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海、花火、蚊取り線香、扇風機…。夏の風物詩も今年の役目を果たし、夏の終わりも一に近い。ただ、筆者の中で夏の風物詩の1つだった「アイス」は、季節関係なく価値を発揮し始めているらしい。
アイス専門店が都内を中心に相次いでオープンしている。その背景には、アイスの風物詩ではなくなってきているようだ。
猿田彦珈琲が新宿にアイスクリーム店舗1号をオープン
猿田彦珈琲株式会社は2017年8月、「猿田彦珈琲とティキタカアイスクリームのお店」を新宿にオープンした。店舗名のティキタカは、サッカー用語で「パス回し」を意味するという。名前に込めた意味をリリースでは以下のように記載している。
「ティキタカ」とは、個人プレーのドリブル突破ばかりでなく、沢山の人が関りながらパスを繋ぎ、ゴールに向かうボール回しの事です。多くのお客様に何度も立ち寄って頂きたい、スタッフとお客様のコミュニケーションが一方通行ではなく、お互いにどんどんと膨らみ、サーカスのようなワクワクする時間をとの想いを込めて付けた名前です。
同店はスペシャリティコーヒー店として知られる猿田彦珈琲が展開するアイスクリーム店の第1号。名前の通りコーヒー店とアイス店が1つの店舗となり、コーヒー、アイスそれぞれ単品販売されるほか、コーヒーの上にアイスをのせたコーヒーフロートも展開する。
ティキタカアイスクリーム PRの河村氏は今回の出店背景について、以下のように語る。
河村「代表の大塚はある本がきっかけで猿田彦珈琲をはじめました。その本に紹介されていたデンマークのコーヒー店はソフトクリーム入りのコーヒーフロートを販売しています。代表はそのコーヒー店を見て、いつかアイスを販売したいという想いを抱いていました。それが今回実現したかたちです」
冬の消費が増え、拡大するアイス市場
アイス専門店と聞くと、「冬もやっていけるのか?」という懸念がよぎる。一般社団法人日本アイスクリーム協会の統計データによると、2016年に1世帯あたりがアイスクリームへ支出した平均金額は年間8,908円。7,8月の夏期は月1,200円以上支出するが、冬場の1-3月500円を切るなどその額は1/2以下に落ち込む。
やはり夏の需要が高い商材ではあるが、その状況も変化している。夏場の売り上げがここ数年横ばいになのに対し、冬場の売り上げは年々堅調に成長を継続。「冬場の売り上げは難しいのではないか」と河村氏に問うたところ、ティキタカアイスクリームはあえて市場性を考えず出店したと語る。
河村「正直なところ、今回はビジネス面を度外視して、アイスリームを選んでいます。以前海外のコーヒーロースターの方々と『冬にコーヒーを売って、夏にアイスリーム売ったらいいのにね』という話を冗談でしていたのですが、今回はそれを本気で実現して、結果を見てみたいという想いもあります」
アイスの市場自体は成長を続けている。前述した1世帯あたりのアイスクリームへの年間支出額は、2012年の7,591円から2016年の8,908円へ年々増加。日本アイスクリーム協会が発表する販売金額推移によると、販売金額は2012年度の4,181億円から2016年度の4,939億円へ増加。5年間で20%弱の成長を遂げているのだ。
夏場の伸びはそこまで大きくないことから、冬場の売り上げがこの数字を後押ししているといえるだろう。数字の伸びが期待できるからか、アイスメーカー各社も冬場のアイス戦略に力を入れている。ハーゲンダッツのラムレーズンや、ロッテの雪見だいふくなど冬季限定で展開されるアイスはその代表例だろう。データを参照できる2007年以降、数字は右肩上がり。アイスは成長市場なのだ。
成長するアイス市場をブランド力で制する
今年、3月にはグルメメディア「favy」の運営などを行う株式会社favyが表参道にごまアイス専門店「GOMAYA KUKI」をオープン。8月には同店のアイスを使った2号店として原宿にソフトクリーム専門店「coifsof」もオープンした。
前者は創業131年の老舗ごまメーカー九鬼産業と共同することで、上手く“ものの良さ”を訴求した。後者はものの良さは活かしつつも、ムーブメントとなっているインスタジェニックなビジュアルに落とし込むことで若い女性層の獲得に成功している。
これら飲食店の勝ちパターンはさまざまな飲食店を俯瞰して観測しているメディアの運営があってのことだろう。他にもクラウドファンディングで多額の資金を集めた馬肉専門店「ローストホース」の店長である平山峰吉氏は、中目黒にポップアップかき氷店「FUWAGORI」を展開。
ご覧の通り、こちらもインスタジェニックな見た目ゆえ、群が群を呼び、連日行列をなしているという。
グルメディアを擁するfavyや馬肉専門店ローストホースなど、他分野でのバックグラウンドや経験を活かし、アイス店をリリースするブランドが増えている。猿田彦珈琲の場合、旅行代理店大手HISとの旅と珈琲と本をテーマにした店舗の展開など、さまざまな企業とコラボレーションするなど、強いブランド力を生かしビジネスを拡大してきた。
今回同社がブランド力を活かし手を広げた先は、注目を集めていたアイス業界だった。
夏の風物詩も、気がつけば夏以外を成長領域として拡大している。同様にコーヒー店もコーヒー以外の成長領域で拡大を狙う。いつの日か、アイスが冬の風物詩になっていることすらあり得るかもしれない。「この範囲」と決め込んで認識するのではなく、少し視野を広げ見え方を変えるだけで、可能性はすぐ近くに眠っているかも知れない。
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