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人材採用ソフトウェア市場は比較的新しい業界だが、その需要を受けて市場は急速に伸びているようだ。ビジネス情報共有プラットフォームCrunchbaseによると、人材採用ソフトウェアスタートアップの採用に投資したVCの資金の総額は2018年8月までの8か月間だけで、6億米ドルを超えたことがレポートされている。
今回は、進化する人材採用ソフトウェア業界とその市場、ビデオ面接を含めAI面接、仮想現実を使用した採用選考まで、最新の採用トレンドを探る。
人材採用ソフトウェア業界、最新のカオスマップは?
AI技術を駆使した人材採用ソフトウェアを提供するIdeal社は、人材採用ソフトウェア業界の2019年度版カオスマップを発表した。
The 38 Top Recruiting Software Tools Of 2019
昨今ウェブサイトからの募集や応募は一般的になってきたが、このカオスマップに提示されている、テストツール、AIの使用、リクルーティングCRMなどはまだ一般的ではないかもしれない。
業界マップの詳細を見てみよう。
まず「Job Aggregator」は、リクルート社が運営するIndeedや、グーグルなどのツールから、募集内容が有能な人材の目につくところに置くシステム。
応募が来た段階で、それを管理するのに応募者追跡システム「Applicant Tracking System」や、応募者関係構築システム「Recruitment CRM」を使用する。
応募者追跡システムは、大企業の9割、中小企業でも7割弱が使っているという業界で最も大きなセグメントを占めるシステムだ。応募者関係構築システムも適時に過去の応募者も含んだ採用を実行するのに人材プールとしてデータを残しておくことや、有力な候補者との関係構築を促すのに適している。
選考段階に進んだら、従来は面接会場で紙ベースで行われていた能力試験や評価を、デジタルで統一して行い集計する「Test & Assessment」が使える。候補者の能力や実務でのレベルを量るのに欠かせない。
さらに選考のステップとして面接のツールとして気軽に取り入れられ始めているビデオ面接「Video Interviewing」、一次選考に進むまでのスクリーニングや候補者の優先順位をつけ、面接まで行う「AI &Automation」も注目されている。
採用後の人事労務管理も含め、既存社員の情報から内部での適材適所を推進する人事管理システム「Human Capital Management」までが、このカオスマップではリストアップされている。
人事担当者の視点から見る、有能な人材採用への近道は
2018年、世界中の9千人以上の人事担当者の意見を元に世界最大級のビジネス特化型SNSリンクトインが調査した「The 4 Trends Changing How You Hire in 2018 and Beyond」にも、採用の未来を映し出すキーワードが紹介されている。
それは、多様性、新しい面接ツール、データ、そしてAIだ。
The 4 Trends Changing How You Hire in 2018 and Beyond
その中でも「新しい面接ツール」の項目は、56%の専門家や採用担当者が、採用方法に影響を与える最も重要なトレンドであると答えている。回答した人事担当者は、従来の面接おいては、印象による偏りの問題や、ソフトスキルや候補者の弱点を評価することへの限界を指摘している。単に会話をするだけでは、候補者の仕事における秩序立てた考え方や、組織への適応性を評価するのは困難だからだ。
新しい面接ツールは様々な形で提案されている。まず、最適な候補者の目を引くための人材採用マーケティングの重要さを、リクルーティングCRMを提供するHalloTalent社は以下のように表現している。
「テクノロジーの発展に伴い、採用マーケティングも最適化することが不可欠になっています。会社の検索プロファイルを改善することから、オンラインおよびソーシャルメディア上でのやり取りを増やすことまで、企業の人材採用マーケティング戦略を立てることが重要です。最適な候補者の目を引く様々なタイプのソーシャルメディアを効果的に取り入れることで、正しいオンラインコミュニティを創造することが望まれています」。
企業の製品やサービスのSEO対策と共に、有能な人材を取り入れる人材採用戦略マーケティングとしてSEOが追及されている。
また、新しい面接ツールではあるが、従来の手法とさほど変化は大きくなく導入可能なのがビデオ面接だ。
ビデオ面接ソフトウェアを提供する会社は通常、ビデオインタビューの録画や、電子メール、テキストメッセージ、面接スケジュールの設定などの機能を含むことが多い。Ideal社によると、最近の調査では人事部長の63%がビデオ面接を実施していることが明らかになっている。
ビデオ面接ソフトウェア市場の成長を推進する要因には、時間の節約、遠隔地からの候補者のスクリーニング、費用対効果の高さ、候補者へのプレッシャーの軽減などがあることが、RadianInsight社のレポートでも分析されている。ビデオ面接では、多様性を追求するという面で国際人材の登用や、遠隔地にいる候補者へのアプローチも含まれる。
その他、ビデオ面接は、自分の都合の良い時に手軽に転職活動ができるという観点から、受動的な雇用(ヘッドハンティング)を促したり、忙しい応募者の転職や就職を促すことにも貢献している。デジタル世代である若い世代の雇用を確立することにも寄与している。
加えて、候補者側からのビデオプロファイルもアメリカなどから始まってきている。ビデオプロファイルとは、履歴書やウェブサイト上ですでに閲覧できる写真と候補者の職歴に加え、候補者のビデオコンテンツがみられるものだ。採用担当者が事前にビデオを審査できるということは、候補者の性格や雰囲気を掴むために、面接の前段階でも決断を下すのに役立つ。候補者のリアルな反応を映し出すビデオには大きなメリットがあるといえる。
さらに進化する人材採用トレンド
さらに最近の採用ソフトウェアは、人工知能や仮想現実の技術も取り入れ始めている。大企業はアシスタントとして人工知能を積極的に使用し始めているが、AIは人材採用の領域にも足を踏み入れ、有能な人材を雇うために面接を行うことまでできるようになっている。
すでに実用化されている人材採用AIプラットフォームには通常、人工知能、感情分析、顔認識、ビデオ分析、神経言語処理、機械学習、および音声認識などが備わっている。また、AIプラットフォームは、ディープラーニング技術を応用して、人間のような会話を候補者に提供することもできる。
AIによる面接選考支援・ゲームベースの能力検査機能を備えたクラウド型デジタル面接プラットフォームを提供するHireVueは、声の高さや笑顔の頻度を含む最大25,000の発話および行動の変数を分析し、候補者の総合スコアを計算するという。
自動プラグインをビデオ通話プラットフォームに統合して、インタビューの進行状況を観察でき、候補者の緊張をボディーランゲージから評価もできる。候補者の口調やどもりから、候補者の信頼性も窺うことも出来るようになってきている。
また、仮想現実を利用した採用選考もトレンドとなってきている。企業は、面接中に候補者が特定のプレッシャー下でどのように反応するかを、より良い環境で想定をするために、採用にインタラクティブゲームを使用するケースが出てきている。仮想現実のテストはより実用的で、ある意味では性格テストよりも誠実なアプローチとして注目されてきている。
2019年は、ますます多くの企業がビデオ通話を介して候補者を面接しているため、AIの使用も大幅に増加する可能性がある。SkypeやGoogle Chatの利用が増えてより多くのサンプルが集まれば、AI開発の可能性が大きく広がるからだ。
生身の人間を相手にして会話をしない分、うまくパフォーマンスできる候補者は限られるだろうが、時間の短縮とデータの蓄積による分析が重視される今後、AIロボットに質問されると仮定して面接に挑む訓練もしておいた方がよいのかもしれない。
驚きひるんだとしても、これらのAIロボットは候補者のあらゆる行動とあらゆる感情に注意を払い、記録していってしまい、あなたの最終スコアをつけることになるだろう。
文:米山玲子
編集:岡徳之(Livit)