交通機関や公共施設のバリアフリーなど、障がいのある人々にも優しい設計の試みはいたるところで見られる。そのような分野で今注目を集めているのが、ゲーム業界だ。

「アクセシブル・ゲーミング」というコンセプトで、手・指など身体的な障がいゆえ、動きが制限される人々がゲームを楽しめるような商品、ゲームデザインなどを指している。

「アクセシブル・ゲーミング」実現のため、どのようなゲーム作りに挑んでいるのか、またゲーム業界のリーディング・カンパニーの商品などを紹介する。

大きな可能性を秘めたアクセシブル・ゲーミング

米国の障がい者ゲームプレイヤーの支援団体AbleGamersによると、米国内だけでも障がい者プレイヤーの人口は約3300万人にもなるという。また、イギリス人の障がい者プレイヤーでジャーナリストのヴィヴェク・ゴヒルによれば、プレイヤー人口のうちの約30パーセントはなんらかの障がいを抱えているそうだ。

そのため、ゲーム会社にとって、彼らが参加できないゲームがある状態を放っておくことは得策ではない。逆に言えば、障がい者ゲーマーに優しい商品の開発に力を注げば、さらに多くの人々を取り込むことができる。

すでに、障がい者ゲーマーの中でも、そのゲーム技術を駆使してゲーム動画のライブストリーミングで収入を得たり、e-ゲームの大会に出場し賞金を得ている人々もいる。障がい者が楽しむことができるゲームは以前よりも増えているが、彼らには適さないゲームがまだあるのも事実だ。

例えば、プレイステーション4でもプレイできる「Oculus Rift(オキュラスリフト)」では、プレイヤー自身の動きをスキャンしてそれを画面に映し出し、コントローラを手で持ち、指でボタンを高速連打するなどしてゲームを楽しむ。だが、そこにあるのは不自由なく体を動かせるという前提条件であり、身体障がい者にとっては壁となるのである。

Oculus Riftのようにハードウェア自体が障がい者プレイヤーに適さないという場合もあれば、ゲームソフトの方に改良の余地がある場合もある。2018年に発売されたゲームを例にとって紹介しよう。

Xboxから発売されている、小さなドラゴン・スパイロを主人公とした『Spyro Reignited Trilogy』には、字幕機能がついていなかった。字幕は聴覚障がい者がよりゲームを楽しむために必要なもので、多くのゲームソフトには含まれている機能であるにも関わらずだ。

任天堂から発売されている『ポケットモンスター Let’s Go! ピカチュウ・Let’s Go! イーブイ』もまた、ポケモンを捕まえる際に、巧みなコントローラー操作が求められるゲームであり、身体障がい者が同じようなパフォーマンスをすることは困難だ。

「アクセシブル・ゲーミング」という考え方は、2018年以前はまだ主流ではなかったのだ。

どのようにアクセシブル・ゲーミングを実現するのか?

まず、ゲーム・デザインの段階でできる工夫がある。ゲームに含まれる要素である映像・音などを際立たせるのだ。

「Game engines」というゲーム製作ツールは、アクセシブル・ゲーミングに一役買っている。そのツールのひとつ「Unreal Engine4」には、色盲の人々にとってゲームの映像がどのように見えているかを示す機能がある。ゲーム製作者たちはその機能を用いて、より多くの人々が楽しめるように、入念にゲーム・デザインをしていくのである。

また、クリアで特徴ある「音」は、視覚障がい者プレイヤーにとってゲームの状況を把握する大事な要素である。『Killer Instinct』は、毎年行われるe-スポーツの大会などで競われているゲームだ。その音作りをしているのは、英国アカデミー賞受賞経験もあるサウンド・デザイン・スタジオ「Creative Assembly」。視覚障がい者のベンという青年は、ゲーム内で何かが動く「サッ」というかすかな音も聞き逃さず、それから状況を把握するという。一流の音職人の仕事が光るのである。

任天堂、プレイステーション、Xboxという業界のリーディング・カンパニーのアクセシブル・ゲーミングへの試みも紹介しよう。

任天堂スイッチ


Nintendo Switch(参照元:Nintendo Official UK Store

どこへでも持ち運べるポータブル・ゲーム機「任天堂スイッチ」。本体の両サイドについた2つのコントローラは、1人でプレイすることも、それぞれを別々のコントローラーとして使用し、複数人でプレイすることも可能だ。

しかし、その商品だけでは障がい者ゲーマーにとってプレイしやすいものとは言えない。よりサイズの大きなコントローラNintendo Switch Pro Controller(£59.99、約8700円)を使用することで幾分改善されるだろう。

プレイステーション

ソニーはアクセシブル・ゲーミングの観点から見て非常に評価できる企業である。アクセシビリティの高い商品はいくつかあるが、2018年9月に発売された『シャドウ オブ ザ トゥームレイダー』には、知的障がい者のための機能が搭載されていることで高評価を得ている。

彼らがゲームをする上で不得手とするのは、「戦闘」「探検」「パズル」というゲームの三大要素である。それらを解決するべく、プレイヤーがパズルで手間取っているなら、主人公・ララがそれらを一つひとつ丁寧に教えてくれるガイド機能を備えている。

Xbox


Xbox Adaptive Controller(参照元:Xboxホームページ

マイクロソフト社のXboxは、アクセシブル・ゲーミングのリーダー的存在である。今年ローンチしたばかりの「Xbox Adaptive Controller(XAC)」は、動きが制限されているゲーマーのあらゆるニーズに応えるコントローラだ(価格$99.99、約11,200円)。

2つ並ぶ黒いプレートのような部分は、通常のコントローラの左右スティックにあたる。手・指に障がいを持つプレイヤー達は、通常のスティックを横に動かすことはできても、縦に動かすのは困難な場合が多いという。XACのスティックは撫でてプレイするため、これまでのよりも滑らかな操作が可能になる。


参照元:Xboxホームページ

XACの前面と側面には3.5mmケーブルやUSBをつなぐポートが備えられている。通常のコントローラの右上に配置されているA、B、X、Yボタンなどが無い代わりに、このジャックにタップなどを接続して、それらのボタンとして使用できるようになる。また、通常のコントローラを接続して併用することも可能で、自分流にコントローラーをカスタマイズできるのが魅力だ。

Xboxは、The AbleGamers Charity、SpecialEffect、Warfighter Engagedなどの障がい者ゲームプレイヤー支援団体との親交があり、XACはこれらの団体の力も借りながら開発されたものだ。XACはゲーム業界の革命的商品と言っても過言ではないだろう。

世界的なeスポーツの競技大会が開催され、ゲームの技術を極めた人々が多くいる今、ゲームは単なる娯楽ではなく、彼らのライフワーク、人生そのものだと言える。これまでゲームをできなかった障がい者プレイヤー達も取り込み、大きなムーブメントとなって、他分野でもアクセシビリティが波及していくことを期待したい。

文:泉未来
編集:岡徳之(Livit