運動不足とストレスが広がる現代社会の課題

現代社会では、多くの人々が日常生活の中で「運動不足」と「心身の疲労」を抱えている。デスクワークやオンラインでのやり取りの増加により身体を動かす機会は減少傾向にあり、世界的に「座りすぎ」が健康リスクとして注目されるようになった。

WHO(世界保健機関)の報告によれば、世界の成人の約4人に1人(27.5%)が運動不足とされ、厚生労働省の調査では、日本においても20〜64歳の約6割が日常的に推奨される運動量を満たしていないという。さらに、日本人の約6割が日常的に強いストレスを感じているという結果も出ている。健康の大切さを理解していても、行動に移せない人が多いのが現状だ。

こうした課題に対し、アシックスジャパンは2025年6月4日から10月13日まで、大阪の直営店「ASICS GRAND FRONT OSAKA」にて、カラダで奏でる新感覚アクティビティ「DISCOVER. by ASICS」を展開。運動に馴染みのない人でも自然と身体を動かせる仕掛けを備え、わずか15分9秒という短い時間で心と身体をリフレッシュできるという。

本記事では、アシックスジャパン株式会社(以下、アシックス) 取締役 マーケティング統括部 統括部長の狩野和也氏に、本取り組みと現代社会が抱える課題と同社の新たな挑戦について話を聞いた。

アシックスが目指す「心と身体の調和」

「健全な身体に健全な精神があれかし」という創業哲学のもと、アシックスは誰もが一生涯運動・スポーツに関わり、心と身体の健康を維持できる世界の実現を使命としてきた。狩野氏は身体を動かすことの意義について、次のように語る。

「身体を動かすことで心にもポジティブな影響があることは明らかです。昨年実施した世界規模の研究調査『Move Her Mind』でも、女性の運動機会と精神状態には相関関係があり、運動すればするほど気分がよくなる一方、半数以上の女性が運動をやめてしまっていることが分かりました。掃除など日常生活の動きも運動と捉えることで、運動へのハードルを下げてほしいと考えています」

運動不足の大きな理由として挙がるのが「時間がない」という声だ。狩野氏は、この思い込みを変える必要があると語る。

「運動と聞くと『高い強度』や『長時間』を想像しがちですが、実際には15分9秒程度で心の高揚を感じることができます。運動強度は関係ありません。このことをより多くの方に知っていただくことが重要だと考えています」

アシックスが導き出した「15分9秒」という数字には明確な根拠がある。

「この15分9秒は、当社の独自調査で心の高揚に必要とされる時間として導き出しました。強度は関係なく、わずかな運動でもポジティブな精神的影響を得られることを知っていただきたい。この考え方を体験に組み込んだのが『DISCOVER. by ASICS』です」

また、同社の独自調査でも運動不足の要因として「時間がない」に加え、「安全な場所や環境がない」といった回答もあった。そこでアシックスは、運動しやすい環境づくりやコミュニティ形成にも注力し、「DISCOVER. by ASICS」を企画したという。

「DISCOVER. by ASICS」がもたらす没入型ウェルビーイング体験アシックスはトップアスリートだけでなく、年齢や競技レベルを問わず自己実現を目指す「LIFETIME ATHLETES」に向けて多様な商品やサービスを提供してきた。狩野氏は、スポーツがライフステージによって役割を変えながらも人生に寄り添い続けるものであると強調する。

「幼少期は体力をつけるため、学生時代には勝ち負けや協力を学ぶ。社会人は気分転換やコミュニティ、ご年配の方は体力維持といったように、スポーツは役割を変化させながら常に人生と共にあります」

「DISCOVER. by ASICS」は、普段アシックスと接点の少ない人や運動習慣のない人にこそ体験してもらいたいという思いから企画された。

「DISCOVER. by ASICS」で得られる体験は従来のフィットネスプログラムとは異なるとし、その内容について狩野氏はこう説明する。

「当社が目指す運動習慣は、激しい運動だけを指すものではありません。散歩のような軽い動きでも心は前向きになります。今回、音と光を使った没入型空間を当社として初めて制作しました。本来の自分と向き合う非日常体験を通じて、身体を動かすことを身近に感じていただきたいです」

「DISCOVER. by ASICS」は運動習慣のない人でも自然と動きたくなるよう演出が施されており、15分9秒の体験を通じて心身の変化を実感できる設計だ。

この「DISCOVER」という名には、参加者が身体を動かす喜びを再発見してほしいという願いが込められている。実際に体験した来場者からは「15分9秒があっという間」「想像以上に楽しかった」といった声が寄せられた。

短時間でも心身にポジティブな効果を感じられることが、アシックスが掲げるブランドスローガン「Sound Mind, Sound Body」への理解にもつながっている。

「この創業哲学にも通じるスローガンのもと、当社は誰もが一生涯運動やスポーツに関わり続け、心と身体が健康で居られる社会を目指しています。『DISCOVER. by ASICS』もその一環で、日常生活に“15分9秒”を取り入れることで心身ともに健やかに過ごしていただきたいと考えています」

ウェルビーイングの未来をつくる、「Sound Mind, Sound Body」の実践

現時点で「DISCOVER. by ASICS」と同様のイベントは、今後予定されていないが、アシックスは引き続きウェルビーイングを重視した体験型施策を展開していく。9月には東京世界陸上にあわせ、「ASICS MOVE STREET」「ASICS METASPEED EXPERIENCE」といった体験イベントも実施した。

さらに、従業員に向けてもブランドスローガンである「Sound Mind, Sound Body」の実現を推進。新設された「ウェルビーイング推進部」のもと、健康経営宣言に基づき、従業員とその家族の心身・社会的健康を支える取り組みを強化している。

狩野氏は最後にこう語る。

「社会が大きく変化する中でも、私たちの創業哲学は変わりません。アスリートだけでなく誰もが一生涯スポーツに関わり、心身の健康を維持できる社会の実現を目指しています」

「DISCOVER. by ASICS」が提示する「15分9秒」の新習慣は、運動不足やストレス社会を乗り越えるためのひとつの提案だ。短い時間でも身体を動かすことで、心と身体の両面にポジティブな変化をもたらすことを示したアシックスの挑戦は、今後の社会におけるウェルビーイングの在り方を示すモデルケースになるだろう。