95%が無価値になったNFT

現在海外の主要テックメディアでは「生成AI」に関するトピックが連日ヘッドラインを賑わせている。一方、NFTやウェブ3に関しては沈静化した状態が続いており、これらのトピックを取り扱うメディアも少なく、その現状は広く知られていない。

NFTやウェブ3は、現在どのような状況にあるのか。ナスダックが2023年12月13日にNFTに関する興味深いレポートを伝えている。

同レポートは、dappGambleが2023年9月にまとめたデータを引用し、かつて数百万ドルで取引されるなど大きな盛り上がりをみせたNFTだが、現在その95%が価値を失った状態であると報じているのだ。

このデータは、dappGambleがNFTScanとCoinMarketCapのデータをまとめ分析したもの。7万3,257のNFTコレクションのうち、95%に相当する6万9,795コレクションの市場価値がゼロになっており、2,300万人が価値のないNFTコレクションを保有している状況が明らかになった。また、すべてのNFTコレクションのうち、供給過多により販売できていないものが79%に上ることが判明した。

ナスダックのレポートは、『Blockchain in Action』の著者でもある米バッファロー大学のビナ・ラマムルティ教授の話として、NFT市場のバブル崩壊の主な要因は需給の不均衡であったと述べている。供給が爆発的に増えたことで、需給バランスが崩れ、バブル崩壊につながったという。

NFT市場のバブルを作り出したのは、JPEG形式による画像コレクションの供給過多だ。Digital Infrastructure Inc.のCOO兼DIMOの共同創設者アレックス・ラウィッツ氏は、NFTのビジネスモデルが数回のクリックだけで大量の画像を生成し、それを10ドル、100ドル、1000ドルで販売するものであり、数百万ドルを簡単に稼げるものであったと述べている。このため供給が短期間に急増、当初は需要も急増したものの、価格高騰により一般の人々が締め出されたことで、状況は制御不能になったと指摘している。

NFTの終焉? 2024年以降の活用可能性を説く専門家も

NFT市場はバブル崩壊後、特に目立った回復を見せてはおらず「NFT終焉論」が囁かれている。しかし上記の専門家らは、NFTテクノロジーの有用性は高く、別の形で広く活用される可能性を説く。

ラマムルティ教授は、不動産など物理的有限性を持ち、永続的な価値を持つ資産の所有権のデジタル化で活用される可能性があると指摘する。NFTはブロックチェーン技術を活用したデジタル所有権を表すトークン。不動産のような有限で永続的な価値を持つ資産にNFTを適用することで、所有権の明確化、取引の透明性の向上、そして効率的な資産管理が可能になることが期待される。

一方でラウィッツ氏は、NFTの次の進化として実際の利点を消費者に示すことが必要だと指摘する。例えば、著名アーティストのNFTを購入することで、次のコンサートツアーの特別チケットを得られるような仕組みだ。また同氏は、IP(知的財産)分野でも機会があると言及しており、Pudgy PenguinsのようなNFTキャラクターがウォルマートでぬいぐるみとして販売された例を挙げている。

ウォルマートで販売されているNFTキャラクター「Pudgy Penguins」のぬいぐるみ(ウォルマートウェブサイトより)

NFTに対する主要メディアや一般消費者の関心は薄れたものの、アーティストによる実験的な取り組みは増えており、今後は単なる短期的な利益追求の手段としてではなく、実用的かつ創造的な用途に進化する可能性が高まっている。

今後注目されるNFT/ウェブ3とAIの連携

2024年以降、NFT/ウェブ3領域ではAI活用が増える可能性を示唆する動きも散見される。

2023年11月、シードラウンドでの2,500万ドル調達とともに、ステルスモードから公開モードにシフトした分散型AIプラットフォーム「Ritual」がその一例だ。

Ritualは、Web3投資家のニラジュ・パント氏とデータ分析会社Palantirでクオンツとして活躍していたアキレシュ・ポッティ氏が立ち上げたスタートアップ。パント氏は、この1年のAIトレンドに関して、新たな経験やプロダクトの提供によりAI企業が著しい成長を遂げたが、同時に重大な問題も起こっていると指摘する。それは、主要なAIモデルのほとんどが少数の企業がホストする中央集権的なAPIで運用されているという問題だ。同氏は、透明性が欠如しているほか、十分なデータの整合性やプライバシーが提供されていないと述べている。Ritualは、分散型AIプラットフォームの提供を通じてこの問題に対応する構えだ。

同プラットフォームは、2024年初頭にリリースされる見込みで、以下のような機能を持つ。

プラットフォーム機能の1つ「Infernet」は、AIモデルとスマートコントラクトを結びつけるもので、Ritualプラットフォームの中核を担うシステム。

開発者は、オープンソースや自身で開発したAIモデルをこのInfernetにデプロイすることができる。Infernet上では、このAIモデルに対して、スマートコントラクトによる計算処理やデータ処理の依頼が実施され、AIモデルがこの依頼されたタスクを処理し、その結果(推論の出力)をスマートコントラクトに戻すというプロセスが実行される。

つまり、タスク依頼の情報とそれに対するAIモデルによる推論結果がブロックチェーン上に記録されることになり、やり取りの履歴が誰でも検証できるようになるのだ。これにより、透明性を高めるとともに、AIモデルの使用に関するデータの改ざんや誤用を防ぐことが可能となる。

スマートコントラクトを使用しない場合、これらのプロセスは通常、中央集権的なシステムやサーバーで管理されることになり、同じ水準の透明性や検証可能性を得ることは難しくなる。このほかRitualでは、開発者がAIモデルを収益化できるマーケットプレイスも登場する予定だ。

OpenAIのCEO追放騒動を受け、AIモデルやAPIの多様化を求める声が強くなっていることも事実。NFTが実用的かつ創造的な用途としてどのような進化を遂げるのか、またNFT/web3とAIの連携はどのような形で展開していくかが2024年の注目点となるだろう。

文:細谷元(Livit