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ライト兄弟が飛行機を発明したのは1903年。それまでは船で何日もかけて大陸から大陸へと移動していた人類にとって、信じがたい夢のような乗り物の登場だっただろう。それからわずか100余年の間に、飛行機は誰しもが利用できる移動手段となった。しかもただ移動するだけではない、より高度な乗り物にーー。
ルフトハンザ航空の生体認証搭乗
パスポートもチケットも不要な時代がくるかもしれない(アマデウスHPより)
2018年、ドイツのルフトハンザ航空が「生体認証搭乗」を始めた。これは、搭乗者が顔認証カメラを備えたセルフ搭乗口を通過すると、画像がCBP(Customs and Border Protection)のデータベースに送信され、リアルタイムマッチング・認証を経る。すると数秒で搭乗客の搭乗が確認されるというシステムだ。搭乗客は搭乗券やパスポート提示をする手間もなく、自らの顔がIDとなりを軽やかにボーディングできる。
ロサンゼルス国際空港で、生体認証搭乗が試験導入された際は、350名の搭乗手続きがなんと20分で完了した。このスピードと手軽さは乗客からもポジティブに受け取られ、今後、アメリカ国内のほかの空港でも導入される方針が明らかになった。
このシステム開発には航空関連のイノベーション創出に強みを持つスペインのIT企業、アマデウス(Amadeus)が携わっている。今後、わたしたちの空の旅はどうトランセンデンス(これまでを超越)していくのだろうか――。
ウェアラブル端末による、シームレスな空の旅
アマデウスが開発中のウェアラブル端末のイメージ(アマデウスHPより)
腕時計のように、体の一部に装着するウェアラブル端末。最近ではアップル社のアップル・ウォッチが記憶に新しい。このウェアラブル端末が、今後の空の旅を変えていく可能性があると、アマデウスは推測している。
例えば、あなたは今、空港のターミナルにいる。そろそろ搭乗時間が近づいてきたので、指定の搭乗ゲートへ向かい始める。片手にコーヒーを持ち、もう片手に手荷物用のスーツケースを持って。ゲートへ近づくと、携帯のビープ音が鳴った。両手がふさがっているので、腕に装着した「スマート・ウォッチ」を見てみると、搭乗ゲート変更の通知が表示されている。そこでくるりと行先を変更し、新たな搭乗ゲートへ向かう。
搭乗口に着くと、係員はスマート・ウォッチをすばやくスキャンし、あっという間にボーディング手続きが完了する。さて、スーツケースは? 内部にBluetoothチップが埋め込まれているため自動的に重量確認がされ、あなたはスマートフォンからリモートロックをすればOK。さらにラウンジでは、好みのドリンクがさっとサーブされ、搭乗まで優雅な時間を過ごすことができる――。もちろん支払いもスマート・ウォッチで。
乗客は、搭乗ゲートを空港モニターで確認したり、搭乗の際にチケットやパスポートをわざわざ出したりすることなく、スマートにボーディングできるのだ。しかも、端末に埋め込まれた個人情報により、乗客個々の好みを把握し、よりパーソナライズしたサービスを受けられることが可能となる。
より先進的なウェアラブル端末やそれに伴うシステム開発が進めば、こんな夢のような空の旅が実現する日も近いかもしれない。
チェックインに長蛇の列は過去のものへ(アマデウスHPより)
前例にシームレスサービスの先駆者、米ディズニーワールド
さて、こういったシームレスサービスは夢物語ではなく、すでに実施されている「前例」がある。アメリカのディズニーワールドで入場チケットの代わりに使用されている「マジック・バンド」だ。
マジック・バンドは腕に巻きつけるタイプのデバイスで、来場者は紙のチケットかマジック・バンドかを選ぶことができる。このマジック・バンドひとつで、ファストパスの取得、園内のレストランやショーの予約などを一括ででき、いちいちファストパスを取りに行ったり、混雑時のレストランで待たなくても済む。そして店によってはバンドによるE決済も可能。
さらに、ディズニーリゾートホテルのルームキーとしても利用され、園外施設との連携もできている。マジック・バンドはただのチケット代わりではなく、ディズニーリゾートでのバケーションの過ごし方を根本から変えた、オール・イン・ワンのデバイスなのだ。
空港へ向かう車中もーー垣根を超えたウェアラブル戦略
空港までの車中の過ごし方も変わるだろう(アマデウス公式YouTubeより)
アマデウスは現在、スマートフォンと連動するウェアラブル用の専用アプリを開発中だ。また、フランスの大手自動車メーカーや空港グループと協力し、空港へ向かう車中で旅行に必要な情報を確認、予約できるサービスも開発している。
これは、車に乗り込むと、車のモニターに利用フライトの情報が映し出され、交通量の少ないルートを案内してくれる。そして、空港の駐車スペース(しかも最もアクセスのよい)も探してくれるというようなサービスを搭載している。
旅行に関わる各社が協力し、垣根を超えた効果的なモバイル/ウェアラブル開発に成功すれば、顧客とのやりとりもよりスムーズになり、真のパーソナライゼーションサービスが可能となる。これには、各社との利益配分など細かい問題も生じるが、何より大切なのは、顧客にとって心地よいサービスを生み出して、顧客定着率を高めることに他ならない。
よりパーソナライズしたオンラインチケット予約
オンラインチケット予約にも革新の余地がまだあるという(アマデウスHPより)
さて、航空券をオンラインで購入する際、あなたはどんな情報を元に決定しているだろうか? 現在、航空各社から格安チケットの比較サイトまで、実に多くのサイトでチケット購入が可能である。しかし、そこに表示される情報は、価格とスケジュール、利用空港といった実に簡易的な情報のみではないだろうか。
アマデウスはオンライン旅行代理店であるルートハッピーと連携し、より詳細な情報の元、個人に最適なフライトを選択できるような販売サイトを計画している。
例えば、写真や説明を元にして、座席タイプやフライト中に受けられるサービスやアメニティを紹介する。そして、プレミアムシートへのアップグレードや、ラウンジ利用の申し込みなど、単にフライトを選ぶだけでなく、それに付随するサービスまで選択できるようにするのだ。
IoT(モノのインターネット)によるさらなる可能性
話はウェアラブルに戻るが、ウェアラブル端末をはじめとするIoT、つまりモノのインターネットは、これからさらに空の旅の革新を促すことは間違いない。乗客に見えない部分である、飛行機の機材メンテナンス(故障を事前に察知する)やフライトの事前データ収集(気象予測に基づいてルート選定をし、安全や燃料削減に繋げる)などが予測できるところだろうか。
さらに、ロケーションデータを利用し、乗客個々が必要な到着地情報の提供もできれば最高だろう。時間のないビジネスマンには、レビューの高い美味しいテイクアウト専門店を、そしてグルテンアレルギーに悩む人には、グルテンフリーのレストランを。宿泊ホテルでも、自動チェックインや顧客に合わせたサービスをあらかじめ用意することが可能になるだろう。
だが、現在のIoT開発はまだそれに達していない。未解決分野のひとつに、IoTデバイスの共通プラットフォームとオペレーションシステムの互換性がある。さらに、個人情報とセキュリティをハッカーから守ることや、更新可能なソフトウェア開発といった部分も、今後の課題だ。
しかし、約1世紀の間に飛行機の発明からここまで進化した人類である。これが不可能であるとは誰も考えないだろう。今後、空の旅がどのように変化していくのか。それはわたしたちの想像を超えるものであるかもしれない。
文:矢羽野晶子
企画・編集:岡徳之(Livit)
img参照:
http://www.amadeus.com/blog/14/12/wearing-boarding-pass/
http://www.amadeus.com/blog/22/02/see-get-amadeus-routehappy-partner-enhance-flight-shopping/
http://www.amadeus.com/blog/13/11/innovations-will-shape-next-30-years-travel/
http://www.amadeus.com/blog/03/10/iot/
http://www.amadeus.com/blog/20/06/case-study-disney/