ここ最近、プラスチックによる環境汚染への関心が高まっている。プラスチックは軽くて堅牢度があり、腐食しないという特性がある非常に便利な材料だが、リサイクルが進んでいるとはいえ使い捨てが主流で、その量が世界レベルで飽和状態になりつつある。

なかでも深刻なのが、海洋のプラスチックごみである。アメリカの海洋保護団体のオーシャン・コンサーバンシー(Ocean Conservancy)によると、毎年、800万トンにおよぶ量のプラスチックが海洋に流れ込み、1億5,000万トン相当が現在も海洋に循環しているという。

2016年に環境省の主催した「海洋ごみシンポジウム2016」で報告された世界経済フォーラムラム(ダボス会議)では、1964~2014年の50年でプラスチックの生産量は20倍に急増、後20年間でさらに倍増する見込みだという。リサイクル率でいうと、紙58%、鉄鋼70〜90%に比べてプラスチックはわずか14%である。

2つに分類されるマイクロプラスチック

プラスチックによる海洋汚染は、映像で見かけるような漂流物だけではない。むしろ、海水中に漂う微細のプラスチックが大きな問題として注目されている。

5ミリ以下の極小のプラスチックは「マイクロプラスチック」と呼ばれている。環境省の資料によると、マイクロプラスチックは2つに分類される。

ひとつは、大きなサイズで製造されたプラスチックが自然環境中で破砕、細分化されてマイクロサイズになったもの。海洋ではプラスチックが紫外線や風にさらされ、波や岩に打ち砕かれて細かくなったプラスチックがそうである。

もうひとつはマイクロビーズ。洗顔料や歯磨き粉、化粧品などのスクラブ材として1ミリ以下のマイクロサイズで製造されるプラスチックである。


マイクロプラスチックとマイクロビーズ(写真:CC BY-NC 2.0)

有害物質を吸着するマイクロプラスチック

海水中のプラスチックゴミが怖いのは、どんなに小さくなっても生態系のなかで分解されることがなく、海洋を汚染し続けることだ。そして、海の生き物の食物連鎖の中にマイクロプラスチックが入り込んで生育不足などが引き起こされ、生態系のバランスが崩れる危険がある。

さらに最近の研究ではマイクロプラスチックが海に残留するPCBなどの有害な物質を高濃度に吸着しやすいことがわかってきた。それを取り込んだ生き物の体内に有害物質が蓄積され、それを摂取するヒトにも影響を与える危険性も示唆されている。

海洋を漂うマイクロプラスチックのうちマイクロビーズは10%ほどだが、その小ささゆえにプランクトンさえ取り込んでしまい、食物連鎖への影響も大きい。

日用品に使われているマイクロビーズ

マイクロビーズは歯磨き粉、洗顔料、シャワージェル、化粧品などのパーソナルケア製品のスクラブ材として使われている。一般社団法人廃棄物質源循環学会によると、100g前後の1本の化粧品チューブに十万個から十百万個のマイクロビーズが含有されているという。

マイクロビーズはやっかいなのは、一部が下水処理ですり抜けてしまい、海に流れ込んでしまうことだ。先進工業国の下水処理システムではほぼ除去されると報告されているが、プラスチックゴミ発生量で上位にいる東・東南アジアにおいては、高度なシステムが整っているとはいいがたい。

布のエコバッグを持参してレジ袋を使わない、プラスチック容器に入った商品を極力買わないなどのプラスチック減に貢献する行動は数十年前に比べて浸透しており、それを実行する人も多いと思うが、そのうちどれだけ人が毎日使う洗顔料にプラスチックが使われており、日々の生活で大量に下水に流していたことを知っていただろうか。


マイクロビーズは歯磨き粉などにも使われている

国家・民間レベルで対応

マイクロビーズ問題に早くから取り組んできたのがヨーロッパだ。2012年、アムステルダムの環境団体Plastic Soup Foundationが、“Beat the Microbead”キャンペーンを展開。商品のバーコードをスキャンしてマイクロビーズが入っているかどうかをチェックするアプリを5カ国語で公開している。

その動きに呼応するように、2014年、オランダは国家レベルで初めてマイクロビーズが入った商品を2016年末までに排除すると発表した。英国では2018年1月、マイクロビーズを含む商品製造を禁止する法律が施行となった。フランスでも2018年までにマイクロビーズを使用した洗い流すことができる商品の禁止を目指すとしている。

EUは2030年までに使い捨てプラスチック製の容器や包装材を再利用またはリサイクル可能なものとし、プラスチック使い捨てを削減する戦略を発表した。戦略の中にはマイクロビーズを含むマイクロプラスチックの規制も含まれている。


Beat the Microbeadのアプリ

北米では、2015年、オバマ政権下で「マイクロビーズ除去海域法」(The Microbead-Free Water Act)が成立し、マイクロビーズを含む水で洗い流すことができる商品の製造、輸入が禁止され、2018年からは販売も禁止となる。カナダでも製造、輸入のほか、2018年からは販売も禁止となった。アジアでは、先駆けて台湾が2018年7月からマイクロビーズを含む洗い流すタイプヘアケア、クレンジング、歯磨きなど6種について販売禁止とした。

大手企業も積極的にマイクロビーズ使用禁止に乗り出している。オランダが発表する前の2012年、一般消費財メーカーとして世界最大手の英蘭企業ユニリーバや米国のプロクター&ギャンブル(P&G)、フランス化粧品のロレアルもマイクロビーズを含む商品を排除していくことを発表。欧州最大の化粧品業界団体で、約4,500社を会員にもつCosmetics Europeでは、会員企業に2020年までにマイクロビーズを排除するよう求めている。

ちなみに、前述の「海洋ごみシンポジウム2016」で、日本周辺海域(東アジア)では、北太平洋の16倍、世界の海の27倍のマイクロプラスチック(個数)が存在したと資料で発表。日本周辺海域はマイクロプラスチックのホットスポットと言えるとしている。

廃棄物の課題には3R(Reduce/削減、Reuse/再利用、recycle/リサイクル)で取り組むしかない。2050年までには、全世界のプラスチックの量は重量ベースで魚の量を上回る計算だという。今、対策をとらないと海洋に明るい未来はないのではないか。


What are microplastics?(出典:アメリカ海洋大気庁のウェブサイトより)

文:水迫尚子
編集:岡徳之(Livit