INDEX
スタートアップに投資した経験のある複数の投資家に焦点を当て、投資判断の裏側にある思考プロセスに迫る「Investor’s eye」。今回登場するのは、メドレー、クラウドワークスなどの上場企業に創業時から投資を行い、採用支援事業をメインで行うキープレイヤーズの代表も務める高野 秀敏氏だ。174社の上場支援、投資先8社の上場、そして創業から社外役員として2社の上場を経験した同氏に、投資先の判断基準などを聞いた。
- 【プロフィール】
- キープレイヤーズ 代表取締役 高野 秀敏(たかの ひでとし)氏
- 1999年にインテリジェンスへ入社。2005年にキープレイヤーズを設立。4,000名以上の経営者の相談と、11,000名以上の個人のキャリアカウンセリングを行う。メドレー、クラウドワークスなど過去70社以上の社外役員・アドバイザー・エンジェル投資を国内・シリコンバレー・バングラデシュで実行。174社上場支援、8社投資先上場、2社創業から役員で上場。
自身がインフルエンサーとなり、応援する会社を広める
元々、高野氏が投資家になったきっかけは、メドレー創業時に、創業者・瀧口浩平氏から「事業を手伝ってほしい」と依頼されたことが始まりだった。
「つながりのあった、創業者の瀧口さんから、『投資というより事業を手伝ってほしい』と依頼を受け社外役員となり、上場も経験しました。大きなビジョンを掲げつつ、会社に貢献している仲間がしっかり株式を所有している。こうした当たり前のことをきちんと実行しているのがメドレーです。また、クラウドワークスの創業者である吉田さんとも若手社会人の頃からつながりがあり、クラウドワークスの前身企業でも社外役員を務めていました。結果として、この2社が上場するまでの成長を遂げたことで、SNSや知人を通じて投資の相談がどんどん舞い込むようになりました。当時はエンジェル投資家がまだ少ない時期だったこともあり、僕のもとに相談が集まってきたのだと思います」
そんな高野氏にとって、投資を続けてきた最大のモチベーションは「応援したい」という気持ちだった。Xで7万2,000人のフォロワーを持つインフルエンサーとしても知られている高野氏だが、この影響力が広がったのも、投資活動を通じて応援を続けてきた結果だと語る。
「ほかの人の投稿に対して『いいね』や『リプライ』を続けていくうちに、フォロワーも増えてきました。SNS上で応援した結果だと思います。自分がインフルエンサーになれば、新しいサービスやスタートアップなど、まだ知られていないものを広めることができます。また、転職や就職を決める人の60%以上が、一度は聞いたことのある会社を選ぶというデータもあり、認知度を上げることが、採用の支援にもつながるんです。『高野が紹介しているなら応援しよう』『その会社に入ってみよう』というフォロワーも出てくるため、インフルエンサーになったほうが応援力を上げられるんですよ」
投資先を見極める際の3つの基準。さらに稼ぐ力も見る
投資家でありながら、自身の会社を通じて採用支援も行う高野氏。これまでに4,000人以上の経営者と会い、採用相談に応じてきた経験を持つ。「実は控えめに言っていて、実際にはもっと多くの経営者に会っていますよ(笑)」と冗談めかしながら語る。数多くの経営者を見てきた高野氏でも、投資先を見極めるのは容易ではないというが、その際に重視する3つの基準があると話す。
「正直、今でも投資先を見極められているとは思っていません。その中で投資先を決める際、まずシンプルに『この人を応援したいか』、もっと言えば、『この人と一緒に働きたいか』が重要です。そして、投資の際に重視している3つのポイントがあります。それは『経営者の巻き込み力』『マーケットの成長性』『そのマーケットで勝てる経営陣』です。特に巻き込み力というのは、お客様を集める営業力だけでなく、投資家や社員を引きつける能力も含まれます。資金援助も含め、仲間を作れなければ、会社の成長は望めません。U-NEXT HOLDINGSの宇野康秀さんが言うように、『ビジネス人格は作り上げるもの』であり、巻き込み力を備えるにはビジネス上の自分を磨く必要も出てくるでしょう。巻き込み力がなければ、ソロプレーヤーになるか、もしくは巻き込み力のあるナンバー2を雇うという選択になると思います。そして、事業を展開するマーケット自体に成長性があり、経営者だけでなく優秀な人材が揃っているかも重要なポイントです」
さらに、高野氏は「稼ぐ力があるかどうか」も重要視しているという。
「例えば、いきなりプラットフォームを作るよりも、いま風に言えば、ソリッドベンチャーとして早い段階から売り上げを上げている会社が個人的には好きです。ビジネスの原理原則として、お金がなくなったら稼げばいい。しかし、お金を集めることにばかり注力してしまうのは本末転倒です。もちろん、すべての事業が黒字である必要はありません。特にToC向けのビジネスは、ある程度のユーザー数に達するまでは赤字運営であることが一般的で、投資が前提なケースもあります。しかし、投資を受けることが一種のファッションになっていないかは、判断材料として見ています。エンジェル投資家の場合、自分の資金を使うため、投資しなければならない義務はありません。ベンチャーキャピタルや投資ファンドとは異なり、マインドセットも違うわけです。とはいえ、目先の利益を追うという意味ではなく、ビジョンが大きいことは大前提です。ビジョンがなければ、会社は成長しませんから」
誰に応援してもらいたいか。投資を受ける側も必要な視点
高野氏は「今は投資家が多く、資金を集めること自体は難しくない」と話す。そのため、投資を受ける側のスタートアップも「誰から投資を受けるのか」を見極める視点が必要だと語る。
「スタートアップも、自社が市場で勝つために『どういう人に応援してもらいたいのか』を考えるべきです。エンジェル投資家は基本的に自ら投資先を探すような営業活動をしません。だからこそ、この人と思う投資家がいれば、ぜひ自分から声をかけてください。また、スタートアップは3年も経てば感覚的に半分くらいが消えてしまいます。シンプルなことですが、諦めないことが事業成功の近道です。続けることでノウハウが蓄積され、事業運営の精度も上がりますから」
応援を軸に、自分自身も会社を経営し、エンジェル投資家として多くの企業に関わってきた高野氏。最後に、現在注目している分野について次のように語る。
「一般的かもしれませんが非IT業界です。いわゆる昔で言うブルーカラーのような領域には、まだ非効率な部分も多く、古い手法が残っています。こうした領域に、スタートアップが入る余地があれば、大きな可能性があると思います」
高野氏の原動力となっているのは、「応援したい」という想いだ。そのため、投資先を選ぶ際には「応援したいと思える人物であるか」を前提に、「経営者の巻き込み力」「マーケットの成長性」「そのマーケットで勝てる経営陣」の3点が基準となるとのことだ。また、投資を受ける側のスタートアップにも、「この人に応援してもらいたいか」という視点を意識することが重要であるという。
文:吉田 祐基
写真:小笠原 大介