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世界各国の幸福度ランキングを掲載した「世界幸福度報告書」の2025年版が今年も3月20日に発表された。2012年に発表が開始されたこの報告書は、GDP(国内総生産)や社会的支援、健康寿命、人生の選択の自由、寛容さ、腐敗の認識(不満・悲しみ・怒りの少なさ、社会・政府に腐敗が蔓延していないか)といった6つの要素を元に、各国の人々の主観的な幸福度を数値化している。
毎年、各国が注目するこのランキング。今回の発表では、フィンランドが8年連続で1位となり、北欧諸国が引き続き上位を占める中、日本は55位と低迷している。上位を占める国々はどのように優れているのか、そしてなぜ日本は低迷しているのだろうか。その理由についてまとめてみよう。
上位10カ国、何に幸せを感じているのか
1位.フィンランド
国民の間に強い信頼感と相互支援があり、政府や公共機関への信頼度も高いのが特徴。教育水準も高く、自然との共生も幸福感に寄与している。また、ワークライフバランスが取れており、精神的な安定感が高い点も評価された。
2位.デンマーク
福祉国家として知られるデンマークは、もちろん税金は高いが、医療、教育が無償で提供される。大学生には返済不要の就学支援金(生活費も含む)制度などもあり、親への負担も少なく、生活の安心感が高い。また、社会の格差が少なく、働きやすい環境づくりが整っている点も幸福感を高めている一因だ。
3位.アイスランド
人口約40万人という小さなコミュニティの中での信頼関係が強く、自然災害などの危機にも国民が一丸となって対応する姿勢が幸福度に寄与している。大統領も首相も女性と男女平等が進んでおり、精神的な健康にも重きが置かれている。
4位.スウェーデン
スウェーデンの人々は国への信頼感が強く、28~34%の地方所得税(日本でいう住民税)や最高25%の付加価値税(消費税)などの“高負担”に抵抗がない。このような高福祉・高負担モデルで、教育と医療へのアクセスが容易な点が特徴だ。また、男女平等の実現、環境保護の意識の高さが国民の誇りにもつながっており、全体的に満足度が高い傾向がある。
5位.オランダ
オランダは社会の誠実さや公共制度への信頼が高い。また、他の北欧諸国と同様に高福祉国家として知られており、医療・教育などの公共サービスが充実。他にも、LGBTQ+への寛容さや、文化的・宗教的多様性の尊重など、個人の価値観が認められる社会が高評価に繋がっている。
6位.コスタリカ
「プラ・ビダ(純粋な生活)」に象徴される前向きな文化、無償の医療・教育制度、そして軍隊を持たない平和志向の社会によって高い幸福度を実現。また、家族や地域との強い絆、自然との共生、持続可能な経済政策も人々の満足感を高めている。
7位.ノルウェー
失業手当や病気休暇補償、充実した公的医療制度、育児休暇など、多岐にわたる社会福祉制度が提供され、国民は経済的な安定と安心感を得られている。また、豊かな自然環境とそれに伴うアウトドア文化のほか、健全なワークライフバランスや社会的平等も、国民の幸福感に大きく寄与している。
8位.イスラエル
2024年版の報告書では5位だったが、ハマスとの紛争が影響し8位に順位を下げている。とはいえイスラエル社会は、家族や地域コミュニティとの強い絆を重視し、健康的な生活と高い生活水準を維持。そして自由な社会環境を提供し個人の選択や多様性を尊重することから、国民の満足度と幸福感が高くなっている。
9位.ルクセンブルグ
一人当たりのGDPが非常に高く、経済的に豊かなルクセンブルグは、国民の生活満足度も高い。加えて、困難な状況でも頼れる制度や、コミュニティの存在など強力な社会的支援ネットワーク、個人の自由が尊重される社会環境、高い健康寿命が国民の安心感や幸福感を高めている。
10位.メキシコ
25位から15順位を上げてトップ10入りを果たしたメキシコでは、家族の結びつきが非常に強く、平均的な世帯人数が4~5人と大きいことが特徴。これは家族間の強いサポートと社会的つながりを促進し、個人の幸福感を高める要因である。また、家族や友人と食事を共にすることを重要視する文化も、社会的つながりを強化し、全体的な幸福感の向上に寄与している。
日本が低迷する理由とは
先にも述べたように、日本の順位は55位であり先進国としては相対的に低い水準にとどまっている。これまでの最高順位は、2012年の43位。2019年には最低順位の62位となった。日本の幸福度が伸び悩んでいる理由としては、以下のような要因が挙げられる。
1.社会的つながりの弱さ
日本は、家族や友人、地域コミュニティなどとの「社会的支援のネットワーク」が他国に比べて弱いと評価されている。報告書では、困ったときに頼れる人がいると感じている人の割合が他国に比べて低く、孤立感を抱えている人が多いことを指摘。特に高齢化が進む中で、独居高齢者や孤独死といった社会問題も背景にある。
2.メンタルヘルスの課題
日本は先進国の中でもうつ病や不安障害など、精神的健康問題を抱える人の割合が比較的高いとされている。過労死や過剰な学業・職場のストレス、長時間労働文化などが影響しており、若年層から高齢層まで広くメンタルヘルスへの負荷がかかっている。また、心理的な悩みを打ち明ける文化があまり根付いておらず、サポートを求めにくい社会風土も問題視されている。
3.自由度と寛容さの低さ
「自分の人生を自由に選択できる感覚」や「他者への寛容さ」も日本では低い傾向にある。これは個人の選択肢が限定されやすい社会構造や、社会的な同調圧力、LGBTQ+などマイノリティに対する受容度の低さが影響している。また、職場や学校における自由度の低さも人々の幸福感に影を落としている。
4.政治や公共機関への信頼の低さ
政治や公共機関に対する信頼が低いことの背景には、政治参加率の低さや若者の政治的無関心があり、報告書では日本の人々は政府が公正で透明な意思決定を行っていると感じている割合が少ないとされている。これにより、国民が社会や未来に希望を持ちにくくなっていると言える。
これらの要因が複合的に作用することで、日本はGDPや教育水準、治安などの基本的なインフラは高水準であるにもかかわらず、幸福度ランキングでは常に相対的に低い順位にとどまっている。今後は、社会的つながりの再構築やメンタルヘルス支援の強化、多様性の受容、政治への信頼回復といった観点からの取り組みがさらに求められていくだろう。
気になるアジア諸国のランキング
アジア諸国についても見てみよう。台湾は前年に比べて順位を上げ、世界で第27位となりアジアでトップとなった。続いてシンガポール(34位)、ベトナム(46位)、タイ(49位)、フィリピン(58位)、韓国(58位)、マレーシア(64位)、中国(68位)、インドネシア(83位)となっている。
台湾はなぜ幸福度が他のアジア諸国より高いのか。それには次の3つの理由があると報告書には記載されている。
1.食事の共有による社会的つながりの強化
台湾では、週14回の食事機会のうち平均10.1回を他者と共有しており、これは世界でも8番目に高い数値だ。この習慣は、家族や友人との絆を深め、社会的支援のネットワークを強化し、個人の幸福感を高める要因となっている。
2.経済的安定性と高い生活水準
台湾は堅調な経済成長を遂げており、高いGDPと生活水準を維持している。これにより、国民は安定した生活を享受し、全体的な満足度が向上している。
3.健康的な生活環境と高い平均寿命
医療制度の充実や健康的な生活習慣により、台湾の平均寿命は高く、健康寿命も延びており、国民の幸福感を支える重要な要素となっている。
4.自由と民主主義の尊重
台湾は民主的な政治体制を持ち、個人の自由や人権が尊重されている。国民は自己決定権を持つことで、社会への信頼感が高まり、安心感や満足感を高める要因となっている。
まとめと展望
「幸福度」というのは単に経済的豊かさだけでは測れない複合的な概念である。上位国の多くは、社会的信頼・寛容さ・自由・安心できる社会制度を有しており、それが国民の主観的な幸福感を高めていることは確かだ。
一方で日本は、経済的には豊かでも、「つながりの希薄さ」や「自由と寛容さの不足」が足を引っ張っていると言える。今後は、精神的な幸福や社会的支援の充実、多様性の尊重がカギとなるだろう。
文:中井千尋、岡徳之(Livit)