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近年、あちらで洪水かと思えば、こちらでハリケーンと、世界各地で異常気象が原因の自然災害が頻発し、大きな被害を出している。地球のどこにいようとも起こり得るだけに、危機感を抱く人も少なくないはず。
異常気象には地球温暖化が大きく影響していることは周知の事実。急を要するこの事態への対策を練るのに必要な情報を、的確で迅速に入手するために取り入れられ始めているのが、ビッグデータだ。さまざまな分野で重要な役割を果たしているビッグデータが、地球温暖化問題対処にも威力を発揮しつつある。
温暖化問題にも「第四次産業革命」を
9月中旬にサンフランシスコで行われた国際会議、グローバル気候行動サミットには、非国家アクターが各々実践する、先進的な気候変動対策を共有し、将来的な計画を編み出そうと世界中から4,000人が参加した。
「意欲的な取り組みを次のレベルに引き上げる」という今回のテーマに沿って行われたイベントでは、温暖化抑制策に、「第四次産業革命」を起こすことも話し合われた。第四次産業革命とは、IoTで収集した膨大な量のデータ、ビッグデータをAIで解析するというものだ。
例えば、衛星画像や、サプライチェーン関連のデータを分析すると、温室効果ガスを吸収してくれる森林エリアの増減を把握でき、ロジスティクスのどの段階での排出量が多いかを突き止める手がかりとなる。より有効な改善策を練るには、不可欠な情報だ。
すでに気候変動に対する、AIとビッグデータを活用したモニターや調査は徐々に始まっている。森林破壊が止まらなかったり、サプライチェーン上、小規模な取次企業が多数関わったりと、解決策を講じることが難しい東南アジアや南米などが対象となっている。
サプライチェーンを見直すためのツール「トレース」
世界の熱帯雨林の3分の2が消滅した原因が、大豆、ヤシ油、木材、牛肉を生産するための土地開発だ。貴重な野生動植物の生息地を奪い、地元民の生活に悪影響をもたらすだけでなく、気候変動をも助長している。
そこで、ロジスティクスに注目し、サステナブルなサプライチェーンを構築するためのツール、「トレース」が誕生した。ストックホルム環境研究所と、森林保護を目指す、英国のシンクタンク、グローバル・キャノピーが中心となり、開発。無料で情報を提供している。生産・貿易・税関などからの莫大な量のデータを用い、世界的に取引されている一次産品の物流を明らかにする。包括的な流れはもちろん、生産者から貿易会社を経て、消費国に到るまでの一連の流れ上、どの企業がいつの段階で関わるのかなど、ピンポイントで得られる情報は今まで得ることができなかった、貴重なものだ。
トレースを使えば、商品輸出と、生産地での環境・社会的リスクとの関係を、ビジュアルで理解できる。物品の生産・貿易・消費の段階ごとの問題点が明らかになれば、それに応じた解決策を考えることが可能になる。企業などが「森林破壊ゼロ」という目標を掲げる際に把握すべき情報入手に有用だ。
2021年までに、紙・パルプ、コーヒー、カカオ豆、水産養殖なども加え、森林破壊を主に助長していると考えられる産品の70%のサプライチェーン、トレースで把握すべく、調査・分析が続けられる。
2015年における、ブラジル産大豆の取り引きを示した「トレース 」。全体の輸出入量、貿易企業が「森林破壊ゼロ」を掲げているか、大豆生産にあたって森林破壊の可能性の有無など、自分がほしい情報を選ぶことができる © Trase
LiDAR技術で、森林地帯の詳細な炭素含有量を把握
米国の科学研究施設、カーネギー研究所の生態環境部が2009年に行った報告によれば、2000年代に除去された熱帯雨林は全体の20%に上ったそうだ。
また2017年には、熱帯雨林が密閉林から疎林に変化する、「森林の劣化」が原因で排出される温室効果ガスの半分以上が、「択伐」された樹木が原因であるとする発表があった。生物医学分野の研究論文を集めたオープンアクセスバイオメド・セントラルに掲載された報告書だ。択伐は、森林開拓に比べ、衛星画像でもその量・規模を推し量ることは困難とされてきた。
米国のアプライド・ジオソリューションズ社(AGS)を中心に、インドネシアのボルネオ島の4エリアで進められているのが、LiDAR技術による3Dイメージと、衛星や地上で得たデータを統合し、森林地帯の詳細な炭素含有量を算出するプロジェクトだ。択伐の影響も把握できる。
LiDARとは、レーザー光を用い、対象物の距離や方向などを測定する、リモートセンシング技術の1つだ。最新テクノロジーを取り入れ、気候変動や、農業、公衆衛生、資源管理のための情報を収集・分析・研究する組織であるAGSはLiDARデータと、伐採木や被害木の数に関する統計を組み合わせ、方程式を確立。伐採面積のデータと、伐採された樹木の量とその結果排出された温室効果ガス量の双方を関連づけることに成功した。
プロジェクトを通して得た情報をもとにすれば、政府やNGO、民間組織は、森林モニタリング能力を向上させ、サステナブルな管理計画を立てることができる。
LiDAR技術で得た画像の一例。左が新たに植えられた植林地で、右が原生林と、違いがはっきりわかる
© Sarah Frey,Oregon State University(CC BY-SA 2.0)
炭素貯蔵量をリアルタイムで測定
米国のウッズ・ホール・リサーチセンターは、炭素が貯蔵されている場所や、炭素放出の危険性がある場所を突き止めることを通して、どこでどのようにしたら、気候変動が緩和できるかの研究を進める組織だ。同センターでは、南米やアフリカ、アジアを対象とし、衛星画像と、LiDAR技術、現場計測のデータをもとに、地上炭素密度を割り出すツール、「ウッズ・ホール・モニタリング・システム」を開発している。このツールの特徴は、各地のリアルタイムに近い情報を入手・提供できる点にある。
従来の方法では、森林破壊が行われた後にしか、森林炭素の測定ができなかった。しかし、同システムを用いれば、森林が完全に消失する前に測定が可能になる。また、時間の経過と共に炭素貯蔵量が増加する際の測定も行うことができる。これも同システムの長所だ。
ウッズ・ホール・モニタリング・システムは、REDD+の運営上、重要な役割を果たしている。REDD+は気候温暖化抑制策の1つ。途上国が自国で森林保全活動を行い、温室効果ガス排出量の削減・吸収に貢献した際に、国際社会が経済的なインセンティブを与える。つまり、伐採より保護する方が経済的に高い利益をもたらすことを示すわけだ。同システムは、森林減少・劣化で温室効果ガス排出量がどれだけ減り、努力でどれだけ回復したかを正確に示してくれる。
土壌と樹木に貯蔵されている炭素を示した世界地図。緑色の個所では森林に、茶色の個所では土壌に炭素が多く貯蔵されていることを示す(ウッズ・ホール・リサーチセンターのフェイスブックから)
カリフォルニア州では独自に衛星を打ち上げる計画
6月、トランプ政権が気候変動に対する国際的な取り組みであるパリ協定から離脱した米国では、州単位ででの取り組みが不可欠だ。カリフォルニア州知事、ジェリー・ブラウン氏は9月のグローバル気候行動サミットにおいて、気候変動をモニターするための衛星の打ち上げを発表した。
この衛星は、気候汚染物質を排出している個所、排出量やほかの異常が見られる個所を、ピンポイントで特定する。サンフランシスコを拠点に衛星画像を提供する、プラネット・ラブス社と共に開発が進められる。
また、環境NGO、エンバイロメンタル・ディフェンスが2021年の打ち上げを発表している衛星に、「メタンSAT」がある。世界の温室効果ガスの80%を占める、油田やガス田からの排出量を約4日ごとに、広範囲にわたり測定。カリフォルニア州が予定する衛星からの情報と、メタンSATが得る情報の双方を用い、温室効果ガス中のメタン排出量を算定する計画なのだ。こうした詳細で実用的な情報を用い、政府、企業、経営者などは、よりターゲットを絞った問題緩和策を講じることができるようになる。
グローバル気候行動サミットで、衛星開発・打ち上げを表明するジェリー・ブラウン カリフォルニア州知事
©Global Climate Action Summit,Nikki Ritcher Photography(CC BY 2.0)
エンバイロメンタル・ディフェンスの代表、フレッド・クラップ氏は、衛星を用いた技術を、「環境問題解決を目指す私たちを後押ししてくれる、新時代の環境イノベーション」と位置付けており、さらに「技術自体が温室効果ガスを抑制するわけではないが、環境や、人々の健康・経済を守るために不可欠な情報を提供してくれる」とする。衛星ビッグデータとAIによる情報を取り入れた、温室効果ガス抑制策が功を奏し、気候変動緩和がもたらされることを期待したい。
文:クローディアー真理
編集:岡徳之(Livit)