インフルエンサーマーケティングにおける生成AIをめぐる現状、審査自動化など新たなトレンド

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インフルエンサーマーケティングの分野で「生成AI」の活用が新たな展開を見せている。

特に注目されているのが、「ブランドセーフティ」を重視しつつ、「インフルエンサー審査」を効率化する取り組みだ。

インフルエンサーマーケティングの課題

従来、企業がプロモーションに起用するインフルエンサーの審査プロセスは、長い時間を要していた。

また、企業のマーケティング担当者は近年、ブランドセーフティの観点から、インフルエンサーを選定する際、より慎重になっている。その際の観点は、飲酒の習慣、誹謗中傷や政治的発言など、多岐にわたる。

こうした従来の方法は、ブランドの評判を守ると同時に、企業の真のサポーターとなるインフルエンサーを特定するのに役立つが、前述の通り、長い時間を要する。

効率化できれば、企業あるいは広告代理店は、戦略立案やインフルエンサーとの関係構築、キャンペーンの効果測定やキャンペーン終了後の分析に、より時間を費やせるようになる。

こうした背景から、インフルエンサーマーケティング、特にインフルエンサーの検索と彼らの過去の投稿内容の分析に、「生成AI」を活用する動きが見られるようになってきた。

これは、ブランドに適したインフルエンサーを見つけるのと同時に、企業のガイドラインに反するインフルエンサーを適切に排除することにもつながる。

生成AIを活用する専用のツールも登場している。

例えば、イスラエル発のソフトウェア企業、Lightricks社の「SafeCollab」。同社は、写真・動画編集アプリ「Facetune」などで知られているが、SafeCollabは生成AIを活用したクリエイター審査ツールだ。

同社のインフルエンサープラットフォーム「Popular Pays」を利用する対象者から付与されたデータアクセスを活用し、過去のSNS投稿（Instagram、TikTok、X、YouTube）をスキャンし、投稿内容を分析。

問題のある投稿（ブランドイメージと不適合なコンテンツなど）をフラグ付けし、最終的には人間の担当者が起用するか否かの判断を下す（AIが直接「合格/不合格」を決めるわけではない）。

同ツールは2024年、ペプシコを含む6つの企業と連携し、ベータテストを実施。生成AIを活用することで審査のスピードが向上したことを確認した。

「Influencer」「Obviously」「Open Influence」などの広告代理店も、同様のインフルエンサー選定ツールを提供している。

一方で、生成AIの判断が「過度に」慎重になりすぎたり、画像を誤認識したりするといった課題も指摘されている。

背景には、大規模言語モデル（LLM）が持つ、「幻覚」と呼ばれる誤情報を生成する傾向や、元データのバイアスを反映する性質がある。

例えば、インフルエンサーマーケティング代理店、Props社が提供するツール「Ollie」は以前、あるインフルエンサーがビールを飲んでいる写真を投稿した際、同ツールはそれを「ビールを浴びている」と誤って認識したという。

インフルエンサーの審査を自動化することは、気づかぬうちに、悪意のないインフルエンサーの収益を断つ危険性をはらんでいると言える。

また、前出のSafeCollabについても、投稿として過剰に多くのコンテンツが「リスクがある」とフラグ付けされてしまうため、企業から「警戒しすぎだ」と指摘されることもあるという。

このほか、審査レポートの作成に数百ドルかかるとされる、中小企業が利用するには高すぎる「コスト」、言語や文化的要因から「日本語での活用の精度」なども課題として挙げられる。

「インフルエンサー審査」の他にも、今後、インフルエンサーマーケティングに生成AIを活用する方法は考えられるだろう。

例えば、過去の投稿に含まれる感情・話題の傾向を自動解析し、炎上リスクやブランドとの相性を定量的に評価する「センチメント分析」。

フォロワーのアクティブ率、不正なフォロワー（Bot）を特定し、インフルエンサーの「本当の」影響力を評価したうえでの、最適な候補者のリストアップ。

ブランドのトーン＆マナーに沿った、インフルエンサー向けのキャプション・ハッシュタグ・投稿構成の自動生成。

市場データを元に、適正報酬を算出し、交渉を自動化する、ブランドとインフルエンサーの契約・交渉のサポート。

AIがSNS上のネガティブコメントをリアルタイム分析し、危険度を評価する、炎上リスクのリアルタイム監視など。

このように、さまざまな可能性が考えられるが、現時点では、SafeCollabなどツールの仕組みにも表れている通り、人間のスタッフによる大幅な介入や最終判断を下す必要があるようだ。

文：岡徳之（Livit）