コロナで理系選ぶ学生増加、変化したZ世代のキャリアパス

多くの人々の仕事観や人生観を変えたパンデミック。多感なZ世代への影響は特に大きかったと考えられる。

現在、Z世代の多くが高校生や大学生であり、進路やキャリアについて悩む時期だ。パンデミックを経験し、もともと想定していた進路・キャリアを変更しようと考えるZ世代は少なくない。

Civis Anatlyticsが2020年6月米国で実施したZ世代調査によると、パンデミックによって将来のキャリアプランを変更したとの回答は39%、また大学での専攻を変更したとの回答は28%であることが分かった。

どのような変化が起きたのか。

同調査で示唆されたのは、科学・技術・数学・工学(STEM)分野への関心が高くなっている可能性だ。調査対象となったZ世代のうち、今後の進路・キャリアで社会科学系を検討するとの回答が21%、リベラルアーツ系が18%だったのに対し、STEM分野は31%に達したのだ。

コロナで理系選ぶ学生増加、変化したZ世代のキャリアパス

優秀学生が選ぶ、理系の中でも特に人気の分野

日本では「理系・理科離れ」が起きているといわれているが、Civis Anatlyticsの調査では、パンデミックをきっかけに米国では理系への関心が高まりつつあることが示されている。

理系といっても様々な分野がある。特にどの分野の関心が高まっているのか、別の調査から推測することができる。

成績優秀な米国高校生・大学生らが所属する団体NSHSSが実施している調査「Career Interest Survey」だ。

GPA3.72以上の高校生・大学生ら1万4000人以上に、進路・キャリア観を聞いた同調査。2020年版レポートは、同年3〜4月に実施した聞き取り調査の結果をまとめている。

質問項目の1つ「大学では何を専攻する計画か/現在の専攻分野はなにか」で、理系の中でも特に関心の高い分野が如実に示された。1位となったのは医療で、回答割合は30%。次いで2位となったのが科学で、回答割合は29%だった。

3位と4位にはそれぞれビジネスと人文系がランクインしたが、その割合はともに18%。1位の医療と2位の科学とは10ポイントほどの開きだ。

以下、エンジニアリング(15%)、社会科学(11%)、教育(9%)、コミュニケーション(8%)、外国語(8%)、その他(21%)という順位。

パンデミックをきっかけに、医療の重要性を知り、医療分野で貢献したいと考えるZ世代が増えたことを示唆する数字といえる。

このことは、同調査の人気就職先ランキングにも反映されている。

米国の人気就職先と聞いて、GAFAやテスラ、マイクロソフトなどテック大手を思い浮かべるかもしれないが、同調査が高校生・大学生らに関心の高い就職先を聞いたところ、1位となったのが「地元の病院」だったのだ。2018年の前回調査時の3位から上昇。

また2位に「セント・ジュード・チルドレンズ・リサーチ病院」、3位に「メイヨー・クリニック」がランクインし、トップ3を病院が占める結果となった。セント・ジュード・チルドレンズ・リサーチ病院は前回調査では1位。一方、メイヨー・クリニックは前回の13位から3位と大躍進した。

GAFAより人気「セント・ジュード・チルドレンズ・リサーチ病院」ウェブサイト

トップ10にはこのほか、4位ウォルト・ディズニー、5位グーグル、6位FBI、7位アマゾン、8位アップル、9位NASA、10位アトランタ・チルドレンズ・ヘルスケアがランクインしている。

コロナで変わったZ世代が求める福利厚生、ボーナスより健康

「Career Interest Survey」では、Z世代の仕事選びの条件がパンデミックに影響を受けたであろうことも読み取ることができる。

「最も重要視する待遇/福利厚生は何か」という質問で、最も回答者が多かったのが「医療手当」だったのだ。その割合は75%に上る。

2018年調査では、「パフォーマンスボーナス」が70%で最多だった。このパフォーマンスボーナス」は、2020年調査では2位の「基本給」(46%)、3位の「フレキシブル/リモートワーク」(45%)に次ぐ4位(14%)に後退。

パンデミックを経験したことで、守りの姿勢が強まったことが示唆されている。

STEM人材不足が危機的状況の米国、理系Z世代に期待

どのような状況にせよ、STEM分野への関心が高まりつつあることは、米国労働市場にとってプラスとなるはず。

米国ではこのところ理系人材不足が深刻化しており、一部では「危機的状況」にあるとまでいわれているからだ。

全米製造業者協会とデロイトによる2015年の調査で、同国では2025年までに350万人のSTEM人材需要が生まれるが、そのうち供給できるのは150万人で、残り200万人分の不足が生じる可能性が指摘されている。

また米製造大手エマソンが2018年に実施した調査では、調査対象となったアメリカ人のうち5人に2人がSTEM人材不足は「危機的状況」にあると回答。過去に比べSTEM分野を選ぶ学生は増えているものの、それを超えるスピードでSTEM人材需要が伸びていることが要因になっているという。

STEM人材不足は日本を含め世界的な問題でもある。Z世代のSTEM熱は米国以外でも高まってくるのかどうか、注目していきたい。

文:細谷元(Livit