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アマゾンが月額制クラウドゲーム「Luna」ローンチ
ソフトウェアやプラットフォームの「クラウド」化が進む時代、ゲームもクラウド化の様相だ。
アマゾンはこのほど、米国で月額制のクラウドゲームサービス「Luna」をローンチ。ユーザーの端末にコンテンツをダウンロードするのではなく、クラウド上のコンテンツをストリーミングする形で楽しむゲームサービスだ。10月22日現在、早期アクセスキャンペーンを実施中で、月額5.99ドルに設定されている。
ゲームといえば、これまでプレイステーションや任天堂スイッチのようにゲーム機(コンソール)を通じて楽しむものが一般的だった。クラウドゲームは一定以上の通信速度を確保できるネット環境があれば、どこでもプレイできるもので、ゲームの多様化の一端を示すもの。
たとえばアマゾンLunaは、PC、Mac、Fire TV、iPhone、iPadをディスプレイとしてゲームプレイすることが可能だ。プレイするには専用のコントローラー(49.99ドル)、またはXbox Oneコントローラー、 ソニーのDualShock4が必要となる。
ストリーミング画質は現在最大でフルHD (1,080p)/60fpsだが、今後4Kストリーミングも可能になるという。
Lunaウェブサイトによると、フルHDストリーミングで推奨される通信速度は10Mbps、一方4Kストリーミングは35Mbpsが必要。
ネット速度の国際比較を実施しているSpeedtest.netの最新データによると、固定回線の速度が最も速い国はシンガポールで、ダウンロード時の速度は226Mbps。日本は24位で132Mbps。10Mbpsを下回るっているのは、160位のスワジランド(9.96Mbps)や161位のシエラレオネ(9.76Mbps)など。10Mbpsはほとんどの国で達成可能な速度となっている。一方4Kストリーミングに関しては、現在88位の南アフリカ(35.10Mbps)までが推奨基準を満たしている。
フルHDストリーミングでは1時間あたり10GBほどの通信量になるとのこと。
グーグル、マイクロソフト、Nvidiaなどもクラウドゲームサービス提供
クラウドゲームはLuna以外にもいくつか存在している。グーグルの「Google Stadia」、マイクロソフトの「Xbox Cloud gaming」、Nvidiaの「GeForce Now」など。
Lunaはこれら既存のクラウドゲームサービスと比べてどのようなパフォーマンスなのか。
米テクノロジーメディアArsTechnicaの記者サム・マコベッチ氏が10月21日の記事で、Lunaをプレイした所感を伝えている。
クラウドゲームの懸念点の1つとしてよく挙げられるのが「レイテンシー(遅延)問題」。ボタンを押してから、ゲームプレイに反映されるまでに遅れが出るというもの。マコベッチ氏は、Lunaは他のクラウドゲームと比べても遜色なく、ストリーミングサービスとしては全体的に満足できるクオリティであると評価。ただし、注意深く見ると若干のレイテンシーは存在するという。レイテンシーに関して、最もパフォーマンスが良い(遅延時間が短い)のはGeForce Nowだが、Lunaはそれに近いパフォーマンスとのこと。
画質に関しても高評価だ。動きが速いシーンでも映像は1,080pでクリアに描写されたという。シアトル在住の同氏の通信環境は、ダウンロード速度275Mbps。ただし、セガが2017年にリリースした高速アクションゲーム「ソニックマニア」では、フレームレートが若干落ちる現象が発生。マコベッチ氏は、現時点でLunaは処理負荷が高まったとき、画質を落とすのではなく、フレームレートを落として対応しているようだと指摘している。
また現時点では、ゲーム画面の写実性を高める「レイトレーシング」は選択できないとのこと。
「サブスクリプション疲労」など、クラウドゲームの課題と可能性
アマゾンやマイクロソフトの取り組みによって関心を集める「クラウドゲーム」。プレイステーションなどのコンソールやPCに取って代わる存在になるのではないかとの議論も出てきている。
しかし、技術的な課題、熱心なゲームファンの存在、消費者心理の変化、などを加味すると、クラウドゲームがコンソールやPCに取って代わることは直近では難しいといえるかもしれない。短期的には、クラウドゲームはカジュアルなゲームファンを取り込み、ゲーム市場全体を拡大させつつ、コンソールやPCと棲み分ける存在になることが考えられる。
技術的な課題に関しては、まず通信速度・量の問題が挙げられる。
デロイトが2020年3月9日に発表したクラウドゲームに関する記事では、米国では約3,400万人の「core gamers(熱心なゲーマー)」がおり、平均で1週間あたり22時間ゲームをプレイしていると指摘。その上で、もし熱心なゲーマーがクラウドゲームにシフトした場合、1カ月あたりの通信量は1,300GB以上になり、この通信ニーズを満たすには、通信バリューチェーンにおけるさらなるイノベーションが必要になると述べている。
また、熱心なゲーマーはよりリアリスティックなゲーム体験を求めていることが想定され、その需要を満たすには4K以上の画質に加え、レイトレーシングといった要素が必須となる。画質が4K以上となった場合、その通信量は上記デロイトが指摘する以上のものとなり、通信回線への負荷は一層高まることになる。
さらに、デロイト調査によると、消費者の間では「サブスクリプション疲労」と呼ばれる心理傾向が広がりつつあり、クラウドゲームにおける新規サブスクリプションに影響する可能性も排除できないとのこと。
一方で、11月発売予定のソニー・プレイステーション5は、4K対応に加え最大8Kまで出力可能、レイトレーシングもサポートしている。また、任天堂がこのほどリリースしたARゲーム「マリオカート・ライブ・ホームサーキット」もコンソールの可能性を示すもの。
コンソール、PC、モバイル、AR、VR、そしてクラウドゲームと多様化を深めるゲームの世界。この先、どのように進化するのか気になるところだ。
文:細谷元(Livit)