は必要不可欠であるため、可能な限り無駄のない使用法を考えなければならない。
また、いくら環境に優しい生分解性プラスチックが開発されたとしても、好きなだけ使っていいわけではない。プラスチックの使用・廃棄における政策を打ち出して、一人ひとりの意識を変えていくことも必要になる。そうして初めて「循環可能な社会」に近づいていくのではないだろうか。
文:泉未来
編集:岡徳之(Livit)