新世代のA(Action)面とB面(Business)に密着するインタビュー企画。第13回に登場するのは、渡邉柊さん。B面では、日本化粧品検定協会で会社員をしながらSNSで発信し、2024年にはアイケアブランド「iRu-(アイルー)」を立ち上げ、多くの人に綺麗を届ける渡邉柊さんのクリエイターとしての価値観に迫ります。

【渡邉柊】
日本化粧品検定協会の会社員で、 正しい美容知識をわかりやすく発信している美容家。 女性のみならず、10代〜20代男性からも支持されており、 分かり易く美容商品を紹介するSNSや動画が今注目を集める。 化粧品ブランド「iRu-」の代表&プロデューサー。

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商品だけじゃなく付加価値に惹かれる|渡邉柊のA面

正しい知識を簡潔に、面白く。唯一無二の動画作り

ーアカウントを運営する上で最も重要だと考えていることは何ですか?

一つ目は、フォロワーを大事にすることです。インフルエンサー活動はフォロワーの存在なしには成り立ちません。フォロワーが求めることをしっかりキャッチして、それを動画に反映させることをとても大切にしています。

もう一つは、僕のアカウントでしか見ることができない動画を作ることです。美容そのものが好きなのですが、「知りたい」という知識欲も強くて。その化粧品は本当に効果があるのか調べたい、自分の肌で実感したいという思いをコンテンツに活かして、他の人には作れない動画になるよう心がけています。

ーどういう情報発信をしたいと考え、どのような戦略で取り組んでいますか?

面白く、正しい美容知識を得られる動画を届けたいと思っています。SNSで流れてくる美容知識のうち、正しいものは2割程度ではないかと思っていて。さらに、正しい知識を発信している方は専門家であることも多く、内容が難しくなりがちです。正しい知識を求めるほど、難しい知識や発信者にたどり着いてしまうので、キャッチーな情報や発信者が注目されやすくなっているのではないかと思います。

だからこそ、正しい知識をより簡潔に、より面白く発信することが大切だと思うんです。そのために、「どうやったら面白くなるか」という視点で常に企画を考えていて、それが体を張った検証や、一目で結果が分かるインパクトのある動画作りにつながっています。

ー正しい知識を発信していると、見ている人に伝えるために工夫していることは何ですか?

日本化粧品検定1級を保有していることや、日本化粧品検定協会で働いていることをプロフィールに書いたり、動画内で伝えたりしています。最近は、有識者や化粧品メーカーとコラボして、より説得力のある情報発信を心がけています。例えば、日焼け止めの原料である紫外線散乱剤を作っている原料メーカーとコラボしたり、原料の開発者にインタビューしたりしました。

「パクりだ」アンチコメントを乗り越えた1年目

ーインフルエンサー活動を始めた当初に直面した最大の挑戦は何でしたか?

美容情報を発信している方がたくさんいる中で、自分の色を出すことは大きな挑戦であり、壁だったと思います。特に活動を始めて最初の1年は、他のインフルエンサーの真似だと思っていた方も多くて、「パクりだ」というアンチコメントも結構ありました。

ーその挑戦を乗り越えた経験から、どのような学びや成長がありましたか?

美容業界はレッドオーシャンなので、ある程度内容が被ってしまうのは仕方がないと思うんです。だからこそ、誰かの真似だと思われず、誰にも真似されないような動画を作ろうという気持ちが強くなりました。

また、最初の頃はアンチコメントが来たら結構対抗してしまっていて…。でも、そうではなくて、コメントを取捨選択することが必要だと学びました。それからは自分のマインドをコントロールできるようになり、アンチコメントはあまり気にしなくなりましたね。

ー失敗からの回復において、最も重要だと思う要素は何ですか?

大きな失敗はないものの、「こうすればよかったな」という小さいミスはたくさんあって。そういう時に、まさにそのミスを的確に指摘するアンチコメントが来るんですよ。結構メンタルにきますし、イライラすることもありますが、言い返さないことが大事だと思っています。逆に、そのコメントに対して「ここは申し訳なかったです」と謝罪して誠意を見せるようにしていますし、指摘に対するアンサー動画を作ることもあります。

「困った時に教えてくれる人」であれるように

ーフォロワーとの繋がりを強化するために特に重要視していることは何ですか?

Instagramでフォロワーとのコミュニケーションを積極的に取るようにしています。悪質なコメントなどでなければ、いただいたDMは必ず返すよう徹底していますし、動画のコメントに返信することも多いです。また、ストーリーズでアンケートをとり、その結果をもとに動画を作ることもあります。

ーいろいろなSNSがある中で、なぜInstagramに力を入れているのですか?

Instagramは、フォロワーと相互のコミュニケーションが一番取りやすく、コンテンツとフォロワーとの親和性が高くなりやすいSNSだと思うからです。また、動画を見てくださる方が他のSNSと比べて多く、しっかり届いていることが実感できるような、嬉しいコメントをくださるフォロワーが多いのもInstagramだとも感じています。

ーファンのフィードバックをどのように取り入れていますか?

InstagramのコメントやDMでいただいた内容は、できる限り動画に反映するようにしています。いただいた企画案をそのまま採用して動画にすることもありますし、「次は○○の検証をしてほしい」「この検証にこの商品もあったら嬉しい」といった声を拾って動画にするようにもしています。

ーエンゲージメントを高めるために行っている具体的な取り組みにはどのようなものがありますか?

取り組みは3つあります。1つ目は、動画の冒頭1〜2秒に特に力を入れていることです。エンゲージメントを高めるために特に大事なのが動画冒頭1~2秒なので、検証結果やインパクトのある絵を最初に見せるようにしています。例えば、「日焼け止めの検証をします」から始めるのではなく、赤く跡が残った写真を最初に見せたり、まつ毛美容液の検証では、全てのまつ毛を切っているシーンから始めたりしました。

2つ目は、他のインフルエンサーがやろうと思ってもなかなかできないことに挑戦することです。応援してくださる方が増えた今だからできる、企業同士のコラボや、専門的な機械を借りた徹底検証などの企画をしています。

3つ目は、フォロワーとのコミュニケーションを積極的に行い、距離の近さを大切にすることです。フォロワーにとって「困った時に教えてくれる人」くらいの存在になれればいいなと思っていて。そのために、コメントに対するアンサー動画を撮ったり、動画内でも「こういうコメントがあったので、動画で答えます」と伝えるようにしたり。また、僕が立ち上げたブランドの「iRu-(アイルー)」では、フォロワーの意見を取り入れながら製品の開発を行っています。

自由研究のような、ワクワクするコンテンツを届けたい

ーコンテンツのネタを選ぶ際の基準は何ですか?

まずは「面白いかどうか」ですね。小学生の自由研究の規模が大きくなったようなイメージで、ワクワク感があって、見ていて飽きない動画になるようなネタを選んでいます。そして、ちゃんと裏取りができるかどうかも重要な基準です。数値化できるか、明確な差が出る検証になるかを意識しています。

ー視聴者の関心やトレンドをどのように把握していますか?

フォロワーからのコメントやDM、Xが多いです。特に、Xで画像がバズっているようなネタを動画にすると結構バズりやすくて。例えば、Xで話題になっていた「日傘の遮熱性能の検証」を参考に動画を作る、というように、X上のトレンドから輸入するような感覚でネタの参考にすることがあります。

ーコンテンツ制作のアイデアを得るためにどのような活動をしていますか?

会社で情報やアイデアを収集することが8割くらいで、それ以外はXです。日本化粧品検定を運営している会社なので、化粧品に関する新しい情報は常にたくさん入ってくるんです。また、元メーカー勤務の方や研究開発をしていた方などもいらっしゃるので、そうした方たちへのヒアリングや会話の中からも、アイデアを得ています。

インフルエンサーとして、責任を持って発信する大切さ

ーコラボしたいブランドや企業はありますか?その理由も教えてください。

いろいろなOEM企業とコラボして、化粧品製造の過程を正しく・面白く伝える動画を作ってみたいです。日本化粧品検定協会のSNSでも、化粧品の製造過程や釜を掃除する様子などを発信しているのですが、結構人気があるんですよ。一般的な化粧品は店頭に並んでいるところしか見えないので、普段見えない裏側は面白く感じるんだと思います。また、実際に商品が作られている現場を見ると、より親近感も湧くと思うので、ぜひやってみたいですね。

ーコラボレーションを選ぶ際の基準は何ですか?

今までに自分で使って良かったものか、実際に2週間使ってみて良いと思ったもの以外はコラボしないようにしています。その上で、広告が薬機法に違反していないかどうかも、とても重視しています。

正しい情報を伝えたいという思いがある一方で、日本の化粧品メーカーは薬機法によって広告表現が大きく制限されており、海外製品と比べて伝えられる内容に限りがあるのが実情です。一概には言えませんが、規制の緩い海外の化粧品の方が売れやすい傾向にあると感じています。日本の化粧品は素晴らしいのに、そうした不利な状況にあることに疑問を感じているので、発信者として薬機法は特に気にしなければならないと思っています。

ー過去のコラボレーションで特に成功したと感じるプロジェクトはありますか?その成功の秘訣は何だと思いますか?

よくコラボさせていただくSK-II(エスケーツー)は、特にうまくいっていると感じます。SK-IIは透明感のある素肌を提案しているブランドで、僕の肌の白さと親和性が高く、特に透明感が欲しい方は魅力を感じて買ってくださることが多いのではと思います。

また、僕自身もプライベートでSK-IIを愛用しているので、たまにストーリーズで投稿しているんです。そうしたPRではないオーガニック投稿が信頼につながり、普段からそれを見ている方が買ってくれることも多い印象です。

「ありがとう」の声が一番のエネルギー

ー今後の目標は何ですか?

仕事における一番大きな目標は、僕のブランドの「iRu-」をもっと大きくして、手に取ってくださる方を増やすことです。SNSの活用も、それを広めるための手段だと思っています。

ー今後取り組みたいと考えている新しいプロジェクトにはどのようなものがありますか?

「iRu-」は目元ケアに特化したブランドですが、それ以外にも、紫外線や日焼けのケアができるブランドも立ち上げたいと考えています。紫外線は、皮膚老化の原因の80%を占めると言われるほどダメージが大きくて、美容のためには日焼け対策が一番大切ですから。しっかりケアできるブランドを作りたいですね。

ー自分が綺麗になればいいのではなく、いろいろな人に綺麗になってほしいという思いの源泉はどこにあるのですか?

商品を届けていく中で、たくさんの方から「ありがとうございます」「本当に助かります」とお礼のDMをいただいて。それを見た瞬間に、今まで自分の中になかった新しい喜びがこみあげてきたんです。本当に嬉しくて、お金をもらうよりもずっと嬉しかったんですよ。そうした声こそが、一番大きなエネルギーになっています。

ー自分自身の成長を止めないために、日常的に意識していることはありますか?

好きなことを楽しみながら、そのついでにお金もついてくるような感じを大事にしています。もともと仕事人間でというタイプではなく、むしろ「できるだけ仕事をしたくない」と思っていたくらいで。これからも活動を続けるためにも、あまり考えすぎず、いい意味でゆるく生きていけたらと思っています。

独自の企画力と、正確かつ有益な情報発信によってフォロワーの支持と信頼を集める渡邉さん。日焼け止めの検証で格子状に跡が残った背中や、検証のためにずらりと並んだ商品は、一目で視聴者の目を引く。人を惹きつける高いコンテンツ力の背景には、「面白さ」と、「誰にも真似されないこと」へのこだわりがあった。そして、実際に真似されないコンテンツとして磨き上げられてきた今、競争の激しい美容業界において「渡邉柊」というポジションが確立されつつあるのではないだろうか。

文:安藤 ショウカ
写真:小笠原 大介