本コラムは、企業・団体などから寄稿された記事となります。掲載している取り組みやサービスの内容・品質、企業・団体などをAMPが推奨・保証するものではありません。

各企業・一人ひとりのパートナーシップ構築の加速をサポートするため、サステナブル推進企業の取り組み事例をコラム形式で提供。

今回は株式会社SmartHRの取り組みを紹介する。

SmartHRの取り組み

アプローチ視点 障害者雇用において、障害を持っている人に既存の仕事を割り当てるのではなく、「障害を活かした仕事」を生み出すことで、働きがいのある仕事に携われる体制を構築。その業務を通じてより多くの人が使えるプロダクトを開発し、世の中に提供することで、誰もがその人らしく働ける社会を目指しています。
実施内容 障害特性を持つ従業員が、自社のサービスを利用して使えない・使いづらいことがないかをテストする体制を構築し、サービスの品質向上を実現しています。また、障害当事者との組織づくりなどの取り組みを対外的に発信し、世の中の障害者雇用の位置づけを変える啓蒙活動にも取り組んでいます。
推進体制 サステナブルな社会の実現に向け「あらゆるユーザーにとって使いやすい製品の開発」をマテリアリティ項目の1つに特定。中核を担うプロダクトデザイン統括本部アクセシビリティ本部は「SmartHR」のアクセシビリティ向上と多言語化を推進しています。

取り組み実施に至った背景

障害者雇用を開始してしばらくの間、雇用した方向けの業務の切り出しが難航し、仕事を作るのが難しい時期が続きました。同じ業界の障害者雇用担当者との情報交換を実施し、問題解決のヒントを得ようとしましたが、どの会社も障害者雇用で雇用した従業員に向けてどのように仕事を作るか、作った仕事にどのようにやりがいを持ってもらうか、といった点は各社共通の課題として上がっていました。

また、並行して当社が提供するクラウド人事労務ソフト「SmartHR(スマートエイチアール)」ではアクセシビリティの向上にも取り組んでおり、障害の有無に関わらず誰もがサービスを利用できるようなプロダクトの開発を目指していました。

アクセシビリティの向上は、定められたガイドライン(例えばJIS X 8341-3:2016など)への準拠など、ベストプラクティスの実施ももちろん有効ですが、実際にウェブサービスを障害がある人に利用してもらい、使えない・使いにくいと感じる問題を一つひとつ解決していくことも重要です。

障害者雇用上の問題である「やりがいがある仕事に取り組み続けてもらえないこと」、そしてアクセシビリティ向上の課題である「実際に障害がある人にサービスを利用してもらい、フィードバックをもらうこと」、この2つを同時に解決するアイデアとして、障害を持つ従業員がサービスをテストする体制づくり「アクセシビリティテスタープロジェクト」がスタートしました。

実施している取り組み

アクセシビリティテスタープロジェクトが始動し、新しく3名の障害当事者を雇用しました。いずれも身体に障害がある人で、視覚障害(弱視)と運動機能障害があり、それぞれその特性に紐づいたテストや関連する業務に従事されています。

例えば視覚に障害があるテスターは、スクリーンリーダー(音声読み上げソフト)※1を利用したり、拡大鏡(ディスプレイを拡大して見るための支援機器)やハイコントラストテーマ(ディスプレイの表示をコントラスト比が高い色に強制的に変更するOSの機能)を用いたりしてウェブを利用しています。

それらの支援技術や支援機器を用いて、「SmartHR」が提供する入社手続きや年末調整・評価といった機能を利用し、使えない・使いにくい点をテストしています。

※1(スクリーンリーダーを用いてウェブサービスを使う様子)
スクリーンリーダーで使うSmartHR〜雇用契約・入社手続き編〜

Windowsのハイコントラストモードと拡大鏡を利用して、「SmartHR」の入社手続き機能をテストしている様子。

視力が弱く視野が狭いテスターは、小さな文字や薄い文字が見えなかったり、画面の右側にあるUIに気づきにくかったりします。そのような問題をフィードバックしてもらっています。

また運動機能障害があるテスターは細かい操作が難しいため、モバイルではiPhoneのAssistiveTouch機能を利用しています。それらの機能を利用してモバイルのユーザインタフェースのテストを行っています。

上肢に障害があると、人によっては小さなボタンが押しにくかったりクリック数が多い操作が難しかったりします。

これらのテストで見つかった問題は、日々プロダクト開発チームへとフィードバックして改善を行っています。その結果、「SmartHR」を導入している企業にいる、同じような特性を持つ従業員が当社の製品をスムーズに利用でき、顧客の満足度向上にも寄与しています。

これらの仕事を通じて、アクセシビリティテスターにはやりがいを感じてもらっています。そもそも障害者雇用の現状において、障害がある方が自身の障害が必要とされるような仕事はほとんどありません。

就労していても、業務内容や働く環境によっては自己成長や社会貢献性の実感が湧きづらい現状もあります。そのような中でアクセシビリティテスターとして雇用した3名は、これまでアクセシビリティ向上に携わったことはなく、ほとんどのメンバーがソフトウェア開発の仕事をしたことはありませんでしたが、プロダクトへのフィードバックを重ね、その項目が実装され顧客の役に立っている。このことに非常にやりがいを感じてもらっています。

日々の仕事にやりがいを持って取り組んでいるからか、対外的な発信も積極的に取り組んでくれています。

もちろん、うまくいくことだけではありません。これらのアクセシビリティテスタープロジェクトという取り組みはどの企業でもすぐに導入できるものではなく、一般化するには2つの課題があります。

1つ目はアクセシビリティの専門家が少ないことです。アクセシビリティテスターが発見したサービス上の問題について、それはソフトウェアのユーザインタフェースに問題があるのか、支援技術や支援機器に問題があるのか、利用者のリテラシーに問題があるのか、などの判断が必要となります。この判断には高度なアクセシビリティの専門知識が必要です。

SmartHRにはアクセシビリティの専門家が数名在籍していますが、組織内にアクセシビリティの専門家がいることの方が珍しいのが現状です。

2つ目は障害者の特性の活かし方です。SmartHRでは身体障害だけでなく精神障害を持つ従業員も雇用しており、その方々にもアクセシビリティのテストをしてもらおうと、ガイドラインに沿った簡単なテストを行ってもらいました。

しかし、これらのテストを実施する精神障害を持つテスターもアクセシビリティに関する知識があるわけではないため、ガイドラインに沿ったテストを実施しても人によって品質がバラバラになってしまい、それらをまとめることはできませんでした。やはり特性を活かしたテストでないと難しいことがわかりました。

現在は、精神障害を持つ方はアクセシビリティに関連する仕事としてウェビナーやセミナーなどの録画に対する字幕作成や書き起こし業務を担っており、組織の業務分担もうまく回り始めています。

サステナビリティ推進体制

これらのアクセシビリティテスタープロジェクトは、製品を多様な人が使えるようになることも「デザイン」であるという考えから、当社のプロダクトデザイン統括本部内のアクセシビリティ本部において実施されています。アクセシビリティ本部には、全盲の視覚障害者や日本語が得意でない人でも「SmartHR」を使えるようにすることをミッションに持ったマルチリンガルマネージャーなど約10名のメンバーが所属しています。

また人事の障害者雇用担当もこのプロジェクトに深く携わってくれています。プロジェクト開始時には、事業部で障害者雇用を行うことはできていませんでしたが、現在では障害当事者と取り組むプロジェクトに対して複数の部署横断で取り組めています。

そしてこれらのアクセシビリティ向上の取り組みは、全社のサステナビリティ委員会が推進している取り組みの一環として、いくつかのマテリアリティを解決するための項目として特定されています。

Social|株式会社SmartHR
Materiality|株式会社SmartHR

今後の目標や展望

アクセシビリティテスタープロジェクトは2022年10月にスタートしました。まだ日が浅い取り組みですが、多様な従業員を雇用する「SmartHR」導入企業の後押しをするなど、プロダクト開発には一定の成果が出てきています。

今後、このプロジェクトの発展について考えていることが大きく2点あります。1つ目は、雇用する従業員の特性の幅を広げ、より多くの従業員の働きやすさを促進することです。現在雇用している従業員の障害特性は、視覚障害や運動機能障害、精神障害の一部に限られています。世の中にはサービスを利用するのが困難な方や、働きにくさを抱えている方が多くいらっしゃいます。そのような方をカバーするためにまず我々が多様なプロジェクトの体制を作り、真の意味で誰もが「SmartHR」を利用できる状態を目指しています。

もう1つは、このアクセシビリティテスタープロジェクトのような障害者雇用を社会に広げていくことです。当社のサービスだけが、利用しやすくなったとしても働きやすさは改善されません。社会にもっとアクセシビリティの高いサービスが充実し、より多様な方が働くことのできる社会を目指しています。2023年は障害者週間にあわせて「働く環境のアクセシビリティ」をテーマに動画を公開しました。ありがたいことに多くの方に反響をいただき講演や研修での二次利用のお問い合わせもいただきました。今後もムーブメントを広げられるようにさまざまな取り組みを推進していきます。

桝田 草一
株式会社SmartHR プロダクトデザイン統括本部 アクセシビリティ本部 ダイレクター/アクセシビリティスペシャリスト
2014年に製造業向けの法人営業からエンジニアに転身。2017年にサイバーエージェントに入社、新規サービス開発や、全社のアクセシビリティ推進を担当。その後、2021年にSmartHRにプロダクトデザイナーとして入社し、従業員サーベイ機能のプロダクトデザインを担当。現在はアクセシビリティと多言語化を専門とするプログレッシブデザイングループを立ち上げて全社のアクセシビリティ推進に従事。
▼お問い合わせ先
●株式会社SmartHR
●メールアドレス:pr@smarthr.co.jp
●URL:https://smarthr.co.jp/

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