ライティングや電材・電設、ソリューションエンジニアリング事業などを手掛けるパナソニックエレクトリックワークス社(以下、パナソニック)は、2023年12月1日から2024年3月31日の期間、福岡市の天神ビジネスセンターにおいて、福岡地所と共同で次世代ビルプラットフォームの実証実験をおこなっている。

空調、照明、エレベーター等の建物データをクラウド上で一括管理することで、様々な形でデータ活用を可能にし、今後のスマートビル開発に係る課題解決への糸口とする。2月9日にメディア関係者を招待しておこなわれた説明会とビル見学会を通して、描く次世代ビルの概要が見えてきた。

実証実験の会場となった天神ビジネスセンターは、福岡市の大規模な再開発計画「天神ビッグバン」幕開けの象徴として、デベロッパーの福岡地所が建築主となり、2021年9月に竣工した。地上19階、延床面積61,100平方メートル、ワンフロア最大716坪という規模を持ち、地下2階では福岡市地下鉄「天神駅」と直結。ICT(情報通信技術)を活用した非接触のセキュリティゲートと連動したエレベーターや、最先端の換気設備などを備えており、次世代のオフィスビルとして天神地区の新たなランドマークとなっている。

再開発計画「天神ビッグバン」の象徴として2021年に竣工した福岡市中央区の天神ビジネスセンター。様々な設備に最新テクノロジーが導入されている。

本プロジェクトでは、福岡地所が、様々な技術や知見を持つ他社と共創するプラットフォームに着目。福岡地所は「DX」をキーワードに、天神ビジネスセンターを始めとするスマートビルディングの開発に取り組んでいる。同社が安全性の高いクラウドプラットフォームを提供するパナソニックとパートナーシップを組むことにより始まった。

現状、オフィスビルや病院などの非住宅の建物には「BAS」(ビル・オートメーションシステム)が導入されており、建物全体の一元管理や省力化のために必要不可欠な存在となっている。

一方で、システム構成が建物や設備毎に完結した完全クローズドの状態のため、機能拡充や短期的周期でのアップデートが困難となり、急激に変化するトレンドやニーズに対応しにくいという課題がある。

そこで注目されるのが、クラウドベースとなる「ビル(建物)OS」だ。

ビルOSとは、ビル設備に関わる様々なデータを収集、蓄積、連携するソフトウェアサービスでクラウド上に集約されたデータを用いて、遠隔監視や複数拠点の一元管理、サービス提供等が可能となる。グローバルな取り組みでは、IEA(国際エネルギー機関)が推進をおこなっており、日本でもIPA(経済産業省所管 独立行政法人情報処理推進機構)が中心となってガイドラインの策定をおこなっている。

一般的なビルOSというと建物側の設備にフォーカスされがちだが、両社はテナント専有部で導入されるシステムや設備、そこで働く人のデータに着目した。建物内の各機器のインターフェイスをオープン化(オープンAPI化)することで、外部のソフトウェア開発者が容易に最新の情報にアクセスできるように。また、アプリケーション開発への障壁が低減され、サービス全体の機能を柔軟に拡張できるメリットが生まれる。

利用者のニーズをタイムリーかつダイレクトに反映した、ビル内の設備をコントロールするソフトやアプリ開発が可能となり、利用者と開発者のコミュニティ形成によって、管理効率の向上や新サービスの提供などを通して自律的に建物が更新されていく仕組みだ。

主に金融分野で進められてきたオープンAPIだが、近年では携帯電話や車、建物などの分野にも波及している。

福岡地所建築部長の田代剛氏は「アプリ使用者が開発者に対してダイレクトにコメントをフィードバックすることで、より利用者に寄り添ったアプリの開発が期待できる。携帯電話や車などのような感覚で建物にも実装されていく未来が訪れる」と期待を寄せる。

今回の実証実験では、パナソニックがクラウドベースのビルOSおよびAPI環境の提供をおこない、福岡地所はプラットフォームの基盤となるビル設備とデータの提供を担った。

建物内の人の位置情報や業務ノウハウを蓄積し、ナレッジ化する業務管理アプリの有効性について検証することに主眼が置かれた。

天神ビジネスセンターに勤務する清掃スタッフ、設備管理スタッフに協力を仰ぎ、小型ビーコンを携帯してもらい、その位置情報をゲートウェイ(GW)と呼ばれる受信機で取得し、所在や導線を可視化してオープン化、課題を抽出するというもの。また業務用エレベーターにもビーコンが設置され、位置情報や稼働状況の分析を経て、業務効率向上につながるアプリケーションを試作し、その導入効果を検証するまでを見込んでいる。

当日は参加メディアに対して、スタッフのフロア滞在状況グラフや業務用エレベーター稼働状況を可視化したヒートマップが公開された。抽出されたデータの所感について、福岡地所の田代氏は「エレベーターが月曜日の午前中の時間帯が多く稼働している一方で、金曜午前中の稼働率が低い。これらを平準化することで待機時間の低減につながるのでは」と分析した。

また数々のIOT/DXのプラットフォーム提供の実績を持ち、福岡地所のアドバイザーとして参画するKii株式会社代表取締役会長の荒井真成氏は「現段階で具体的な活用法は不明だが、さらに何らかのパラメータを加えることで新しい価値が出てくるのでは」とさらなる分析の必要性を説いた。

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清掃スタッフのフロア滞在状況

今後については、2024年度に外部事業者を念頭においたサービスの提供、25年度には3rd-Partyアプリコンテストを経て、26年度に実建物への実装を目論む。

建物のスマート化が進めば、これまで「箱物」として認知されてきたビルが、人やモビリティ、設備とつながることで、空間の価値化や街の最適化に大きな役割を果たす将来像が期待される。

(左より)パナソニック株式会社エレクトリックワークス社 ソリューションエンジニアリング本部 技術営業統括部 福田 明史氏、同ソリューション企画室 吉村 祐一氏、福岡地所株式会社 建築部長 田代 剛氏、同アドバイザー 荒井 真成氏、同建築部 綾部 修司氏

今回の実証実験を終え、福岡地所は「誰もが自由な発想でビル用アプリケーションの開発ができる世界への第一歩であり、ビル管理の効率化、入居者様の満足度向上につながるものと確信している」とコメント。また、パナソニックは「持続的に、かつスピード感を持って価値を創出する新たな建物モデルの実現により、建物に関わる方々の幸せな暮らしに貢献したいと考えている」というメッセージを発信。両社に外部事業者を加えたパートナーシップの拡大がスマートビルディングの開発を加速させていくことは間違いない。

取材・文:小笠原 大介