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2050年カーボンニュートラルの実現という目標に向かって、国内外で脱炭素への取り組みが加速している。中でも最もCO²排出量の多い電力における再生可能エネルギーの導入がそのカギを握る。しかし、再エネの導入には、発電量や電力需要、卸電力市場価格など変動するファクターへの対応が求められており、加えて昨今では、蓄電池やEV、空調機器、系統連携などを統合的に最適化するシステムが必要になってきている。
この複雑な課題を解決策の一手になっているのがAIだ。AIは電力の需給調整からメンテナンスまで幅広く活用されており、再生可能エネルギーの効率的な利用や管理に大きな役割を担うようになってきている。再エネ利用になぜAIが欠かせないのか、国内外の事例からひもとく。
精度を増す、AI活用の再エネ発電予測
再エネにおけるAIの活用で早くから普及しているのが、気象データの分析による変動性再生可能エネルギー(VRE)の発電量の予測だ。太陽光や風力などのVRE由来の電気は、発電量が天候によって変動するため、発電予測、需要予測が欠かせない。
デンマークでは、今では電力の8割以上を再エネで発電している。同国では、18年前Ea Energy Analysis社がデンマーク国内だけではなく、世界各国のエネルギープロジェクトの分析をする中立で独立した機関として機能している。AIを使った需要予測や発電予測はもちろん、技術、コスト、政策、法律、環境への負荷などさまざまな要素を包括的に分析する。
筆者は10年ほど前に同社を取材したが、その際に再エネ電力を使う際に最も重要な課題について聞いたことがある。その際に当時の経営者の1人は「ひとつは風がない時にどうするか、風が強い時には何に使うのか、そして風量予測の正確性についてだ」と答えたが、それは今でも再エネ全般に関わる課題であり、この解決にAIが大きな役割を果たしていると言える。
まず、発電予測についてはAIを活用し、より正確な予測や需要予測が進化している。2022年4月からは、売電価格が変動するFIP制度が開始され、発電事業者は発電量の「計画値」と「実績値」に誤差があった場合、罰金に相当するインバランス料金を支払らなければならなくなり、発電量予測技術に対するニーズは高い。
ウェザーニューズ社は、太陽光発電事業に必要な日射量予測モデルにAIを活用して精度をあげている。上空の湿度や温度などから推定される雲の水分量や、風向風速から計算される収束量などを独自のAI技術を用いて30分毎に1kmの地域ごとに分析し、確立の高い発電予測を行う。
さらに、同社は風力発電量を高精度予測するサービスを国内外でスタートしているほか、洋上風力向けに海上の波・風を高精度に予測するAI独自予測モデルを開発し、デンマークの大手電力事業者であるオーステッドなどに提供している。
再エネ事業「みんな電力」を行うUPDATERも、2022年、東京大学と共同でAIによる機械学習を用いた太陽光と風力発電量の予測モデルを開発した。従来の一般送配電事業者の予測相当値に比べて15%予測精度が高まったと報告している。
需給調整からエネルギーネットワークまで、最適化に欠かせないAI
発電予測と共に重要なのは「どれくらい電力が必要とされるか」という需要予測である。電気は一般的には貯めておくことができないため、供給と需要を常に一致させることが必要だ。このため日本では30分単位で、発電事業者には発電計画、小売事業者には需要計画の作成・提出が求められている。この需給調整にAIを使って行うサービスが国内外で広がってきている。
スタートアップのデジタルグリッドは、AIで需給管理を全自動化し、同社が開発した電力取引のプラットフォーム(DGP)から需要側が直接発電側と取引ができるシステムを開発した。電力の種類も再エネ利用か否かなど、脱炭素化や価格などニーズに応じて組み合わせられる。脱炭素とエネルギーコスト削減を狙う大企業を中心に利用が伸びているという。
需給調整から、蓄電池、EV、空調設備などの分散型エネルギーリソースを含めて制御を行う、統合的なエネルギーネットワークの稼働とコントロールにもAIは欠かせない。
関西電力は、2023年4月から法人向けにAIで分散型エネルギーリソースを最適に制御するサービス「SenaSon(セナソン)」の提供を始めた。これはAIで建物内の電力需要や太陽光発電量を精緻に予測し、それに合わせて蓄電池からの放電や空調設備などの稼動をリアルタイムに制御するというプログラムだ。
四国電力もグリッドと連携し、仮想空間上に現実空間を再現する技術とAI技術を活用し、複雑化する電力需給計画を最適化するシステムを作り、提供を始めている。このシステムは、電力需要、気象情報などのデータから、電力需要や卸電力市場価格、再生可能エネルギー発電量の変動を考慮したシナリオを作り、シナリオごとに最適な発電計画を作成し、収益予測を算出する。
自治体がエネルギーテックと連携して、地産地消の再エネをめざして地域エネルギーマネジメントモデル事業を導入する例もある。神奈川県小田原市は、エネルギーテックのREXEV(神奈川県小田原市)と、湘南電力と協力しEVを「動く蓄電池」としてとらえ、さまざまな取り組みを行っている。
たとえば、電力ひっ迫の状況下で特に電力の需給バランスが厳しいと予想された夕方の時間帯にシェアEVから放電してピークカットを行ったり、太陽光発電が活発な時間帯を予測して車へ充電したりなど、AIを使った地域のエネルギーマネジメントを行う。これにより、自治体は停電時の電源確保やエネルギーの効率的な使用、地域のeモビリティ化などを進める。
気象予測、需要予測に加え、蓄電池やEV、変動する電力卸売価格など、ファクターが増えるにつれ電力の需給調整は複雑化を増す。これを最適化する解を導き出すにはAIが欠かせなくなってきている。
海外ではユニークネスもプラスしたAI搭載の需給調整モデルを開発
海外でも再エネの需給調整にAIは欠かせない存在となっている。
フランスとシンガポールに拠点を置くビーブライト(BeeBryte)社は、大規模な商業施設や産業施設の電力需要をリアルタイムで監視して制御するクラウドベースのソフトウェアを提供している。これは、気象予測や稼働率、利用状況、エネルギー価格シグナルなどのデータを使ってAIを活用し、時間別料金に応じて自動的に空調システムなどの利用を蓄電池からの電力に切り替えるなどの制御を行う。このシステムを導入することで、電気料金を最大40%削減すると同社は報告している。
イギリスではAIを搭載したユニークなフォームの太陽光発電装置の開発が進む。英ロンドンのスタートアップ「ソーラーボタニック(SolarBotanic)」は木の形をした太陽光発電装置「ソーラーツリー」の開発を進めている。葉の形を模した薄膜の太陽光発電装置を使い、住宅やオフィスへの電力供給やEVを充電する。各ツリーは、AIによるエネルギー貯蔵・電力管理システムを搭載している。また、複数のツリーをつないで森のようにローカルなマイクログリッドを形成したり、余力の電力を系統に接続したりすることも可能。ツリーが作り出した電力が足りないときは蓄電した電力を使い、余っているときはそれを主電源に戻すことができる。
AIとドローンでメンテナンスの最適化
再エネ施設は、その安定稼働のためにもメンテナンスが欠かせない。その予知的な保全や点検といった分野でもAIが活用されており、日立パワーソリューションズは、風力発電設備をドローンによって自動撮影を行いAIで損傷具合を判定し最適な保守計画を立案し、補修を実施している。また、太陽光発電装置の保守点検にもドローンとAIを活用しているケースは増えている。オリックス・リニューアブルエナジー・マネジメントは、ドローン空撮や解析サービスを行うベルギーのソフトウェア会社「SITEMARK.NV」と提携し、太陽光発電所の保守・点検業務をデジタル化。具体的には、遠赤外線サーモグラフィーを搭載したドローンで太陽光パネルを撮影し、AIを搭載したソフトを用いて太陽光パネルの異常を種類ごとに自動分類している。
どちらもAIとドローンを活用することで、再エネ関連機器のメンテナンスや検査に要する時間を短縮、省力化し、必要な補修を最適化。これにより事業者は機器を停止する時間を減らし、発電量を維持することができる。
これまで再エネは変動するので主力電源にはならないという意見も多く聞かれた。しかし、今回紹介した事例のように、AIによる再エネの最適化ができれば、需給の安定性が担保された柔軟性をもった電力システムを構築できる。今後は再エネの拡大とともに、AIを利用した柔軟性をもった電力システムが再エネの主力電源化を進めるカギとなっていきそうだ。
文:箕輪弥生