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家電量販最大手のエディオンが、2025年4月にリリースした「エディオンスマートアプリ」が、家電の新たな未来を切り拓こうとしている。複数メーカーのIoT家電を“まとめて操作”できるこのアプリは、単なる利便性の向上に留まらず、高齢者の見守りや防災ネットワークの構築まで、家電を社会インフラとして機能させることを目指す。
従来のIoT家電の課題から、人口減少、高齢化といった社会課題に対し、エディオンはどのようなアプローチで挑んでいるのか、その戦略に迫る。
メーカーごとに異なるアプリ、操作が煩雑。IoT家電の普及が進まない理由
日本リビングテック協会の調査によると、日本国内のスマート家電普及率は13%に過ぎず、米国(81%)や中国(92%)と比較して著しく低い水準にある。

エディオン 新規事業推進課長の野口雅史氏はこの現状について、そもそもIoT家電を販売する際に、顧客に対して「このアプリに対応していて、こんなふうに使えます」という接客が十分にできていなかったことが原因の一つだと指摘する。そのうえで「設定が難しい」「操作がわからない」「メーカーごとにアプリが異なる」といった顧客の声も明らかになったと話す。

「我々の企業理念は『買って安心、ずっと満足』というコーポレートメッセージをもとに、お客様に商品をずっと使い続けていただきたいという思いがあります。その中で、IoT家電が非常に便利であるにもかかわらず、あまり使われていない現状をなんとかしたいと思っていました。では、なぜ使われていないのかを調査していくと、設定が難しい、操作方法が分かりにくい、異なるメーカーの家電ごとに別々のアプリを操作しなければならない、という回答が出てきたのです。結果としてIoT機能の“未活用”につながり、『買っても使わない』状況が生まれていました」
こうした状況を解決すべく、2025年4月1日にリリースしたのが「エディオンスマートアプリ」だ。
「複数のメーカー様に対応したこのアプリを利用してもらうことで、お客様に少しでも利便性を感じていただきたいと考えています」

便利・安心・まとまる。3つの価値で実現する“家電OS”
エディオンスマートアプリは 、「便利」「安心」「まとまる」という3つのコンセプトを掲げている。エアコン、冷蔵庫、洗濯機、空気清浄機、炊飯器、エコキュート(給湯器)といった複数のメーカー製のIoT家電を、1つのアプリでまとめて管理できるのが特徴だ。これは、複数の家電を制御する”OS”の役割を担う、とも言い換えることができる。

「外出先でのエアコンの遠隔操作、洗濯機の運転状況の確認、家電の電源の消し忘れの確認など、基本的な機能も兼ね備えています。特にこの暑い夏は、外出先からエアコンを事前につけておくことで、快適に生活できます。さらに、無料で利用できますし、家電との接続にあたって追加機器の設置なども必要ありません」
このアプリは、シャープ、ダイキン、パナソニック、日立、東芝、三菱など、6社の家電メーカーに対応している。メーカー横断型アプリという仕様を可能にした技術的背景について、野口氏は「ECHONET Lite Web API」というメーカー間を繋ぐ API仕様を採用したと説明する。
「ECHONET Lite Web APIは、メーカー同士の垣根を超えてメーカーのクラウドを相互接続するための通信の取り決めです。各メーカー様は、IoT家電の便利さを理解しながらも、お客様に初期設定をしていただくく点がハードルとなり、使われない状況を課題としておられました。しかし我々にはお客様との接点があり、販売から初期設定、アプリの操作方法までを一貫してサポートすることができます。そこで、我々がお客様のIoT家電導入をしっかりサポートし、メーカー様には「ECHONET Lite Web API」でエディオンスマートアプリと繋がるようにしていただくという形で、今回のアプリ開発を進めました。メーカー様には、自社製品の利用頻度がさらに高まる可能性があるという点に、メリットを感じていただいています」
アプリの継続利用率を高めるため、故障時のエラー通知から修理・サポート導線までを集約することで、顧客が困ったときにアプリを頼る仕掛けを意識的に施している。

「別途、マニュアルを探したり、Webサイトを見に行ったりする手間を省くために、修理・サポートへの導線をアプリに集約しています。アプリを毎日使うだけで『1コイン』を付与するポイント制度も導入し、お客様が楽しくアプリに触れる動機付けも行っています。さらに、高齢者の方向けに、エディオンの店舗網を活かした『おまかせIoTパック』というサービスを提供しており、自宅での設定サポートも行っています」
今後の戦略として、エディオンのプライベートブランド「e angle」との連携も強化していく予定だ。
「IoT家電はハイエンドモデルに集中し、機能が多すぎたり価格が高すぎたりして、高齢者の方が使いこなせないケースもあります。そこで、手に取りやすい価格帯で、なおかつエディオンスマートアプリとも連携した『e angle』ブランドの製品を提供しながら、より多くのお客様にとってIoT家電が身近になる環境を目指しています」
家電を「社会課題解決のツール」へ。エディオンが描く、生活情報プラットフォーム
エディオンスマートアプリは、家電を単なる「モノ」としてではなく、社会課題解決のツールへと進化させることを目指している。
具体的な取り組みのひとつに、石川県能美市で実施されているIoT高齢者見守りシステムサービス構築事業への参画がある。エディオンはこのプロジェクトで家電トラブル発生時の対応サポートを担った。
特筆すべきは、エディオンスマートアプリが能美市のイエナカデータ基盤と同様のシステム仕様を備えている点だ。この高い相互運用性により、今後は多様なサービス連携が可能となり、それが大きな発展性につながると期待されている。

「アプリの利用データを活用することで、お客様の日常のご様子を把握できるようになります。今後は、ご家族が遠方から親御様の家電利用状況を見守れるなど、さらなる見守り支援機能の拡充も視野に入れています。このように、社会課題の解決に家電とアプリを積極的に活用したいと考えています」
エディオンでは、アプリを軸に据えた生活情報プラットフォームの構想を掲げており、家電を社会インフラとして活用する新たな可能性にも注目している。有事の際には、取得したデータをもとに地方自治体などとの連携へと発展するなど、将来的に多様な展開が考えられるという。現時点でシステム間の直接的な連携やデータの取り扱いは行っていないものの、共通の仕様を備えているため親和性が高く、今後さらに幅広い展開が期待できる。
「これは、あくまで1つのモデルケースですが、エディオンだけでなく多様な業種や他社が同様の仕組みを展開することで、お客様同士、日本全国に防災ネットワークが広がっていく――そんな社会的意義を感じています」
エディオンスマートアプリは、単なる家電操作の枠を超え、高齢化社会の課題解決に貢献し、さらには防災インフラとしての役割を担う可能性も秘めている。これは、「買って安心、ずっと満足」というエディオンの企業理念を具現化すると共に、家電量販店からより人々の生活に根付く社会課題解決企業へと生まれ変わる、新たな挑戦と言えるだろう。
文:吉田 祐基