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世界の石油生産の多くを占める中東・アラブ地域。化石燃料のイメージが先行する同地だが、実は大規模なクリーンエネルギー投資が行われている。
中でも、“中東のハブシティ”ドバイを擁するアラブ首長国連邦(以下、UAE)では、世界最大級の太陽光発電所が建設されるなど、再生可能エネルギー生産が国家戦略として進められている。
本記事では、UAEのエネルギー戦略や最新の取り組みについてお伝えする。
環境問題、エネルギー問題に積極的なアラブ首長国連邦
まずはUAEについて簡単に紹介しよう。
UAEはアラビア半島の東南端にある人口約1142万人(2021年、IMF推定値)の国で、面積は日本の約1/4。「首長国連邦」というように、7つの首長国が集まって連邦制をとっている。原油生産高は1日約399万バレル(2019年)で世界第6位。一人当たりの名目GDPは38,661ドル(2019年)と、日本(40,089ドル)とほぼ同等だ。
都市開発も盛んで、首都アブダビや国際都市ドバイには近未来的な高層ビルが立ち並び、「現代の砂漠のオアシス」さながらである。教育に熱心な国柄で、国家予算の約20%を教育に分配。豊富な高度人材を背景に、テック分野でも成長著しい。2021年10月から開催されているドバイ万博では、ハイテクを駆使した展示やイベントが話題を呼んでいる。
UAEは環境問題にも積極的に取り組んでおり、連邦政府内閣には気候変動・環境省が設けられている。2021年11月にグラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)にも出席。UAEは2023年COP28のホスト国にも決まっている。
野心的なエネルギー戦略「UAEエネルギー戦略2050」
2017年にUAE連邦政府が発表した、2050年までのエネルギー戦略「UAEエネルギー戦略2050」にも注目が集まっている。内容は以下の通りである。
国内発電におけるクリーンエネルギー(エネルギーミックス)の寄与度を25%から50%に上げること、発電のCO2排出量を70%削減すること、そして個人や企業の消費効率を40%向上すること。これらを2050年までに達成するという、非常に野心的な目標を掲げている。
ちなみに、エネルギーミックスの割合目標は、再生可能エネルギー44%、ガス38%、クリーン石炭12%、原子力6%となっている。
COP26が目前の2021年10月、連邦政府は「2050年までにクリーンエネルギーに1630億ドルを投資する」と発表し、その本気度を世界に示した。
世界最大級の太陽光発電所が続々
UAEの国土はほとんどが砂漠であり、一年を通して豊富な日射量を誇る。そんな恵まれた環境を味方に、国内ではメガ級の太陽光発電所が次々と建設されている。
2017年4月に完工したアブダビのスワイハン太陽光発電所は、1117MW(メガワット)の発電容量を持つ、世界最大級の単一ソーラープラントだ。日本の丸紅が主導したプロジェクトで、同社も20%出資している。
ドバイにあるMBRソーラーパーク(Mohammed bin Rashid Al Maktoum Solar Park)は2030年までに5000MWの発電容量を目指しており、現在は900MWの第5フェーズがスタートしたばかり。
ドバイ政庁は独自のエネルギー戦略「ドバイクリーンエネルギー戦略」の中で、2050年までにドバイの総電力容量の75%をクリーンエネルギーから供給することを宣言している。
潤沢なオイルマネーをクリーンエネルギー開発に投資
UAEがクリーンエネルギー生産に注力する理由のひとつは、外貨の獲得である。
世界的に脱炭素訴求が高まっているが、当面の間は石油やガスがエネルギー源の主流であることに変わりはない。UAEは可能な限り石油・ガスを輸出に回して外貨を稼ぎ、そのお金でクリーンエネルギー開発に投資をしつつ、国内のエネルギー消費を賄おうとしている。
なお、UAEは原子力プラント建設も始めている。2020年8月、韓国電力公社(KEPCO)が請け負ったバラカ原子力発電所がアブダビで稼働を開始した。最終的には4基で5600MWを供給して、国内電力需要量の約25%を賄うだろうと予測している。
首都アブダビのカーボンゼロシティ「マスダールシティ」
クリーンエネルギー立国として存在感を示すUAEだが、その象徴的なプロジェクトがアブダビの「マスダールシティ」である。
政府系エネルギー企業・マスダールによる、最先端テクノロジーや再生可能エネルギーを取り入れた、カーボンゼロの未来型都市開発だ。2006年に着工され、現在も建設中。6.5㎢の敷地には、900以上のテナントが入居できる商業施設や住居用ビルなどが立ち並ぶ。
マスダールシティでは、消費電力のすべてを再生可能エネルギーで賄う。シティから約120kmの砂漠地帯にある太陽光発電所Shams-1が、町全体の電力を供給。シティ内にあるマスダール科学技術研究所でも、屋根に太陽光パネルや太陽熱温水器を設置し、電力と温水を創出しているという。
ガソリン車の使用は不可。シティ内は電気自動車、もしくはコンパクトな無人電動モノレール「PRT」に乗って移動する。PRTは時速40kmで走行し、目的地まで自動運転で連れて行ってくれる。
建物の設計も工夫されている。風が通りやすいようなデザインや、熱をこもらせずに光を取り入れる仕組みが採用されており、自然の力を生かしたサステナブル建築を実現している。
水素エネルギー製造にも着手
UAEは水素エネルギー製造にも着手している。
水素エネルギーは、CO2を排出しない汎用性の高いエネルギーとして多方面で注目を集めている。水(H2O)を電気分解して生み出す水素は、製造過程で使われるエネルギー源が化石燃料であれば「ブルー水素」、再生可能エネルギーであれば「グリーン水素」と呼ばれる。
環境面を考慮するとグリーン水素が望ましいが、電力不足や高コストなどの理由から、現実面でのハードルは高い。
UAEでは太陽光発電の容量が上がってきていることもあり、グリーン水素製造にも乗り出している。2021年5月、ドバイのMBRソーラーパークでは、太陽光エネルギーを活用したグリーン水素製造プラントの稼働が始まった。これは中東・北アフリカ地域で最初の事例であり、ここで製造した水素はドバイ万博でも披露されるとのことだ。
同年12月、マスダールとフランスのエネルギー大手エンジーは、グリーン水素開発の共同プロジェクトを発表。投資額は約50億ドルで、既存のインフラを利用しながらギガ級のグリーン水素ハブを建設する予定だ。
一方、UAEはブルー水素製造に必要な天然ガスが豊富にあることから、ブルー水素ビジネスも並行展開している。
「グリーン重視」を打ち出している欧米に対し、アジアはブルー水素を受け入れる余地が多分にある。UAEはアジア、特にインド、韓国、日本に市場ターゲットを定め、ブルー水素を売り出している。実際、アブダビ国営石油会社(ADNOC)が製造したブルーアンモニアの最初の顧客は、日本の伊藤忠商事であったという。
「クリーンエネルギー立国」として欧米から高評価
地球規模の気候変動が問題になる中、クリーンエネルギーへのシフトは避けられない。石油依存度の高い中東諸国も例外ではなく、エネルギー政策の転換を迫られている。UAEはその重大性をいち早く認識し、石油ビジネスの裏でクリーンエネルギーへの投資・開発を着々と進めてきた。
彼らの取り組みは欧米からも評価されており、米国のケリー気候問題担当大統領特使は、UAEを「他のエネルギー生産国の模範」とツイート。英国のジョンソン首相は、UAEの巨額のクリーンエネルギー投資のニュースに「気候問題解決のためのすばらしい一歩」と賞賛した。
2021年12月、建国50周年を迎えたUAE。新旧両方のエネルギーを利用して新しい国に生まれ変わろうとする彼らの戦略は、賢くしたたかだ。持続可能な国家を実現するため、次はどんな戦略を打ってくるのか。今後も注目していきたい。
文:矢羽野晶子
企画・編集:岡徳之(Livit)
<参考>
Arabian Business「UAE says to invest $163bn in clean, renewable energy by 2050」
CNBC「Green hydrogen hub backed by $5 billion of investment planned for the UAE」
S&P Global「UAE expects 20% of power generation to come from clean energy in three years: official」
New Yoek Times「A Major Persian Gulf Oil Producer Tries to Burnish Its Climate Credentials」
JETRO「産油国UAEも再生可能エネルギーの活用と水素製造に取り組む」
大和ハウス「砂漠のなかに生まれた近未来都市「マスダールシティ」」
日本アラブ首長国連邦協会