世界では今、フィンテック業界への投資動向が大きく変化している。特に注目されているのが、アーリーステージのスタートアップ企業への資金提供。これが増加傾向にある。可能性のあるフィンテック企業に早期から関与しようとする意向が高まっている模様だ。

パンデミックを経て冬の時代だったフィンテックへの投資

フィンテックへの投資額は、2023年に48%急したことがイギリスに拠点を置くフィンテック業界団体Innovate Financeの発表によって判明。2022年には990億ドル(約13兆8,600億円、1ドル140円計算)だった投資額が、512億ドル(約7兆6,800円、1ドル150円計算)に減少し、資取引数も6,397件から3,973件に激減した。

2023年にトップだったのはアメリカの240億ドルで1,530件。次いでイギリスの51億ドル、インドの25億ドルと続く。イギリスは前年比で65%の減少と平均よりも大きく下落し、アメリカは44%の下落だが、世界的に例外だったのはアラブ首長国連邦で、前年比92%の増加を見せた。

波乱含みの2023年であったが、2024年に最初のユニコーン企業となるのはフィンテックだとする予想もある。

2023年の統計で新たにユニコーン企業となったのは95社。うち11月、12月の2カ月だけでもフィンテックは5社含まれている。サウジアラビアのフィンテックTabbyTamara、ニューヨークのVestwell、ロンドンのEnableそしてインドのInCredがその5社で、それぞれBNPL(後払い決済)、企業用退職金貯蓄プラットフォーム、インセンティブプログラムのB2Bプラットフォーム、貸付サービスのフィンテックだ。

見えてきたジワリ復活傾向

2023年末あたりからのフィンテックが好調な理由を同レポートでは、金利の上昇、メガラウンドの可能性、公開市場で好調なフィンテックの存在、フィンテックに対する投資家意欲、AIやBNPLといった領域でのイノベーションの見込みを挙げている。

また2024年の展望に関するGlobal Corporate Venturingの記事でも、フィンテック関連の投資担当者は先行きが明るいとしている。

欧州、北米、ラテンアメリカのフィンテック投資を専門とするベンチャーキャピタルMouro CapitalのMartinez氏は「決済に関するイノベーションをしばらく目にしていない。大規模な資金提供を受けている企業の多くがこの分野に取り組んでいるはず、驚くような革新を2024年には目にしたい」と述べ、フィンテックとサプライチェーンのような他の業種との協業やESG領域でのフィンテックも面白い試みではないか、と提言。まだまだイノベーションの余地と、収益を上げる余地がある分野に大いに注目していると述べている。

保険会社内のフィンテック系投資部門Uniqa Venturesの創設者であるNemeth氏は、決済という永遠のテーマと、現在のカード会社に依存している状況(特に欧州および米国)を打破する、新たな決済方法が注目を集めるだろうと予測。

従来型のカード業界を混乱させる可能性のある「カードからカードへの決済」が頭角を現す可能性にも言及。また、仮想通貨だけでなく一般的に規制が強化されつつある中でのレグテックにも注目し、特にESGに関する規制がフィンテックに大きな影響を与えるだろうと予測している。

ただし、2024年は米国や欧州でのフィンテック活動は減少すると見ており、特に米国の投資家の間では、保守的な考えが強いうえに、市場全体の先行きへの懸念が強いため、投資家は新興市場へと目を向けることになり、新興市場が活発になると見ている。

2024年のフィンテックには、米国をはじめとする主要国での大統領選挙(に伴う規制の緩和ないし強化)や金利の動向が大きく影響すると予測され、戦争の影響によるサプライチェーン、地政学、サイバーセキュリティなどの問題も継続するとのこと。

ただし、規制が強化されても、金利が低下しても、生活費が上昇しても、それに伴うフィンテックでのイノベーションが生まれる余地があると前向きな予想が多いのも特徴。

イギリスのメディアBizClick MediaのFinTechが業界の専門家に質問した記事によると、モバイル決済の浸透が引き続き加速し、2023年に9兆ドルあった取引額は2028年までに16兆ドルとなる見込み。プライベートセクターでは、BNPLをはじめとする新しくかつ進化したサービスの提供へとステップアップが見込まれ、少額融資や個人の投資機会などもその一環だ。

例えば、Ericssonウォレットプラットフォームは、アフリカの新興国から中東の先進国まで24カ国でモバイル決済サービスを提供。現在、月間約30億回、400億ドル超の取引実績があり、ユーザー数は4億人で今なお増加中とのこと。

キャッシュレスへの傾向は、COVID19のパンデミックでも加速した形で、こうしたイノベーションは、先進国と新興国の双方でユーザーベースを増やし続けている現状だ。さらに環境の視点から、キャッシュレスは実際の現金の輸送や警備の必要がなくなり、エコフレンドリーだと見る向きもある。

ただし、2024年にモバイル決済やキャッシュレス決済が現金決済に完全に取り替わることはないことは確かなようだ。

復活はスローペース

しかしながら現実のフィンテック資金調達の傾向は、手放しで喜べる状態ではなさそうだ。

マッキンゼーの報告書によると、2022年のシードおよびプレシードの段階でフィンテックへの投資は前年比26%の伸びを見せている一方で、シリーズC以降の成長ステージにある企業で50%の減少。アーリーステージでの投資は、スタートアップがより長い時間をかけて不況をやり過ごし、満期までには損失を回収できるからだと見ている。

だがしかし、2023年第3四半期を振り返るS&P Global Market Intelligenceの報告書では、シードおよびアーリーステージでのフィンテック投資は大幅に減少しているとしている。アーリーステージのフィンテックに集まった投資は2022年と比較して64%減という統計。

ただ、2021年から22年にかけて驚異的な数のフィンテックが立ち上がったことからも、2023年に減少するのは仕方ないという見解もある。2022年には一旦回復したかのように見えた投資は23年に減少したと見るのが妥当だろう。

2024年は好機、AIとのコラボがカギ

では、2024年についての好材料は何か。

2022年後半からの減少傾向からの回復は2024年後半から可能性があると報じているのはアメリカのデジタルメディアThe Financial Brand。ベンチャーキャピタルがホールドしていた「ドライパウダー」が市場にリリースされフィンテックの資金源になる可能性があるからだ。

ただし、これまでのような異常な評価額や無制限の投資は現実的でないと警告もしている。今後投資家たちはフィンテックに堅調なビジネスプランを要求し、利益の見込みがないフィンテックを許容しない構えだとしている。投資家たちは、長期的に確実な利益をもたらすスタートアップを早期に見極め、見込みがなければ撤退も辞さない構えを見せるだろうと予測している。

QED Investors予想記事では、レイズもしくはイグジットしなかった場合に、53%のフィンテックが第3四半期までに清算するとし、注目のフィンテックをはじめとする複数のフィンテックの破産を目にすることになると予想している。

日本のフィンテック投資に関しては、2022年に過去5年で最低のレベルへと落ち込み、総額3億6,000万ドルにとどまっている。日本での投資のピークは48億ドルを記録した2018年とされ、それと2022年を比較すると実に92.5%もの下落だ。減少しているのは投資額だけでなく、取引数も同様で2022年の取引数は32件。前年の120から大幅に減少している状況だ。

ただし、モバイル決済やキャッシュレス決済が遅々として浸透しない日本にこそ、活路があると見る向きもある。

2023年に投資市場を席巻したAI。このまま2024年にも革新が進むとなると、フィンテックにも朗報となる可能性がある。

アメリカのIT企業EPAMシステムズノのブログによると、2024年はまさにフィンテックに取り組む年だとし、AIを活用したフィンテックのうち注目のスタートアップトップ5を紹介。

投資管理プラットフォームを提供するイタリアのAxyon AI、AIを活用しCRMと統合した財務分析システムのForwardlane、仮想通貨版のBloombergと称するToken Metrics、シンガポールが拠点の、生命保険が主体の顧客サービスを提供するAiDA、金融サービス企業に特化したチャットボットを作成するActive.aiと、5社はそれぞれ大企業からの出資やEUの補助金、ベンチャー投資やクラウドファンディングから資金を調達している。

また同時に、デジタルバンキング、ロボアドバイザー、レグテック、ファイナンスの4分野では、新スタートアップに参入の余地があると言及。前述の関連投資家の予測同様、従来型の銀行業務のデジタル化、チャットボットによるカスタマーサービスの向上、レグテックによる規制への対応でエラーや書類業務の削減、個人の支出や銀行口座、資産管理を任せられる金融サービスへの革新に期待が寄せられている。

大幅な復活は見込めないとしても、堅実な回帰が見込めそうなフィンテックへの投資。AIとの統合や取り扱う機密情報の安全性確保といった課題を克服し、収益の見込めない企業の淘汰といった痛みを伴いながら、冬の時期だけは乗り越えていきそうな2024年だ。

文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit