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SDGs11番目の目標に掲げられている「住み続けられるまちづくり」を実現していく上で、公園などはさまざまな市民がコミュニティを形成し、自然環境の側面でも重要なスポットの一つと言える。
公園と聞くと、都道府県や市町村などの行政が管理しているイメージが強い。しかし近年は、店舗一体型の公園である「UNIQLO PARK」やスープストックトーキョーが実施する「100本公園プロジェクト」など、企業がオリジナルの公園や施設をつくることで地域社会に貢献する取り組みが広がっている。
こうした取り組みが広がるなか、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)は、地域社会への貢献の一貫として東京都西東京市に保有する広大な社員向け施設を再整備し、「MUFG PARK」として6月26日に一般開放した。
元々この施設は「武蔵野運動場」として、社員の研修所などの用途で使われてきた。今後は、従来の運動場機能に加え、自然観察ができる森や、バーベキューができる芝生広場、無料で利用できる先進的な図書館などを設置することで利用者に応じた様々なイベントや活動が楽しめる魅力的な公園として一般も利用できるようになる。
今回、AMPでは25日開催されたオープニングセレモニーを取材。本パークの全貌を紹介するとともに、どのような形で地域社会へ貢献していくのか探っていく。
地域社会が進む力になる。パーパスと連動したMUFG PARKの役割
オープニングセレモニーでは、まずMUFGのCEOである亀澤宏規氏の挨拶から始まり、2021年に設定したパーパスを踏まえてMUFG PARKの開園にかける想いを語った。
構想からオープンまで4年かかったというMUFG PARK。元々は、社員研修などの用途で使われる自社の保有施設だったが、「自分らしいQuality of Lifeを追求できる拠点」というコンセプトを新たに設定し、誰もが自分らしく過ごせる、そんな場を目指すと言う。
MUFGは、2021年に自分たちの存在意義であるパーパスを「世界が進むチカラになる。」と定めている。地球温暖化や異常気象、さらには近年の新型コロナウイルスなど、 社会がさまざまな課題を抱えて大きな変換点を向かえるなか、金融機関は何のために存在しているのか、 議論を重ねたと話す亀澤氏。会社はあくまでも社会の一部であり、事業活動を通じて社会のために貢献していく、 そして社会が存続し続けることで次世代の人々へも新たな価値を提供していきたいと考えた結果、パーパスには「お客様が、社員が、地域社会が、 そして次世代が前に進む力になりたいという想いを込めました」と語る。
そのなかで今回のMUFG PARKでは地域社会が進む力になることを目指しており、「地域や利用者の皆様とともに、居心地の良い楽しい場所に育てていきたいと考えています」と、話を締め括った。
「3つのコンセプトエリア」と「プレイスメイキング」で居心地の良い場所を創出
MUFGと協力協定を締結した西東京市の市長である、池澤隆史氏も挨拶を行った。
2021年の5月に、MUFGと連携協力に関する協定を締結した西東京市。MUFG PARKの地域利用を推進するために、市の職員とMUFG社員が一丸となり、協議を重ねてきたと言う。
開園前のプレイベントには市の職員も参加し、「地域の皆様の発想力や行動力に驚かされるとともに、企業と地域、そして行政が連携する意義を改めて感じました」と話す。
そして、今後も新しい地域の交流広場の実現に向けて「行政としても引き続き協力させていただきたい」と語った。
続いて、MUFG PARKの概要が紹介された。
総面積約6.2ヘクタールで、東京ドーム1.3倍の広さを誇るMUFG PARK。大きな特徴として、次の3つのコンセプトエリアから成る。
①武蔵野の貴重な自然がそのまま残る「Nature」エリア
1つ目が、武蔵野の豊かな自然がそのまま残るNatureエリアだ。都市のグリーンインフラとして多様な植物や生物が息づく貴重な自然を保全しながら、自然体験学習の場としても活用できる。
②テニスコートやランニングコースを配した天然芝のグラウンドがある「Sports」エリア
2つ目が、スポーツ活動や健康増進などの目的で使用できるSportsエリアだ。サッカー・ラグビーなどで使用可能な天然芝のグラウンドと11面のテニスコートから構成されており、グラウンドの周回にはランニングコースも完備している。
③芝生を望みながら読書やコミュニケーションが楽しめる「Communication」エリア
3つ目が、無料で利用できる図書館や、芝生広場で構成されるCommunicationエリアだ。みんなで本を持ち寄り育てる「まちライブラリー」を設置して本を通した人との出会いを促すほか、「Universal エリア」と名付けられ、さまざまな用途で活用できる芝生広場ではバーベキュー施設も備えている。
また、MUFG PARKでは「プレイスメイキング」の取り組みも重視している。
プレイスメイキングにはオープン前の2021年度から取り組んでおり、 地域住民やMUFG社員と一緒に、自然や食、健康やスポーツなどMUFG PARKを活用したさまざまなテーマのプレイベントを開催。まちライブラリーの立ち上げでは、サポーターを募集して計4回のプレイベントを行い、地域住民との意見交換を行いながらより良い場づくりに取り組んできたと言う。また、地元の高校生との協働プログラムとして、田無工業高校の協力のもと、パーク内で使えるワゴンやベンチといったインフラツールをゼロからつくる取り組みも行った。
このように、今後もコミュニティ形成につながるイベント開催などを通じ、地域や利用者にとって居心地の良い場をつくっていく予定だ。
MUFG社員がアンバサダーとなり、ともにパークを育てる
MUFG社員が参画し、より良いパークづくりに取り組むのもMUFG PARKの特徴の1つだ。ボランティアで協力してくれる彼らは「社内アンバサダー」と呼ばれ、MUFG PARKの開園に向けた準備を進めてきた。
今回のセレモニーでは、「社内アンバサダー」である3名の社員が、応募した理由や今回のMUFG PARK開園にあたって取り組んだことを紹介した。
まず、一人目の郭力嘉氏は社内アンバサダーに応募した理由を次のように話す。
「元々、社会課題解決について関心があり、MUFGという企業を通して地域に貢献できるような居心地の良い場所をつくりたい、そして私もその場所の一員になりたいと思い、応募しました」
郭氏は、開園に向けた取り組みとして『Main Park Area』『Universal Area』『Forest Area』『Greeting Street』という、各エリアの名称づくりに関わった。名称にはその場所の特性が反映されており、MUFGを身近に感じてもらう仕掛けも施されている。
「まちライブラリーを構えた大きい広場ということで『Main Park Area』。バーベキューなどいろいろな用途で使って欲しい『Universal Area』。さまざまな植物や生物が息づく森のように発展して欲しい『Forest Area』。そして、いろいろな方が挨拶を交わす場所という意味を込めて『Greeting Street』を設けました。 この名称を通して、少しでも当社に親しみ感じていただけたらと思い、頭文字をつなげて読むと『MUFG』となるように工夫しました」
続いて2人目の大石龍氏は、社内アンバサダーとして食をテーマにしたイベントを企画。その内容を次のように話す。
「西東京市だからこそのイベントにしたいという思いが強かったため、地元住民の方が参加できるマルシェを企画しました。また、西東京市の自然豊かな環境を生かすために有機農業や豆腐づくり体験なども企画しました」
3人目の高橋絵莉香氏は自然チームの一員として、昆虫ライトトラップ、そしてクリスマスリースづくりのイベントを企画した。
「昆虫ライトトラップは、夜の虫を観察してみようというイベントです。 都会で過ごす子どもたちに、MUFG PARKを通じて、生き物の魅力を伝えたいという思いで企画しました。 また、クリスマスリースづくりは、MUFG PARKでしか出会えない自然と触れ合いながら、創作活動ができる、そんな場所を提供したく企画したんです」
そのほか、オープン後はスポーツ縁日や青空ヨガ、防災フェスタなどMUFG PARKを活用した社内アンバサダーによる企画イベントは、今後、随時実施していく予定だと言う。
「つながりを生む公園」を通して実現するこれからのまちづくり
コロナ禍で、人とのつながりを物理的に絶たれた経験を経て、オンラインではなくリアルで交流する場の価値を改めて再認識した人も多いだろう。
その点、MUFG PARKのような広大な緑地スペースは、子供が遊んだりスポーツをしたりといった用途に限らず、リアルでの人とのつながりやコミュニティ形成を行うのにも適した場所だ。スポーツ施設の設置だけでなく、市民参加型のイベントを随時実施することで、人同士がつながるきっかけを提供することができる。
今回のMUFG PARKも、今後は食・農体験や自然学習、「モルック」や「ボッチャ」などのニュースポーツ体験を提供しながら、人同士がつながるきっかけとなるような新たな場を創出していくようだ。
このような取り組みを通じて場の価値が高まれば、訪れる人が増えて周辺の価値も高まり、地域活性化につながるといった循環も考えられる。市と企業が連携して取り組むMUFG PARKは、これからの「まちづくり」を考えるヒントになるかもしれない。
取材・文:吉田祐基
写真:水戸孝造