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気候変動や資源制約といった地球規模の課題が深刻化するなか、食品業界でも「持続可能性と成長をどう両立するか」が問われている。そこで注目を集めているのが、動物性原料に依存しないプラントベース食品だ。世界のプラントベースフード市場は、Statista Japan「2015年度から2021年度までの日本における植物由来食品の市場規模と2025年までの予測」によると、2030年までに約21兆円に達すると予測されており、日本でもオーツミルクや大豆ミートなどの登場を機に認知が高まりつつある。
そのような流れのなか、米国発の次世代プラントベースブランド「エクリプス ミルク」は、2025年9月に日本市場へ本格参入した。日本市場進出についての戦略と、日本におけるプラントベースの可能性について、エクリプス・フーズ・ジャパン代表取締役の御宮知 香織氏に話を聞いた。

未成熟な市場だからこそ見えた日本の可能性
世界的に拡大を続けるプラントベース市場だが、日本は依然として発展途上にある。プラントベースに対する日本人の傾向として、御宮知氏は次のように語る。
「欧米では環境配慮や動物愛護を理由にプラントベースを選ぶ消費者が多い一方、日本では“おいしさ”や“価格”で購買を決める消費者が大半です。一方で、日本には“医食同源”という考え方が根付いており、食によって健康を支える意識は強い。健康効果への理解が広がれば、自然と需要は伸びていくと考えています」
さらに日本は約4人に1人が乳糖不耐症人口という調査報告※もあるなど、牛乳を飲めない層が一定数存在する。豆乳がすでに普及している点も踏まえ、植物性ミルクを受け入れる下地は整っている。御宮知氏は「日本は未成熟な市場ですが、競合が少ない“ブルーオーシャン”でもあります」と、その可能性を強調する。

※乳糖不耐症患者の牛乳漸増負荷による腹部症状軽減に関する検討 「よくわかる! 乳糖不耐」
体験を起点に、プロの現場から生活者へ
一般的に、プラントベースミルクはしばしば牛乳の代わりと見なされている。しかしエクリプス ミルクが目指すのは、代替ではなく“積極的に選ばれる存在”だという。そのための普及戦略の中心に据えるのは、カフェや外食産業などの専門家が提供するプロの現場だ。
「今回の日本展開では、コーヒーや紅茶、抹茶、ほうじ茶などと組み合わせることを前提に、複数の植物由来原料を組み合わせることで、クセのない味わいを実現しました。そのため、カフェラテや抹茶ラテでは、主役となるコーヒーや抹茶の風味を引き立てることができます。さらに、きめが細かくクリーミーなフォームミルクを長く保持できるので、カプチーノやラテアートにも最適です。まずはプロの現場に導入いただくことで、生活者へも“体験”を通じて広がっていくことを期待しています」

プロの現場で「違和感なく提供できる」ことを重視し、味と機能の両立を追求する。そして飲食店での消費者の体験を通じて、エクリプス ミルクへの選択肢を増やすきっかけを作るのだ。
さらに、こうした専門家の期待に答えるため、同社では現場の声を迅速に反映する「改善(KAIZEN)」の姿勢を徹底している。米国本社でも「KAIZEN」という言葉を合言葉に、バリスタやシェフからのフィードバックを開発に反映。最近でも「ラテアートを作りやすくしてほしい」という要望を受け、配合を微調整する改良を実施したという。
こうした社内文化も、プロに信頼され、消費者に「選ばれる存在」となるための土台になっている。

環境配慮を超えて、企業責任としてのサステナビリティ
エクリプス・フーズ・ジャパンの挑戦の背景には、味や機能だけでなく、サステナビリティの推進がある。
プラントベース食品は、健康志向だけではなく環境負荷の低さからも注目されている。同社が展開する植物性アイスの「エクリプスコ」は乳製品と比べるとCO2排出量を大幅に削減でき、カーボンフットプリントの調査機関の試算では従来のアイスと比べ約65%のCO2排出量の削減を実現している。
さらに、日本での取り組みについて御宮知氏は次のように語った。
「日本で流通する商品はすべて国内提携工場で生産しています。輸送時のCO2排出量を抑える取り組みの一環です。また、社内では製造・販売した製品によって削減できたCO2排出量を定期的に算出し、全社員に共有しています。これは単なる食品開発にとどまらず、“持続可能な社会にどう貢献するか”という企業責任の一部だと考えています」
ただ環境に優しい商品を届けるだけではなく、プラントベース食品を提供する企業として、持続可能な社会を築く責任を果たそうとしているのだ。
“代替”を超えた、新しい食文化の創造へ
プラントベースはこれまで「代替食品」として扱われてきたが、いまは「新しい選択肢」として存在感を高めている。エクリプス・フーズ・ジャパンはその先に、“積極的に選ばれる存在”となることを目指している。健康志向の高まりやカフェ文化の浸透を背景に、日本のプラントベース市場はこれから本格的な成長局面を迎えるだろう。
「私たちが提供したいのは、誰もが一緒に楽しめるサステナブルでエシカルな選択です。乳糖不耐症やアレルギーのある方も含め、全員が同じ食卓を囲める未来をつくりたい。そのために、エクリプス ミルクは“新しい食文化”を日本で根づかせていきたいと考えています」
市場の拡大は単なるビジネスチャンスにとどまらない。プラントベースは日本の食文化や産業構造を変える可能性を秘めている。エクリプス ミルクの挑戦は、その未来を象徴する一歩と言えるだろう。
