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世の中における存在意義を明示することで、自社を社会貢献へと導いていくパーパス経営。その実践に乗り出す企業が増えている一方で、トップが示した方向性が、必ずしも現場の従業員のマインドと一致するとは限らない。事業内容が多面的になるほど、人財一人一人の業務も多様になり、パーパス浸透が思うように進まないケースも少なくないだろう。
そうした中、現場発のボトムアップ型パーパスを策定し、事業成長を目指しているのが、アルプス システム インテグレーション株式会社(以下、ALSI「アルシー」)だ。DXやセキュリティ、AI、IoTなど、IT領域で幅広いソリューションを展開する同社は、「ITと応えるチカラで、カスタマースマイルを拡げていきます。」とパーパスを掲げ、多様化するITのニーズに対して高い顧客満足の獲得を目指して企業活動を進めている。
今回AMPでは3回にわたる連載を通じて、同社のパーパスを掘り下げていく。パーパス策定の背景や裏側を追った前回に続き、第2回ではALSIの最前線で活躍する社員3人を取材。プロダクト&ソリューション事業部 クラウド&セキュリティ統括部 プロダクトマーケティング課の井上拓也氏、経営企画部 経理課の米田未央氏、管理部 広報課の田代竜馬氏の声を通じ、それぞれがどのようにパーパスを実践しているかを聞いていく。
エンドユーザーと開発現場をつなぎ、最適解に近づける
2023年11月に自社初となるパーパスを策定したALSI。「ITと応えるチカラで、カスタマースマイルを拡げていきます。」という言葉には、確かな技術力と徹底的に寄り添う顧客対応力、その先にあるユーザーの笑顔など、同社が持つさまざまな企業価値が込められている。それらを現場の最前線で顧客に提供しているのは、営業部やマーケティング部の担当者だ。彼らが顧客に製品価値を訴求する上で、円滑なコミュニケーションが生まれるよう支援するのが、井上氏の役目である。
井上氏「クラウドやセキュリティの製品を担当し、情報発信や販売支援を行っています。また、営業が収集した顧客ニーズを、機能追加や改善に落とし込むのも、私たちプロダクトマーケティングの仕事です。特にセキュリティの製品は、企業のみならず、小・中・高等学校、大学、全国の自治体にも展開しています。ビジネスの目線にとどまらない、幅広いニーズをキャッチしなければなりません」
幅広いユーザー層が抱える課題を、一つ一つ解決しながら、実績を積み上げていく。そのプロセスによってALSIは製品の信頼性を高めていると、井上氏は続ける。
井上氏「ただ一方的にプロダクトを販売するのではなく、お客さまの要件に沿った形で個別のソリューションを提案し、課題を解決していくのが、当社が持つ大きな価値の一つです。例えば、教育機関にWebフィルタリング(※)を導入していただく場合、エンドユーザーは教室にいる先生と生徒。そして“カスタマースマイル”は、有意義な授業が実施された先にあるものだと思います。フィルタリング機能を万全にするあまり、授業に関係なさそうなサイトを全てアクセス禁止にしてしまうと、仮にそれらのサイトの中で学習に役立つ内容が提供されていたとしても利用できません。教育におけるデジタル活用の効果を最大化できなくなってしまうのです。開発者ではなくユーザーである学校や企業、エンドユーザー一人一人が環境に合わせたポリシーを設定できる仕様など、当社のプロダクトを意識せずに安心な運用ができる裏方的な製品・ソリューションこそが、セキュリティベンダーの理想だと考えています」
※Webサイトへのアクセスやファイルアップロード、書き込みを制御するセキュリティ
エンドユーザーと商品企画の間に立ち、個別の要望に耳を傾けながら、製品のバージョンアップにつなげ顧客満足度を上げていく。それが井上氏の“応えるチカラ”なのだろう。2023年に他社から入社した井上氏だが、新たに策定されたパーパスをどのように捉えているのだろうか。
井上氏「ALSIのパーパスは現場スタッフの声から生まれているため、押し付けられている感覚がありません。自分が仕事の中でどのようにパーパスを体現していくかを、自分の頭で考える。その道標になっていると思います。先日、Webセミナーでパーパスムービーを流したのですが、ALSIの会社像をお客さまに共有したいという思いがありました。ITのソリューションといっても、方針や用途はさまざまです。私たちが目指す方向を顧客やユーザーにしっかりと伝えることは、最適なマーケティングにもつながると期待します」
社内へ「スマイル」を広げることが、顧客への価値提供に直結する
井上氏のような事業部門の動きを支える間接部門の一人が、経営企画部に所属する米田氏だ。2018年の入社以来、主に予算管理や月次決算の運営に関する経理業務を担当してきた。
米田氏「ALSIの特徴の一つとして、各事業の方針を各事業部の現場の判断に委ねるボトムアップ型の社風が挙げられると思います。予算も各事業部の主体的な事業計画に沿って決められるので、私たち経営企画部はそれをサポートするようなポジションだと考えています。経営層や事業部の責任者が適切な判断を下すためには、正確で分かりやすいデータが必要です。それを滞りなく用意することが、自分の使命だと思います」
「事業部門にサービスを提供している」と考える米田氏の姿勢には、同社のチーム連携力が表れているといえる。では、米田氏は何を“カスタマースマイル”と捉えているのだろうか。
米田氏「私たち間接部門が、事業部門にいる同僚たちのカスタマースマイルを実現できれば、その先にいる製品のユーザーにも、結果的にスマイルが届くと信じています。だから、開発や営業の担当者に『助かったよ』『経理のことが分からないから、教えて』と言われることに、やりがいを感じます」
そんな米田氏が業務の中で心がけているのは、「相手起点で物事を考えること」だ。社内であっても相手の状況を意識することが自分の成長にもつながるという。
米田氏「日々仕事をしていると、つい自分の都合で話しかけたり、質問をしたりしてしまいがちですが、コミュニケーションの中で相手の意図や関心を把握することは大切なことだと考えています。仲間同士でチームワークが築ければ、おのずと会社も成長するのではないでしょうか」
米田氏は、パーパス策定に向けた社内ワークショップにも参加した。言葉の選定に向けさまざまな検討をする中で、「IT」というワードを入れるか入れないかという議論もあったという。
米田氏「他の業界でキャリアを築いた私は、30年以上培ったALSIの技術力、蓄積されたデータベースに、大きな強みを感じます。IT業界の中にいると、技術は当たり前に存在する要素なのですが、カスタマーの視点から見れば、かけがえのない資産です。『イノベーション』『プラットフォーム』『テクノロジー』といったワードと比べると、『IT』はどこか地道な印象かもしれませんが、そこにALSIの良さが表れているのかもしれません」
製造業をルーツにしたものづくりの精神を、世の中へ発信
広報課の田代氏も、パーパス策定のワークショップに参加した。他業界で広報の勤務経験を経て、2022年にALSIに入社した田代氏は、ワークショップが初期の仕事の一つだったという。
田代氏「入社直後にプロジェクトメンバーに招集されたことには驚きました。外部で広報をしていた目線から意見を求められていたのでしょう。ALSIには年齢やキャリアに関係なくディスカッションができる空気があったので、率直な考えを述べることができました。パーパスが仕上がってきた段階では、自分もALSIの企業像を理解でき、今は広報としてそれをどのようにアウトプットに落とし込んでいくかを考えるようになっています」
広報として業界全体を見渡す田代氏は、完成されたパーパスをどのように受け止めたのだろうか。
田代氏「パーパスのステートメントには『愚直に、真摯に』という言葉がありますが、顧客や同僚をサポートする力、寄り添う姿勢に、当社のアイデンティティーがあるのだと感じていました。そうした人財像が、『応えるチカラ』というワードに集約されています」
堅実な社風の源泉はALSIのバックグラウンドにあると、田代氏は考えている。電子部品や車載情報システムを手掛けるアルプスアルパイン(ALSI設立時の名称はアルプス電気)をルーツとするALSIでは、製造業で培われた“ものづくり”の精神を尊重してきた。現場視点の細やかな対応、常に技術の進化に挑み続ける姿勢が、現在までDNAとして受け継がれているのだ。
田代氏「そうしたALSIの個性や強みを、ステークホルダーに向け発信するのが私の仕事です。パーパスを打ち出した採用向けサイトにも携わり、当社の方向性に共感していただいた求職者が集まってもらえるよう設計しています。ただし直近の課題は、まず従業員にパーパスを浸透させること。社内向け広報にも注力し、各部署のスタッフが常にパーパスを意識しながら仕事に当たれるようにすれば、世の中にも自然とパーパスが広がっていくと考えています」
パーパスで各領域のプロフェッショナルの視点を一つに
それぞれの担当領域からALSIのあるべき姿と向き合い、業務を通じて実践をしている3人。パーパスとして会社の存在意義が明文化された今、これからどのように事業を成長させていきたいと考えているのか展望を聞いた。
井上氏「お客さまのニーズを集めながら製品を改良していくサイクルは、同じ課題を抱える潜在的な新規ユーザーの獲得にもつながります。その輪を広げていくことが、より多くの人々にカスタマースマイルを届けることになるはずです。動きとしては地道ですが、これからもお客さまと商品企画を行き来しながら、事業を育んでいきたいと思います」
米田氏「私はITやシステムに関しての知識はあまりないのですが、経理の視点を生かして、会社の事業を広げてみたいという思いがあります。税務や経費精算など、間接部門のデジタル化は社会的に進んでいます。現場で働く私たちの課題感を、製品開発に落とし込むことができれば、日本中の経理担当者にカスタマースマイルを届けられるかもしれません。事業部門と連携しながら、いつか革新的なシステムの開発に携わってみたいです」
田代氏「まずは出来上がったパーパスを、より多くのステークホルダーとの接点を生かしながら、クリエイティブの力で発信していくことが課題です。そして同時に、私はサステナビリティ活動も担当しているので、各事業の社会的意義を掘り下げ、利便性や効率性にとどまらない持続的価値を伝えていくことも重要になると考えています」
ALSIのさまざまな現場で活躍する3人だが、一人一人がパーパスと結びついた動きを意識している。部門ごとに領域が異なるからこそ、同じ方向を見据えるパーパスの役割は大きい。次回の連載3回目では、若手営業スタッフへの取材を通じ、次世代のビジネスを担う人財の育成・マネジメントについて掘り下げていく。
【ALSI パーパス特設サイト】
https://www.alsi.co.jp/lp/purpose/
取材・文:相澤優太
写真:示野友樹