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加速するテクノロジー・アダプション
新しいテクノロジーが登場し、それが世の中に広がる速度は時代を経るごとに速くなっている。人工知能の世界的権威レイ・カーツワイル氏によれば、1878年世に登場した電話が米国人口の4分の1に普及するまで35年かかったが、1951年に登場したカラーテレビの普及は18年、1975年に登場したコンピューターは16年、そして1991年に登場したワールド・ワイド・ウェブ(WWW)は7年といった具合に加速している。
チャットボットや自動運転車など、この数年で普及してきた先端テクノロジーを考えると、テクノロジー普及速度の加速を実感できるのではないだろうか。このほかにも3DプリントやVR・ARなどのテクノロジーが進化速度を加速させ、世の中に広がろうとしている。
ドローンも例外ではない。現在水面下で、さまざまなプレーヤーがしのぎを削り、技術改善・サービス開発を進めている。また規制当局も規制緩和でドローンの普及を推進する姿勢を見せている。このままいけば数年以内にドローンがインフラの一部としてユビキタスになっている社会が実現している可能性は高い。
今回は、ドローンユビキタス社会を実現させようと奮闘する日本発ベンチャー、テラドローン代表、徳重徹氏に、ドローンビジネスのいまと未来を語ってもらう。世界を飛び回り、国内外のドローン市場のリアルを知る徳重氏。ドローンビジネスが今後どのように発展していくのか、臨場感を持ってお伝えできるはずだ。
ドローン市場の開拓のため世界を飛びまわるテラドローン代表取締役社長、徳重徹氏(写真左)
日本発、世界で勝負するドローンベンチャー
徳重氏といえば、言わずと知れたEV(電気自動車)ベンチャー「テラモーターズ」の創業者だ。難しいといわれる製造業だが、2010年の設立後さまざまな苦難を経て2017年3月に売上高30億円を計上、黒字化を達成した。ベトナム、フィリピン、インドに拠点を構え、海外売り上げ比率は90%。日本発のグルーバル企業となるべく、海外市場でのさらなる成長に向けて躍進している。
そんななか2016年3月に設立されたのが「テラドローン」だ。テラモーターズ同様、世界展開を前提とした企業。現在は主に、ドローンによる土木測量、森林測量、インフラ点検サービスを提供している。
テラモーターズの事業がうまく回り出したタイミングで、なぜドローン企業を設立したのだろうか。
「当時、EV事業がうまく回り出したので、何か新しい事業に挑戦したいと考えていました。アイデアとしては、エネルギー、IoT、ビッグデータ、クラウド、ITヘルスケアなどがあったのですが、EVと近いものがいいと考えて、シリコンバレーのベンチャーキャピタルに相談したんです。すると、ロボットがいいのではないかと言われたのですが、自分ではマネタイズのイメージがわかず。ただ、EVと近いということで、そこからいろいろ考えて、結果的にドローンということになりました」(徳重氏)
その後、徳重氏はドローンビジネスについて知見を広げ・深めるため半年ほどかけて世界中のめぼしいドローン企業を自分の目で見てまわった。世界のドローン市場を自らの目で見た徳重氏は、ドローン市場の可能性について確信したという。
「いまのドローン市場を見ていると、インターネットの黎明期に似ていると感じます。ビジネスを始めるときにもっとも重要なのは、市場があるかどうかということ、そしてその市場が黎明期のときに参入できるかどうかということだと考えています。私の人生において最大の失敗は、インターネット黎明期のときにMBAに行っていたことなんです。当時、黎明期の市場に入るタイミングを逃してしまったのです。だから今回のタイミングを逃すわけにはいかないんです」(徳重氏)
市場があり、黎明期であること、そしてEV事業で培った強みを生かせるという考えのもと、徳重氏はドローン市場への参入を決意した。2015年12月の株主総会でその旨を明らかにしたが、株主からの反応は鈍いものだった。ドローン市場は競争が激しいという印象があったためという。しかし、2016年6月の株主総会では、株主たちの反応がガラッと変わった。ドローンビジネスで結果が出始めていたからだ。
追い風を受けた徳重氏はここからさらにリスクを取りにいった。2016年12月、ベルギーのドローン運行管理システム(UTM)会社Uniflyに、テラドローンの資本金16億円の30%以上に相当する5億円を投じる決断を下したのだ。
この決定に株主たちからは「ベンチャーがベンチャーに出資するのか?」といった声や「桁が1桁多いのではないか?」といった声が上がったが、徳重氏はUnifly社のテクノロジーの可能性と潜在成長性を説き5億円を投じた。
「欧州市場ではUTMの開発が進んでいますが、Unifly社はそのなかでも主導的な役割を担っています。実際、Unifly社のシステムはドイツの航空管制に導入されるなど、今後UTM標準化の要になっていくはずです。
インターネット黎明期にソフトバンクの孫さんが米Yahoo!に数億円を投じました。まだYahoo!を知るひとがあまりいなかったときにです。ドローン市場においてUnifly社はYahoo!のような存在になっていくと考えています」(徳重氏)
ミュンヘンでの会議、その後コペンハーゲンへ
テラドローンのドローン測量・点検サービスとは
現在テラドローンは日本国内に7拠点、オーストラリアに3拠点を構え、大手建設会社を中心としたクライアントから、ドローンによる測量・点検を受注している。
実際ドローン活用により、どのような効果が出るのだろうか。
「ドローンを活用することで、建設現場での工数を大きく減らすことができます。これまでの事例だと、太陽光発電システムの設置で測量を行いました。ドローンとレーザー測量を組み合わせ、通常1年かかる工期を9カ月に短縮することができました。
また東京ドーム8個分に相当する40ヘクタールの土地の造成では、従来2週間かかっていた測量を、1日に短縮することができました。これは規模に比例して効果も大きくなってきます。たとえば、アジア新興国やオーストラリアでは、200〜300ヘクタールの広さでのプロジェクトが多く、ここにドローンを導入する余地があります」(徳重氏)
レーザー装置を搭載したドローンで測量を行う 土地が広いほど効果は大きい
ドローンによる測量で、工期を短縮できるが、効果はそれだけではない。測量でもっとも重要な精度を上げることができるのだ。またこれは同時に社会的課題の解決にもつながるという。
「これまでの測量は属人的な技量によってきたところが大きいです。日本の測量技術は世界一と呼ばれていますが、少子高齢化で、職人的技術を持つ測量士が少なくなっています。5〜10年後には、現場から測量できる人材がいなくなるという深刻な問題に直面しています。建設企業にとっては、ロボットやドローンを導入し、測量を自動化することが喫緊の経営課題となっています。
また、少子高齢化という課題がない国でも、ドローン測量のニーズは高いと考えています。若年層が大半を占めるインドネシアなどでは、測量技術が追いついておらず、測量士による間違いが頻発しているからです」(徳重氏)
「現場力」「スピード」「展開力」が世界で戦うカギ
ニーズがあるドローン測量・点検市場だが、普及には乗り越えなければならない課題は少なくない。その1つが、テクノロジーの認知・普及だ。
「お客さんの多くは土木や農業など、これまでデジタルテクノロジーに触れる機会が少なかったひとたちなので、慣れてもらうまで時間がかかるかもしれません。ただし、一度慣れてもらえるとその後の普及はあっという間でしょう」(徳重氏)
徳重氏は、テラモーターズで培った、現場のニーズを現場で汲み取りそれをプロダクトに反映させる「現場力」は、テラドローンの事業展開でも強みになると考えている。また同社の強みとする「スピード」と「展開力」も世界展開のための必須要素だ。
「黎明期のドローン市場では、システムもサービスもどんどん広がっていきます。ですから、現場のニーズを把握するだけでなく、スピードがないとついていけません。また、競合も世界基準となるため、世界で戦える展開力も必要となります。テラモーターズのEV事業で得た『現場力』『スピード』『展開力』があるので、ドローン事業でも世界を相手に戦える自信はあります。日本発のベンチャーとしてシリコンバレーともいい勝負ができると思います」(徳重氏)
テラドローンの当面の目標は、3年でドローン測量・点検分野で世界トップに立つことだ。測量・点検サービスに加え、アプリケーションの販売を行っていく。また、ベンチャーとして足元の数字を固めながら、次の段階も模索していくという。
テラドローンのスピード感ある事業展開を見ていると、ドローンユビキタス社会はそれほど遠くない未来に実現するだろうと思えてくる。徳重氏率いるテラドローンがどのようにドローン市場をリードしていくのか、これからの展開が非常に楽しみだ。