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ここ1年で「メタバース」「web3」という言葉をよく聞くようになった。しかし、それらが何かを理解している人はまだ少ないようにも見える。また「メタバース=web3」と捉えている人もいるようであるが、この傾向は日本だけでなく、他国でも同様のようだ。
経済圏をともなうネット上の仮想空間「メタバース」
「メタバース」が注目されたきっかけは、フェイスブック社の社名変更だろう。2021年10月28日、米フェイスブック社は社名を「Meta(メタ)」に変更すると発表し、世界を驚かせた。
マーク・ザッカーバーグCEOは近い将来メタバースの時代が到来することを予見し、それを同社の主力産業とすることを世にアピールした。これをきっかけに「メタバース」はバズワードとなり、急速に認知されていった。
「メタバース」という言葉が初めて登場したのは、1992年にアメリカ人小説家のニール・スティーブンスンが発表した作品『スノウ・クラッシュ』である。近未来のアメリカを舞台に、インターネット上に構築された仮想空間「Metaverse(メタバース)」で生きる人々が描かれている。
メタバースとは、簡潔に言ってしまえば「オンライン上の仮想空間(バーチャルリアリティ)」であり、オンラインゲームの『フォートナイト』や『あつまれどうぶつの森』もその一端という意見もある。
しかし、伊藤穣一氏の『テクノロジーが予測する未来』(SBクリエイティブ)によると、メタバースは単なるゲーム的なネット空間ではなく、「何かしらの価値の交換が行われる場所」という意味合いが含まれるという。
その「価値」とは、仮想通貨や暗号資産やNFTといった「トークン」であり、トークンを介した経済圏(クリプトエコノミー)が形成された仮想空間を「メタバース」と定義するのが、有力な見方であるという。
パラダイムシフトによる新しい世界「web3」
一方「web3」とは、Web1.0、Web2.0に続くインターネットの進化段階であると言われている。
Web1.0は、ブラウザを介して情報の提供やアクセスをしていたインターネット黎明期を指す。この頃の情報の流れは「発信者→受信者」という一方通行であり、Yahoo!などのポータルサイトが人気を博した。
次のWeb2.0になると、情報はインタラクティブ(双方向)になる。SNSやレビューサイトといったユーザー主体のネット空間が出現し、誰もが気軽に発信したり受信したりできるようになった。この時代の覇者は巨大プラットフォーマーのGAFAであり、世界中に膨大な影響力を持つに至った。
では、その次の「web3」とはどのような段階か。
まず、「web3」の時代は「分散型(非中央集権型)」と言われる。ブロックチェーン技術の発展により、これまで力を持っていたプラットフォーマーたちが力を失い、主権が個人に回帰する。
個人情報やネット上の売買履歴等の取引情報は、すべてインフラ(ブロックチェーン)上に記録されるため、プラットフォームの規制や意図的な操作に左右されなくなる。その結果、巨大テック企業による中央集権的な世界が崩れ、分散的な新しいネット世界が築かれる――これがweb3の世界である。
ちなみに、なぜ「Web3.0」ではなく「web3」なのか。その理由は、これまでの延長上の進化ではなく、「パラダイムシフトが起こった先の新しい世界」という意味を込め、差別化されているのだという。「web3」は、これまでに経験したことのない新たな時代の幕開けということだ。
「web3」と「メタバース」が混同される理由
この2つの用語が混同される理由について、Forbesでは次のように推測している。
まず、これらの定義は今なお「構築中」であり、ほとんどの人が正確に理解していないこと。次に、「web3」と「メタバース」の両方が「Web3.0」と呼ばれていたこと。一部の人たちはWeb3.0を「没入型Web」と表現していたこともあり、両者は一緒くたにされていたようだ。最後は、この「web3」と「メタバース」を構成するテクノロジーが緊密に絡んでくることである。
経済活動を伴う仮想空間・メタバースには、仕事やエンタメ、学習、SNSなどあらゆる分野が参入してくることだろう。イーサリアムやビットコインなどブロックチェーンベースの暗号資産、デジタルオブジェクトのNFT、また分散型自立組織のDAOなど、web3の根幹を成すテクノロジーはメタバースにも必携であり、双方は切っても切れない関係にあるといえる。
「バーチャルファースト時代」の到来
『メタバースとweb3』(國光宏尚著、Mdnコーポレーション)によると、web3は「本格的なバーチャルファーストの時代」になるという。これまでインターネットは現実世界を便利に楽しくする補助的なものであったが、その役割が逆転する。
ネット上にはいくつもの仮想空間ができて、それぞれがコミュニティ的に運営されていく。その世界には誰もが参加でき、買い物をしたりおしゃれをしたりライブに参加できたりと、文字通りのパラレルワールドが出現する。そして、その入り口となるツールはスマホではなく、よりシームレスな体験ができるグラスデバイスである。
メタ、アップル、グーグルの各社は一般向けのARグラスを2024年までにリリースする予定とのこと。「バーチャルファースト」の世界は、もう目の前まで来ているのである。
業界別、web3の最新動向
実際、web3時代の到来を感じさせる変化は、幅広い分野で起こり始めている。Forbesの記事を参考に、業界別の最新動向や未来予想図を紹介する。
アート
2021年にBeepleのデジタルアートが高額で落札されたことをきっかけに、世界的なブレイクを起こしたNFT。デジタル作品に唯一無二の価値を与えるNFTはアート界に革命を起こし、マーケットプレイスの整備も急速に進んでいる。
NFTとしてのアート作品を作ることのできるプラットフォームのNFTIFYでは、制作した作品を公開市場で取引し、仮想空間上にアートギャラリーを作ることもできる。
ソーシャルメディア
オンラインコミュニティであるソーシャルメディアは、web3と相性がいい。たとえば、TwitterユーザーはNFTプロフィール写真を有償サービス「Twitter Blue」のメンバーに公開することができる。これにより、メンバー同士はNFT作品の売買を互いにすることが可能になる。
参加者のフラットな関係が強調されるweb3では、巨大ブランドもコミュニティの一員である。Nikeのデジタルシューズコレクションを手がけるRTFKTの商品価値総額は15億ドルを超えているが、3億ドルのみを保有して残りをコミュニティに還元することを決めたという。
エンターテインメント
2021年11月19日、ジャスティン・ビーバーはweb3を利用した仮想音楽プラットフォームWaveでライブコンサート「An Interactive Virtual Experience」を行った。その他にもカナダ人歌手のグライムスなど、多くのアーティストが同様のイベントを開催している。
これによりファンとの新たなエンゲージメントが可能になり、ライブ関連のチケットやグッズ販売などを通したクリプトエコノミーも盛り上がっていくだろう。
ファッション&コスメティック
ファッションブランドのHUGO BOSSはTikTokで、参加者がNFTを獲得できるキャンペーン「BOSS Move challenge」を実施。投稿動画の総再生回数は75億回を超えた。
また、コスメブランドのクリニークが会員を対象にSNS上で行ったコンテストでは、プライズの1つにNFTアートを用意していた。NFTは「高級で価値のあるもの」として、現実世界でも認知され始めている。
公共サービス
web3の活用によって、公共サービスの効率も飛躍的に上がるだろう。
たとえば、ブロックチェーンを利用して市民のデジタルIDを作成すれば、医療や教育、社会保障などに迅速にアクセスできるようになる。また、不正のできないデジタル投票も可能になるだろう。より透明性が高く、スピーディで正確なサービスが、web3によって実現するかもしれない。
幅広い業界に重大な影響を及ぼし、社会の仕組みを変えるほどのインパクトを持つweb3。変化に取り残されないためにも、今から理解を深めて「新しい体験」に備える必要があるだろう。
文:矢羽野晶子
編集:岡徳之(Livit)