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欧州でプラスチック規制の厳格化が進みつつある。欧州委員会では、2022年の年末にプラスチック製のパッケージに関する規制の草案を発表。この規制が施行されると、ホテルでの使い捨てシャンプーボトルや飲食店での使い捨てカップや皿などの利用が完全に禁止される可能性があるという。
すでに、フランスとベルギーはリサイクル不可の包装材への罰金を導入しており、イギリスや他のEU加盟国もこれに続くと予想されている。
そんな背景から、微生物や海藻から代替プラスチックを開発するスタートアップなど、サステナブルテックの動きに注目が集まっている。本記事では、EUのプラスチック規制の現状と、そのソリューションとして期待される欧州発スタートアップの動向を伝える。
厳格化する欧州のプラスチック規制の現状
EUでは、2019年7月に発行された『プラスチック指令』によって、2021年7月3日から、カトラリー、皿、ストローを含む9種類の使い捨てプラスチック製品と、オキソ分解性プラスチック製の全製品の市場流通が禁止された。
欧州委員会が発表した最新の提案では、EU加盟国が2040年までに、2018年比で1人あたりの包装廃棄物を15%削減する必要があるとされている。そのために当局が求めているのが、プラスチック容器の再利用や詰替えの増加と包装廃棄物の削減だ。
具体的な措置としてあげられているのが、ホテルでのシャンプー類のミニボトルや少量の果物・野菜の使い捨てパッケージ、ホテルや飲食店における消費者向けの使い捨てカップや皿といった「避けられるパッケージ」を全面的に禁止すること。
テイクアウトが可能なレストランでは、2040年までに食事の40%を再利用、または詰め替え可能な包装で提供することが義務づけられる。これにより、外出先で飲むコーヒーのほとんどは、再利用可能なカップ、または顧客が持参するカップで提供されるようになるという。また、通信販売を行う小売業者は、配送で使用する箱内の空きスペースを製品に対して最大40%にしなければならない。
その一方で、地球環境に良いとされる生分解性を持つ先進素材のバイオマテリアルにも、課題が見えてきている。典型的なリサイクル工場には、ゴミの中からバイオマテリアルを検出するセンサーを持っておらず、それらをリサイクルしようとするとシステムが複雑になってしまう。
そのため、リサイクル施設に送られたバイオマテリアルは、ほとんどが埋立処分されている。埋め立てた際に無害のまま自然環境に戻るものもあるが、機能性が洗練されていない素材も多くあるのが実情だという。
欧州発、注目の代替プラスチック関連スタートアップ
このようにプラスチック規制の厳格化やバイオマテリアルの複雑化が進む欧州において、代替プラスチックの開発に取り組むスタートアップに注目が集まっている。ユニークな技術やビジネスモデルを持つ5社の取り組みを紹介したい。
【イギリス/Shellworks】微生物からプラスチック代替品を開発
2019年にイギリスで創業した「Shellworks」は、微生物などを活用して代替プラスチックの開発を行う。最新の素材であるVivomerは、海洋や土壌に豊富に存在する微生物を原料としている。使用後は微生物がVivomerを餌として消費するため、自然環境にマイクロプラスチックが残らないメリットがある。
その他、魚介類の廃棄物から抽出されたバイオポリマーのShellmerは、薄いフィルムとしての活用に最適だ。水溶性のこの素材は、使用終了後はお湯に溶かすことができるという。
同社では、あらゆる自然環境の中で分解できる素材の開発を目指す。素材が寿命を迎えて海や土の環境に到達しても、再び良質の有機化合物に分解されるそうだ。
【イギリス/Notpla】海藻からプラスチック代替品を開発
2014年にイギリスで創業した「Notpla」は、主に海藻を原料として代替プラスチックを開発する。製品のバリエーションは広く、テイクアウトの食品パッケージとして使える耐油性と耐水性に優れた「Notpla Coating」、水分の持ち運びが可能で使い終えたら食べることができる「Notpla Ooho」、オイルやドレッシングの収納に適した「Notpla Pipette」、紙として使用できる「Notpla Paper」などがある。
いずれも4~6週間で自然環境で生分解する性質を持つため、使い終わったら食品廃棄物と一緒に堆肥化できる。これまでの実績として、ロンドンマラソンで選手の水分補給にOohoが採用された。使い捨てのプラスチックカップとボトルの代わりに36,000個のOohoが使われたそうだ。
【オランダ/Grown.bio】キノコの菌糸から代替プラスチックを開発
2016年にオランダで創業した「Grown.bio」は、キノコの菌糸、根の構造、農業副産物から作られた自然素材を使って、代替プラスチックを開発する。
開発するのは、100%堆肥化可能なパッケージ材、建材、インテリアデザインアイテムだ。パッケージ材は自在に成形ができるが、ロットが小さい場合は標準化されたアイテムも用意されている。
ランプの傘に同社の素材を使用したライト「MushLume Lighting Collection」は、国際的な賞を受賞している。建築用途としては、生分解性を持つ「断熱パネル」「分離壁」「壁パネル」「ブロック」などがある。
【エストニア/Woola】羊毛から代替プラスチックを開発
2020年にエストニアで創業した「Woola」は、余った羊毛から代替プラスチックを開発する。ヨーロッパでは毎年約20万トンの羊毛が廃棄されており、これは総羊毛量の90%にもなるという。
同社の製品は、郵便の発送に使える封筒、ガラス瓶を保護するスリーブ、エアパッキンの3つだ。羊毛は弾力性があり、撥水性があり、温度差に強く、壊れやすい商品の梱包に最適な素材なのだという。また、耐久性が高いため何度も再利用することも可能だという。同社では、製品の返却システムを立ち上げ、素材を循環させているそうだ。
【ドイツ/PIZZycle】再利用可能なピザボックスを開発
2021年にドイツで創業した「PIZZycle」は、再利用、かつ100%リサイクルできるピザボックス「PIZZycle」を展開する。同製品は33cm / 13インチ以下のピザにフィットするサイズで、複数枚を重ねて使用することができる。素材はポリプロピレンとなる。
同社がビジネスモデルとして提案するのが、ピザボックスの販売・ロイヤリティプログラムとレンタルの仕組みだ。
前者はPIZZycleをロイヤリティプログラムの一環として顧客に販売し、次のピザをPIZZycleで受け取ることでインセンティブを与えるもの。例えば、8枚のピザを注文したら、割引や無料ピザを提供するなどだ。後者はPIZZycleのデポジットを設定し、注文時に顧客にボックスを貸し出す。顧客が再来店したら、新しいボックスを受け取るか、払い戻しを受ける。
急成長する代替プラスチックの分類・表示の指針も
欧州委員会は、2022年の年末にバイオベースのプラスチック、生分解性プラスチック、堆肥化可能プラスチックに関する政策枠組みについても発表している。
これらの代替プラスチック素材は需要が急増する一方で、その複雑さから消費者にも産業界にも情報の混乱が生じているという。そのため、再利用可能なパッケージ、正しいリサイクルをサポートする明確なラベルを提供するなどして、代替プラスチックがどのように地球環境に寄与するかという指針を示すことを目指す。
バイオベースのプラスチックについては、バイオベースのプラスチック原料の含有率を正確に明記することが求められる。正確な表示のない「バイオプラスチック」や「バイオベース」といった一般的な主張は避ける必要がある。
生分解性プラスチックは、持続可能な未来において重要な役割を果たすとしているが、環境へのメリットと循環型経済への価値が証明された特定の用途に限定される必要があるとしている。どのような環境下で、どれくらいの期間で生分解されるかを示す表示も求められる。ポイ捨てされる可能性のある製品は、その生分解性を主張したり、ラベルを貼ったりできない。
堆肥化可能プラスチックは、環境上の利点があり、コンポストの品質に悪影響を及ぼさず、適切な生物廃棄物の収集と処理システムがある場合にのみ使用されるべきであり、EUの基準に沿って、産業用コンポストの認定を受けた製品であることを必ず明記しなければならない。工業的に堆肥化可能な包装として、ティーバッグ、コーヒーカプセル、果物や野菜に添付するシール、非常に軽いプラスチックバッグにのみ許可される。
代替プラスチックの規制について、欧州は世界をリードしているエリアの一つといえる。日本においても、いずれ導入される規制だと予想されるため、欧州の動向を注視したい。
文:小林香織
編集:岡徳之(Livit)