ユーグレナ(以下、ユーグレナ社)とKAICO(以下、KAICO社)は、九州大学農学研究院・薬学研究院、鹿児島大学農学部、長崎大学熱帯医学研究所の研究グループと共同で、カイコを利用した発現システム「カイコ・バキュロウイルス発現システム」を用いて、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染に重要な役割を果たす組換えスパイクタンパク質の大量生産に成功したと発表した。

また、組換えスパイクタンパク質を抗原として接種することによるワクチン効果を高める物質としてアラムアジュバントを一緒に接種することで、より効率的な防御免疫の誘導を示す研究結果を確認したという。

同研究結果は、早期実用化が望まれる国産ワクチン開発の加速化とワクチン生産の効率化・安全性向上に向け、非常に有効なアプローチになるものとして期待される。

なお、同研究結果は、2022年1月12日にスイスの学術誌「Frontiers in immunology オンライン版」に掲載されたとのことだ。

新たに出現したSARS-CoV-2 は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を世界的に蔓延させており、COVID-19の流行を収束に向かわせるためには、有効なワクチンを低コストで製造し、世界中に普及させる必要がある。

SARS-CoV-2のスパイクタンパク質は、宿主細胞への感染において極めて重要な役割を担っており、スパイクタンパク質を標的としたワクチンや治療薬の開発が有効なアプローチの一つであると考えられるとのことだ。

海外で開発され、すでに使用されているmRNA(メッセンジャーRNA)ベースのワクチンは、人体でスパイクタンパク質を産生するように設計されているが、長期的な安全性・有効性・価格・温度管理などの観点から課題を抱えており、従来わが国で使用されてきた組換えタンパク質によるワクチンや不活化ワクチンとの比較検証の必要性が指摘されているという。

同研究では、SARS-CoV-2の組換えスパイクタンパク質を、「カイコ-バキュロウイルス発現システム」を用いて発現させ、マウスでの抗体産生能を評価。

また、「カイコ-バキュロウイルス発現システム」によって産生されるスパイクタンパク質を抗原とし、ワクチンと一緒に接種することで効果を高める物質であるアジュバントについても検討したという。

■研究の内容と結果

「カイコ・バキュロウイルス発現システム」を用いて、SARS-CoV-2の組換えスパイクタンパク質をカイコの血清から精製し、マウスに抗原として接種することで、マウス血清中に抗原特異的抗体を産生できることを確認。

同研究では、九州大学農学研究院の日下部教授らの研究グループが主導して、「カイコ・バキュロウイルス発現システム」を用いて、他の発現システムでは発現・分泌が困難な組換えスパイクタンパク質三量体の大量生産に成功したとのことだ。

その精製した組換えスパイクタンパク質を抗原とした特異的抗体産生能を確認するために、12、1.2、0.12 µgのスパイクタンパク質を、マウスなどの研究で使用されているアジュバントであるフロイントアジュバント(CFAおよびIFA)とともにマウスにそれぞれ接種し、スパイクタンパク質特異的抗体(IgG)の産生量を測定。

その結果、用量依存的な特異抗体が検出されたという。

アラムアジュバントの使用により、強力な中和抗体0の産生能を有することを確認。

次に、スパイクタンパク質抗原を接種したマウス由来の血清を使用して、SARS-CoV-2感染に対する中和活性(中和抗体の産生能)を調べ、CFAおよびIFAをアジュバントとして抗原を接種したマウスの血清は弱い活性を示したが、アルミニウム塩をアジュバントとして用いた(アラムアジュバント)マウスの血清は、強力な中和活性を持つCOVID-19患者の血清に匹敵する強力な感染抑制能を示したとのことだ。

微細藻類ユーグレナ由来パラミロンのアジュバントとしての有効性も示された

さらに同研究では、微細藻類ユーグレナに含まれる貯蔵多糖であるパラミロンのアジュバントとしての有効性を確認。スパイクタンパク質抗原とともにアジュバントとしてのパラミロンを接種したところ、他のアジュバントと遜色ない特異的抗体産生能を示したという。

また、中和抗体産生能に関しても、マウスごとに個体差はあるものの、一定の中和抗体産生能を持つことが分かったとのことだ。

さらなる検討が必要であるが、パラミロンをアラムなどの他のアジュバントと組み合わせて使用することで、スパイクタンパク質の使用量を減らすことや、追加の免疫効果を発揮することなどが期待されるという。

今後もユーグレナ社とKAICO社は、健康食品、医療分野等での研究開発を行っていくとしている。