新世代のA(Action)面とB面(Business)に密着するインタビュー企画。第8回に登場するのは、はるあんさん。2024年4月に独立し、新たなスタートを切ったはるあんさんのクリエイターとしての価値観に迫ります。

【はるあん】
12歳で料理を始め、16歳でYouTubeチャンネルを開設。「おいしい動画」と題して、これまでに1000本を超える動画を投稿。料理やお菓子、パンのレシピなど、誰でも簡単に楽しくおいしく作れるレシピを提案しており、同世代の女性のみならず自身の祖母世代までの幅広い年齢層のファンから支持を得ている。19歳で初めての書籍『はるあんのとっておきレシピ(KADOKAWA)』を発売。発売前重版、Amazonランキングで1位を獲得。「料理は楽しい!」を伝えることをモットーにYouTube、Instagram等のSNSをはじめ、テレビ、イベント、料理教室などで活動中。

YouTube: https://www.youtube.com/@haruanne
Instagram: https://www.instagram.com/haru_fuumi
X: https://x.com/haruanne22
TikTok: https://www.tiktok.com/@haruanne22

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ずっと料理を好きでありたい。自分らしいレシピを発信|はるあんのA面

料理の楽しさを伝えたい。最初のハードルを越えるお手伝い

ーアカウントを運営する上で最も大切にしていることは何ですか?

常に食べ物や料理を軸に発信することです。例えば、キッチンで動画を撮影したり、SNSに写真をアップする際も、カフェで撮ったものや海でソフトクリームを持っているものにしたり。必ずどこかに食べ物や料理が関連するようにしています。

視聴者のみなさんが持つ「食べ物関連の人」というイメージから離れたくないという思いもありますし、個人的にも「食べ物が関連していたらアップする、していなければアップしない」というルールがあると、発信内容を判断しやすくなり、楽なんです。

ー発信する上でのコンセプトを教えてください。

何よりも料理の楽しさを伝えることがコンセプトになっています。

あまり料理をしたことがない方には「できるかもしれない」と思ってもらえたり、普段料理はするけれどこだわった料理は作らない方にも「これくらいなら作ってみようかな」と感じてもらえたりするようなレシピを考えています。

ハードルは少しでも低い方がいいじゃないですか。小さなことから始めて、成功体験を積み重ねることで、料理をすることが楽しくなり、いずれは自分から作りたくなるくらい好きになってもらえたらいいなと思っています。だからこそ、まずはその最初のハードルを超えるお手伝いをしたいと考えています。

また、料理が得意な方でも、手軽に作りたい時ってありますよね。簡単でハードルの低いレシピを常に発信することは、そういった方の役にも立てると思っています。

ーそうしたレシピを考案するために、どのようなことを意識していますか?

食材や調味料、手順をできるだけシンプルにすることです。例えば、「カレー粉」ならスーパーでも手に入り、多くの家庭にあると思いますが、「クミン」と言われると一気にハードルが上がりますよね。こうした難易度を上げすぎないように、使う材料には気を配っています。

どうしてもハードルが高くなりそうな調味料を使いたい時は、あえてそこを押し出して「特別感」を演出することもあります。さらに、材料や手順が多すぎる場合は、省略できる部分を見極めて、よりシンプルにできるレシピを考えるようにしています。

YouTubeを始めて、人生の選択を許された

ーインフルエンサー活動を始めた当初に直面した最大の挑戦は何でしたか?

高校生の頃に動画投稿を始めたのですが、それまで動画を撮ったこともなければ、パソコンを触ったことすらありませんでした。

本当にすべてが挑戦で、特に動画編集は試行錯誤の連続でした。父の古いパソコンを使い、「YouTube アップロード方法」といった基本的なことを一つ一つ調べながら、なんとか動画を作っていました。でも、パソコンのスペックが低く、当時のYouTubeのシステムも今ほど整っていなかったので、動画を書き出して投稿するだけで丸一日かかることもありました。ただ、毎日が挑戦の連続だったことが刺激的で、逆にやめられなかったのかもしれません。

ー一つ一つ調べながら試行錯誤を続ける中で、途中で諦めてしまう人もいるのではないかと思います。なぜ乗り越えられたと思いますか。

そもそも、動画投稿を始めたのは学生生活では得られない刺激を求めていたからでした。パソコン使うこと自体が新鮮でしたし、当時は動画を撮ることが今ほど一般的ではなかったので、すべてが刺激に満ちていました。だから、頑張ったというよりも、のめり込んだという感覚に近いです。むしろ、熱中しすぎてしまったくらいなので、必ずしも良い話ではないかもしれません(笑)。

ーその挑戦を乗り越えた経験からどんなことを得ましたか?

ラッキーなことに、YouTubeが評価されたことでいろいろな人に出会え、確実に世界が広がったと感じています。それまでは、大人といえば両親や学校の先生、塾の先生くらいしか接点がありませんでした。でも、YouTubeを通じて事務所や企業の方と会うようになり、少し早く社会を経験することができました。YouTuberになったから人生が変わったというわけではありません。YouTubeを始めたことで、初めて「自分の人生の選択を許された」という感覚を得られたことが、何より大きかったです。

カギは「お互いをどれだけ近くに感じられるか」

ー視聴者とのつながりを強化するために特に重要視していることは何ですか?

視聴者はみんな友達のような存在だと思っているので、私自身も遠くにいるとは思っていませんし、視聴者にもそう思われたくないんです。だからこそ、飾らない自分を見せるというか、それすら意識しないくらい自然体でいることを大切にしています。自分を良く見せようと意識すると、視聴者との距離が生まれてしまう気がします。それは私も望んでいませんし、きっと視聴者も同じだと思います。だから、近所に住んでいる人くらいの感覚で、視聴者のみなさんと接しています。

ーファンのフィードバックをどのように取り入れていますか?

主婦の先輩などから「もっとこうしたら簡単だよ、美味しいよ」とフィードバックをいただくことが多く、それがとても面白いんです。いただいたアイディアは、まず私自身が日常に取り入れてみて、良かったらみんなに伝えることが多いです。だから、視聴者の声がすぐ動画に反映されるというよりも、私の生活を経由して、視聴者に届くようなイメージですね。

私ひとりだけでは思いつかないこともたくさんありますし、そうした知恵を共有してもらえること自体が嬉しいです。そして、それをまた別の誰かに伝えられることで、結果的に視聴者のためにもなります。みんなでぐるぐる回していくことで、みんなが嬉しい状態にできるんじゃないかと思っています。

ーエンゲージメントを高めるために行っている具体的な取り組みにはどのようなものがありますか?

コメントに反応を返したりはもちろん、メンバーシップ内でパン教室を開催したり、クリスマスパーティーをしたり、リアルのイベントも積極的に開催しています。こうしたイベントは、参加した人たちにとっての特別な体験になるだけではなく、開催をお知らせしたり、開催したことを報告したりすることを通じて、視聴者全体のエンゲージメントが高まるような感覚があります。

視聴者も私自身も、お互いをいかに近く感じられるかが、エンゲージメントを高めるカギだと思うので、イベントの開催を通じてみんなの気持ちが一緒に盛り上がるのが理想ですね。

オンリーワンのコンテンツを目指して。自分軸のある発信を

ー動画コンテンツを作るにあたって、どのようにメニューを考えているのですか。

季節やイベントも考慮しますが、基本的には自分が作りたいものや食べたいものから広げていくことが多いです。まずは自分を軸に考えて、次に「みんながどう思うか」を考えて試作し、もう一度見直してレシピを完成させていきます。世の中にはすでに良いレシピや簡単なレシピがたくさんあるので、自分軸がなければ発信する意味がないと思っています。だからこそ、自分らしさを大切にしたレシピ作りを心がけています。

ー自分軸や自分らしさはどのようなポイントで出していますか?

私はズボラなタイプなので、いかに手を抜くかが自分らしさの出るポイントです。例えば、「オーブンシートはきっちり敷かなくていい」「これを買えばオールOK」といった具合に、料理に対するハードルが下がるポイントを伝えることを意識しています。

料理は楽しく続けられることが大切なので、視聴者にも「ここは手を抜いても大丈夫!」という視点を共有できるのは、私だからこそできることだと思っています。

ー視聴者の関心やトレンドをどのように把握していますか?

最近は、あまりトレンドを追わなくなりました。もちろん、新しい方に見てもらうためにトレンドを取り入れることも重要なのですが、今はオンリーワンのコンテンツを目指したいと思っています。私らしい良いコンテンツを作れば、刺さった方が長く見続けてくれますし、熱量も高く見続けてもらえると思うんです。

自分の利益だけでしない、みんなのためのコラボを

コラボレーションしたいブランドや企業はありますか?その理由も教えてください。

私が好きなブランドのSamansa Mos2(サマンサモスモス)と、エプロンを作るコラボレーションをしてみたいです。服屋さんにエプロンがあったら最高だと思うんですよ。そのブランドの服が好きな方が気に入りそうなエプロンが置いてあれば、毎日身につけたくなって、料理のモチベーションも上がるのではないかと思います。通年で置いていなくても、バレンタインやクリスマスなど料理をしたくなる時期だけでも販売されていたら、すごく素敵だなと思います。

ーコラボレーションを選ぶ際の基準は何ですか?

まず、私自身が好きかどうか、または初めて知ったとしても気に入るかどうかが一つの基準になっています。「これだ!」と思えないものとは、あまり積極的にコラボレーションは考えないですね。ただ、私が求めていなかったとしても、視聴者のためになると判断した場合はコラボレーションをすることもあります。

コラボレーションでも案件でも、自分の利益だけでするものではないと思うので、常に自分中心ではなく、視聴者にとって価値があるかどうかを考えて決めるようにしています。

ー過去のコラボレーションで特に成功したと感じるプロジェクトはありますか?その成功の秘訣は何だと思いますか?

一番面白かったのは、農林水産省とのコラボレーションです。コロナ禍で牛乳が大量に余ってしまっていた時に、農林水産省の方が牛に扮して登場し、一緒に話をしながら牛乳を使ったレシピを紹介する動画を作りました。当時、省庁とYouTuberとのコラボレーションは珍しかったですし、まさか農林水産省の方が牛になるとは思わないじゃないですか(笑)。視聴者も驚いていましたが、動画を見たらさらに面白いというのが良かったですね。お互いに未知とのコラボレーションでしたが、視聴者のためにもなりましたし、プロジェクトを作る側もみんなが楽しんで取り組めたプロジェクトでした。

料理を起点に、まだ見ぬ道を切り拓きたい

ー今後取り組みたいと考えている新しいプロジェクトにはどのようなものがありますか?

大きく2つあります。1つ目は、手軽に見られて、多くの人のためになるコンテンツを作ること。そして2つ目は、現在取り組んでいるオリジナルチャイを広めていくことです。どちらも、自分の感覚と視聴者の反応を大切にしながら育てていきたいと考えています。ゴールを決めて突き進むよりも、まだ見ぬ道を切り拓いていきたいですね。

ーその先で目指す未来像があれば教えてください。

私の一番の目標は「料理がうまくなりたい」なんです。そのためには、料理を仕事にして、毎日料理ができる環境を作る必要があると考え、SNSを始めました。その目標に向けて料理を楽しんでいく中で、自然と料理の楽しさを伝えられるようになり、視聴者の皆さんにも届けられるようになったと感じています。より多くの人に料理の楽しさが伝わるように、どんな動画を作るか、どんなことに挑戦するのかを考えながら広げてきたので、それをこれからも続けて、もっとパワーアップしていきたいです。

ー2024年4月に独立されていますが、それも広がりにつながっていますか。

そうですね。事務所に所属していた頃は、本当にお世話になっていました。支えてくれる大人の方々がいて、私のことを理解しながら進めてくれる安心感もあり、すごく楽な環境だったんです。だからこそ、「このままではいけない」と思い、独立を決意しました。

ただ、ある意味損したかもしれません(笑)。やることは増えましたし、収入が大きく増えたわけでもない。でも、人生という単位で見れば、確実に自分の成長につながっているし、世界が広がったと感じています。

独立を選択して新たな取り組みを広げるはるあんさんは、まさに新たな未来を切り拓いている真っ最中だ。「何も考えないようにしている」と取材で語っていたが、何も考えなくとも目標に向かって確実に進めているのは、やはりはるあんさん自身にしっかりとした軸があるからなのだろう。料理を軸と未来に置いて日々料理を続けながらも、それをただ純粋に楽しんでいるからこそ、多くの視聴者に応援・共感されているのかもしれない。

文:安藤 ショウカ
写真:小笠原 大介