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ファストファッションと大量廃棄問題
ファストファッションの普及によって、どこでも安価に多用なアパレル商品を入手できるようなった。
その一方で、ファッション廃棄物は急速に増加し、ごみ問題の悪化に拍車をかけている。また、アパレル商品の大量生産によって、二酸化炭素排出が増えたり、水質汚染を悪化させたりと、ごみ問題以外でも環境負荷を増加させる存在として、消費者や当局からの厳しい目に晒されるようにもなっている。
マンチェスター大学の研究者が女性を対象に実施した研究によると、ワードローブの中で、まったく使われていない衣服は平均12%あることが判明。多くの衣服があまり使われずに捨てられている現状も明らかになっている。
BBCによると、2017年米国で埋め立て処理、または焼却処理されたファッション廃棄量は1300万トンに上るという。平均すると米国では1人あたり年間37キログラムの衣服を捨てていることになる。現在、世界全体のファッション廃棄量は9200万トンほどだが、2030年には1億3400万トンに膨れ上がると予想されている。
一方、米国における衣服と靴のリサイクル率は13%にとどまり、グローバルでもリサイクル率は12%にとどまる状況となっている。
また、アパレルに使う繊維の生産過程では、年間12億トンの温室効果ガスが発生。これは、世界全体の排出量の10%を占める割合だ。さらに世界全体で廃棄される廃水のうち、ファッション産業から流れ出ている割合は20%を占めるという。
ティンバーランドのリジェネレーティブ取り組み
こうした状況下、多くのファッション企業は今流行りの「サステナブル」という言葉を冠した取り組みを行うことを考えるかもしれない。
しかし、先進的な企業はサステナブルの先を行く「リジェネレーティブ」というコンセプトで取り組みを進めている。
リジェネレーティブとは、破壊された自然をもとに戻したり、二酸化炭素をネットゼロにするなどの「マイナスをゼロに戻す」という発想ではなく、マイナスをプラスに転換しようという積極的なコンセプトだ。
「リジェネレーティブ」や「ネットポジティブ」は、世界経済フォーラムなど国際的な場で議題になることが多くなっており、それに関連した取り組みを行う企業も少しずつ増えている。
ファッション業界でリジェネレーティブ取り組みを開始している企業の1つがティンバーランドだ。
ティンバーランドは、2030年までに同社のアパレル素材の100%をリジェネレーティブ資源から調達することを目標に掲げ、いくつかの取り組みを実施している。
目玉の1つは「Earthkeepers」だ。
ティンバーランドのいくつかのアパレル商品では革が使用されている。Earthkeepersマークが付いた商品で使われている革は、リジェネレーティブ農業を実施する農家から調達されたもの。
リジェネレーティブ農業とは、放牧された家畜が草を食べ、その家畜の糞によって草が育つ循環をつくりだす農業のこと。草が空気中の二酸化炭素を吸収することで、その土壌は栄養豊かな健全な状態に戻るという。
Earthkeepersのほかには、サトウキビと天然ゴムを使用しラバーソールをつくる「GreenStride」などの取り組みも行っている。
ノースフェイスは微生物テック企業と提携
アウトドアブランドのノースフェイスもリジェネレーティブ取り組みを開始する。
同社はこのほど、ボストンを拠点とする微生物テック企業Indigo Agと提携し、リジェネレーティブ綿農業を開始することを発表した。この手法で生産された綿を使ったアパレル商品を2022年秋から販売開始する計画だ。
同プロジェクトの詳細はまだ公になっておらず、今後明らかになってくるものと思われる。
今回ノースフェイスと提携した微生物テック企業Indigo Agは、米国で注目される環境系のスタートアップの1つ。今後、ノースフェイスとの提携を皮切りに、アパレル企業との提携が増えてくるかもしれない。
CNBCによると、Indigo Agは2014年に創業された企業だが、すでに11億ドル(約1215億円)を調達しており、評価額35億ドル(約3868億円)に上るユニコーン企業だ。CNBCのディスラプター企業トップ50にも選ばれている。
Indigo Agは、水や肥料、化学薬品の量を減らしつつ、トウモロコシ、小麦、大豆、米、綿などの収穫量を最大化する技術に強みを持っている。
かつて「緑の革命」を通じて、収穫量を高めるため品種改良や遺伝子操作、殺虫剤の大量使用などが行われるようになり、地球上の多くの土地は汚染されてしまった。
同社はその反省に立ち、微生物学とデジタルテクノロジーを駆使し、土地の健康状態を改善させつつ、農家やブランド企業が土壌の健康状態を回復させつつ、収穫量と収益を最大化させるソリューションを提供しているのだ。
ティンバーランドやノースフェイスのほか、ジーンズブランドの「Reformation」が素材トレーシング企業FibreTraceと提携し、トレーサブルかつネットポジティブな素材のみを使ったコレクションを生産する取り組みなども始まっている。
環境汚染のイメージを払拭できるのか、ファッション業界のリジェネレーティブ取り組みの行方に注目していきたい。
文:細谷元(Livit)