数年前に中国で人気に火がついたことをきっかけに、世界に拡大したシェア自転車ブームを覚えているだろうか。中国発のスタートアップが乱立し注目を浴びたものの、その後、ほとんどの企業が事業を継続できず、大量の自転車が廃棄される結果となった。

このシェア自転車にまつわる負のイメージは今も残っているものの、このところ、欧州の各都市では、シェア電動自転車や、電動キックボードの使用が拡大しており、関連スタートアップによる大型資金調達が相次いでいる。

持続可能な都市の構築において、自動車の代替手段としても重要視されているマイクロモビリティ。

「環境に優しい」はずが、大量の粗大ゴミという真逆の結果となってしまった中国のシェア自転車業界の隆盛、そして没落から数年経った今、欧州のシェア・マイクロモビリティは、どのような展開を見せているのだろうか。

中国のシェア自転車ビジネスが残した負の遺産

中国ではシェア自転車企業の倒産が相次いだ(Markus Winkler on Unsplash)

今から振り返っても、数年前の中国発のシェア自転車企業の躍進は、目を見張るものだった。

中国のスタートアップが提供した、アプリで簡単にレンタル可能でスマートロック搭載のカラフルな自転車は、世界中から熱い視線を浴び、主力企業の一つといわれた北京発の「ofo」は、2018年には、日本も含む世界21カ国250都市にまで展開していた。

しかし、この中国の「シェア自転車バブル」は、数年であっけなくはじけた。過当競争により倒産する企業が続出し、生き残った企業も海外拠点からの撤退を発表。

1000万台を超えるとも言われる莫大な数の自転車が打ち捨てられ、山のように自転車が積み上げられた廃棄場所の写真は、「自転車の墓場」というキャプションとともに世界中で報道された。

躍進する欧州のシェア・マイクロモビリティ企業

躍進する欧州のシェア・マイクロモビリティ企業(Daniel von Appen on Unsplash より)

一時は欧州にも到達した中国発のシェア自転車はこうして姿を消してしまったが、それに代わって、現在欧州で急速に拡大しているのが、シェア・マイクロモビリティ、特にシェア電動キックボードだ。

電動キックボードは、日本では法規制の問題もあり、普及はまだまだこれからといったところだが、欧州の多くの都市ではすっかり日常の一部となっている。

シェア電動キックボードの普及がこれだけ進んだのは、自動車の代替手段として、環境問題への意識の高まりを受けているだけでなく、利便性も高さも一役買っている。

乗り捨て可能で、自転車より高速で移動できるため、公共交通機関の空白を埋める形で使うにはもってこいであり、駅と駅の間をつなぐように乗るといった使い方をする人も多い。

昨年からはパンデミックで混み合うバスや電車を避ける人が増えたことも追い風となり、2025年までに世界の電気キックボード市場は約1兆円に達すると予想されている。

相次ぐシェア・マイクロモビリティ企業の資金調達

そんなシェア・マイクロモビリティ業界への期待を受け、このところ関連企業の資金調達が相次いでおり、各社は調達した資金を車両やアプリの性能向上に投資、より利便性を高めている。

ドイツ発の「Tier」は昨年、ソフトバンクなどから2億5000万ドルを調達し、今年に入って、店舗設置型バッテリー充電器を提供する英国企業を買収。今後、コンビニやカフェで充電できるようにする計画だ。

スウェーデン発、欧州9カ国18都市に展開する「Voi」は、8,500万ドルの資金調達を受け、より長持ちするキックボード、および駐車パターン分析ソフトウェアの開発を行うと発表。今後は、欧州150都市への展開を計画している。

エストニア発の「Bolt」は、ライドシェア、シェアリングデリバリー企業だったが、2018年よりシェア電動キックボードの提供も開始し、現在は欧州の45都市にまでサービスを拡大した。

昨年、約120億円を調達した同社は、今年に入って世界銀行グループから約25億8000万円を調達。今後は、アフリカなど新興国へのさらなる進出、欧州での電動バイクの展開を目指している。

長期的な安定運営のために。行政との連携強化を図るVoi社

 行政との協力関係を着実に構築するVoi(Markus Spiske on Unsplash)

シェア・マイクロモビリティ関連企業が長期的な安定運営のために意識しているのが、交通ルールの整備による安全の確保、駐車・充電場所の確保といった課題に対応するための、国や地方自治体との連携の強化だ。

かなりの速度が出る電動キックボードは、歩行者にとって危険なだけでなく、転倒時には前に顔から倒れこむため、重症を負うドライバーも少なくない。

Voi社は、ホームタウンであるストックホルムでのサービス提供にあたり、市と趣意書を交わし、安全対策について合意をした。この協議は、ストックホルム市の側も、電動キックボードを環境汚染を軽減する重要な手段として前向きに受け入れる結果につながったようだ。

Voi社はドイツにおいても、公共鉄道会社と協力して、駅の近くに駐車スペースを確保、リューベック市では、すでに公共交通機関の定期券等を持っているユーザーに割引料金を提供し、その代わりに市からグリーン電力の供給を受けてキックボードを充電するという協力体制を築いている。

真に「環境へ優しい」移動手段になるために

寿命がきた自転車やキックボードの廃棄は大きな課題となっている(PIXABAYより)

このように国や自治体と協力体制を構築するための基礎となっているのが、電動キックボードや電動自転車が「環境に優しい」交通手段であるという点だ。

しかし、二酸化炭素の排出量が自動車より少ないという点を考慮しても、シェア・マイクロモビリティが、本当に「環境に優しい」のかという疑問は残っており、今後長期的にこの業界が成長するためには、無視できない論点となっている。

シェア・マイクロモビリティがもたらす環境負荷として危惧されているのが、車両の寿命の短さに伴う廃棄物問題だ。基本的に自動車と比較して短命な電動キックボードを例に挙げると、前述の「Voi」の最新モデルでは、理論上5年にすぎないという。

各社はリサイクルの推進と、その情報公開を積極的に行うことで、この課題に対処しようとしている。

Voi社は、寿命となったキックボードの90%をリサイクル。欧州にも広く展開する米Lime社はリサイクル業者と協力して、電動キックボードの金属部品の100%、バッテリーの99%、パッケージの67%をリサイクルしているという。Tier社は独自のアプローチとして、廃棄となったスクーターを再生し、一般向けに販売するという取り組みを行っている。

今年から、規制緩和により、日本でも浸透が本格化すると予想されている電動キックボードをはじめとするマイクロモビリティ。

安全面などまだまだ課題は多いが、その利便性と風を切って走る快適さは一度体験すると忘れられない。現在の欧州のブームが一過性にならず、適切な法整備と環境配慮により長く続くことが期待される。

文:大津陽子
企画・編集:岡徳之(Livit