現代のデジタルマーケティングにおいて、SEO(検索エンジン最適化)は不可欠な要素である。しかし近年、生成AIやAIエージェントの台頭により、検索という行為そのものが大きな転換点を迎えている。GoogleのAI Overviews(AIによる概要)やChatGPTに代表されるチャット型検索は、ユーザーの「探す」という行動を「答えを得る」という行動へと変容させつつある。

この変革の波は、「AEO(Answer Engine Optimization)」という新たな概念を生み出した。従来のSEOが検索順位を上げることに最適化されてきたのに対し、AEOはAIがユーザーの質問に答える際に「どの情報を引用し、答えに組み込むか」を最適化する戦略である。

果たしてSEOは終焉を迎えるのか。それとも形を変えて生き続けるのか。国内SEOの第一人者であり、「海外SEO情報ブログ」運営者、そして株式会社Faber Company執行役員でもある鈴木謙一氏に、AI検索時代のコンテンツ戦略と未来への指針を聞いた。

【プロフィール】
鈴木 謙一氏
「海外SEO情報ブログ」の運営者。株式会社Faber Companyの執行役員(Search Advocate)。海外SEO情報ブログは、日本におけるSEOに特化型ブログの代表格であり、海外の最新のSEO情報を中心に、最近ではAI関連の情報も取り上げている。Faber Companyでは、セミナー講師や講演スピーカーとしても活動している。

検索行動は「ゼロクリック」へ。AIがもたらすユーザー行動の変化

GoogleのAI OverviewsやChatGPTの登場は、ユーザーの検索行動にどのような影響を与えているのだろうか。

「まず若い世代、いわゆるZ世代が生成AIを非常に好んでいる傾向があります。一つ明確に言えるのは、検索結果だけで完結する『ゼロクリック』が増えているということです。つまり、Googleで検索した際に、検索結果ページ上で必要な情報が得られるため、ヒットしたサイトに訪問しない行動が増えています」

AI Overviews掲出例

ただ、すべてのサイトや業種でクリックが減っているわけではなく、特定のサイトやジャンルなどによって差が見られるという。

「例えば不動産関係のサイトは、AIが物件情報などをまとめてしまうため、アクセスが大きく下がったと聞いています。一方で、運営しているブログは特にAIの影響によりアクセスが減ったということはありません。特に影響を受けやすいのは、短文で回答が完結する、いわゆる『〇〇とは?』といったようなコンテンツです。AIが要約してくれるので、そこで満足しわざわざサイトを訪れて読む必要がなくなるのです」

一方で、質の高いユーザーが絞り込まれてサイトを訪れる状況が起きている、という見方もできる。

「AIの要約だけでは満足できず、さらに詳しく知りたいという意欲があるユーザーがクリックしてサイトに訪問するため、結果的にコンバージョンにつながる可能性が高いのです。また、Googleのデータでも、生成AIの登場以降、検索するときの文字数が長くなっているという傾向も見られます。これは、生成AIではキーワードを入力するのではなく、自然言語で質問するため、その習慣が影響していると考えられます」

AI検索時代になっても「やることは変わらない」

このように、従来の検索が「リンクを辿る行為」だったのに対し、AI検索は「最適な答えを得る行為」へと変化している。その変化に対応する概念の一つとして登場したのが「AEO」である。しかし、鈴木氏はAEOという言葉に対し、懐疑的な見方を示した。

「我々のようなSEOに長年携わっている人間からすると、『AEO』や『GEO』、『LLMO』といった新しい言葉には正直、拒否反応が出てしまいます。こうした新しい言葉が出回ってしまうと、SEO業界全体がまた怪しいものだと思われてしまうのではないか、と。Googleもイベントの中で『やることは変わらないから、AEOとかLLMOとかは全く必要ありません。普通に良質なコンテンツを作り続けてください』と明言しています。なぜなら、AI検索もSEOの延長線上にあるからです。Googleの検索プロセスは大きく分けてクローリング(収集)、インデクシング(整理)、サービング(配信)の3段階がありますが、AI検索でもクローリングとインデクシングは従来の検索インフラと同じものが使われています。変化しているのは最後のサービング、つまりユーザーの質問に対して回答を生成する部分だけです。ですから、コンテンツの作り方を大きく変える必要はなく、AI検索であってもやるべきことの本質は変わらないのです」

Googleの検索プロセス

そのため、AIに引用されたり要約されたりする情報は、これまでのSEOにおいて重要だったことと変わらないという。

「SEOでも重要だったGoogleの評価基準、E-E-A-T(Experience:経験、Expertise:専門性、Authoritativeness:権威性、Trust:信頼)が、より価値を持つ時代になっただけです。さらに、AIにとっても人間にとっても、理解しやすいコンテンツの表現方法は変わりません。例えば、段落や区切りがなく、一文が長く続く文章よりも、ちゃんと見出しを作って、短い文章で構成されたもののほうが格段に読みやすいですよね。これは昔から言われてきたことですが、AI検索の登場でその重要性が改めて脚光を浴び始めたに過ぎません。つまり、『読者にとって読みやすく、信頼できるコンテンツを作る』という本質は、AI検索時代でもまったく変わらないのです」

だからこそ、Webサイトの担当者は、引き続き「ユーザーの意図をしっかり汲む」ことが重要だと強調する。

「検索意図に基づき、質の高いコンテンツを書いていくという基本的なスタンスは今後も変わりません。とはいえ、AI検索ではユーザーが自然言語で質問するため、その質問の仕方は人によって多様化します。したがって、コンテンツ側がすべての検索意図に対応することは不可能です。そこで、我々が意識すべきは、やはり『E-E-A-T』なのです」

「現在地」を知ることが、唯一の対応

これまでとやることは変わらない一方で、AI検索の進化に対し、「何もしなくていい」というわけではないと鈴木氏は語る。

「ChatGPTからのアクセスはたしかに増えていますが、流入全体で見ると、まだ1%未満です。もちろん5年、10年後はどうなるかわかりませんが、1%未満のものに対して慌ててなにかやるかと言ったら、それはやっぱりコストの無駄です。とはいえ、自身のサイトで生成AIからのアクセスがどれくらい増えているのか、あるいは増えていないのか、そういった現状を知るのは重要です。現状を知れば、急いで何か対応する必要があるのか、慌てる必要はないのかが明確に見えてくると思います」

Faber Companyでも、現状把握の手段としてAI検索に対応したモニタリングベースのGEOコンサルティングサービスを提供しているほか、AI Overviewsの計測やAI検索からの流入分析に対応した機能を、SEOツール「ミエルカSEO」に続々と追加している。

「やることは変わりませんが、それでも中長期的なブランドの露出やサービスの認知向上にこだわり、トライアンドエラーをしたいというお客様の要望に応える形で、モニタリングをベースとしたコンサルティングサービスをリリースしました。具体的にはAI Overviewsで、自社や競合のブランド名がどれくらい露出しているか、その露出状況がどう変化しているかを継続的に確認できます。ChatGPTやGeminiにも対応し、自社のブランド名がどれくらい表示されているか、そして情報源としてどのURLが採用されているかを分析も可能です。これらはあくまで現在地を知るための手段でしかありません。現状を把握することで、急いで何かをすべきか、まだ様子を見て良いのかを判断する助けになると考えています。我々のサービスは『AI検索時代だから特別なことをしなければならない』と煽るのではなく、まずは現状を知り、本質的なSEOをサポートしていくという考え方です」

さらに、AI検索時代においてはGoogleだけに頼らない「分散」がより重要になると指摘する。

「残念ながら、Googleを集客の中心に据えている限り、Googleに振り回されるのは宿命みたいなものです。それが嫌なら、集客の軸をGoogleだけに頼るのではなく、SNSやYouTube、TikTokなどにも分散させたほうがいいでしょう。例えばWebサイトに掲載した記事の内容をYouTubeの長尺動画にして、その短い版をTikTok用に編集して発信する。これも昔からある手法ですが、AI検索時代においてはさらに重要性を増すでしょう。AI検索は質問に応じて、記事や動画、SNS投稿など、さまざまなメディアタイプのコンテンツを拾ってくるようになるからです。仮にAI検索が普及してサイトへの直接流入が減っても、AIが他のプラットフォームにあるコンテンツを拾ってくれれば、露出機会をカバーできます」

技術に振り回されず、情報発信の「本質」を追求する

これからAI検索が普及する未来において、コンテンツ制作に携わる人や企業は、どのようなマインドセットを持つべきなのか。鈴木氏の主張は一貫して変わらない。

「結局のところ、技術に振り回されず、情報発信の『本質』を追求し続けることです。良質なコンテンツを作り、それをさまざまな手段で露出させ、信頼を築いていく。その重要性が改めて認識される時代が来た、というだけだと思います」

最後に、AI検索の浸透のきっかけとなったOpenAIが、Googleを超えることはあるのかを尋ねた。この問いに対して鈴木氏は、自身の個人的な見解を語ってくれた。

「私の個人的な考えでは、最終的に勝つのはGoogleだと思います。Googleは検索数も圧倒的ですし、GmailやGoogleカレンダーなど、あらゆるサービスでユーザーをサポートしていて、膨大なユーザーデータを持っています。そして何より、スパム対策において、Googleは20年以上の経験があります。今後、AI検索でもスパムがさらに増えてくる中、ユーザーが安心して使えるAI検索はどこかと考えたとき、やはりGoogleに軍配が上がる可能性は高いでしょうね。ただし、GoogleのUI(ユーザーインターフェース)は確実に変わります。従来の10本の青いリンクが並ぶ検索結果ではなく、AI Modeのようなまったく別の形になっているでしょう。いずれにせよ、集客を担うコンテンツクリエイターやマーケターは、この大きな変化を敏感に察知し、情報発信の本質を見失わないことが重要です。AI検索時代は、まさに我々にとって一つの大きな節目であり、改めてSEOのあり方を問い直す良い機会になるのではないでしょうか」

長年SEOの最前線で戦ってきた鈴木氏の言葉は、AIの進化に戸惑う我々に、変わらない本質を再認識させてくれるものだった。AIはあくまで情報を届けるための「手段」であり、最も大切なのはユーザーに寄り添い、信頼されるコンテンツを作り続けることだと感じた。

文:吉田 祐基
写真:小笠原 大介

※写真はすべてWeWork神谷町トラストタワーにて撮影