INDEX
EUは承認、マイクロソフトは英国市場から離脱の可能性も
690億ドル(約9兆4500億円)に上るマイクロソフトによるゲーム大手アクティビジョン・ブリザード買収案件に関して、連日大きな動きが報じられている。
注目されるのは、各市場を管轄する競争当局が、この買収を承認するのかどうかという点だ。
The Vergeのまとめによると、サウジアラビア、ブラジル、チリ、セルビア、日本、南アフリカでは、各当局による買収承認が下された。
一方4月末には、英国の競争当局である競争・市場庁(Competitions and Markets Authority=CMA)が買収反対の立場を表明。昨年買収阻止を目的とする訴訟を起こした米連邦取引委員会(FTC)に続く買収阻止の動きだ。米国では、この訴訟は現在も継続中で、今年8月に公聴会が実施される予定となっている。
英国が買収阻止に動いたことで、欧州連合(EU)がどのような決定を下すのかという点に注目が集まったが、結果EUは5月15日に買収案を承認した。
今後の焦点は、英国と米国での買収反対を覆すために、マイクロソフトがどう動くのかという点だ。
英国当局の決定に対して、マイクロソフトは控訴する構えのようだが、一部報道では同社がクラウドゲーム事業を部分的に英国市場から撤退させる可能性があるとも伝えられている。The Vergeは5月16日、英国当局による買収案阻止に関連して、一部のアナリストらが、マイクロソフトが英国市場でのアクティビジョンのゲーム提供を止める可能性に言及したと報じているのだ。
規制当局が注視するポイント
このマイクロソフトによるアクティビジョン買収にまつわる騒動で、これまであまり注目されることのなかったクラウドゲーム市場への関心が高まりつつある。
もともと各国当局は、マイクロソフトによるアクティビジョン買収が、ゲーム市場にどのような影響を与えるのかという点に注目し、調査を進めてきた。
ゲーム市場は、PCゲーム、コンソール、モバイル市場に大別される。 今回の買収では、アクティビジョンが有する人気タイトル「Call of Duty」シリーズや「World of Warcraft」を鑑み、まずコンソール市場における競争阻害の可能性が論点となった。結果として英国CMAを含む各当局は、コンソール市場における競争阻害リスクは小さいとする結論に達している。
コンソール市場は、ソニー、任天堂、マイクロソフトの3社がしのぎを削る市場。Ampare Analysisによる市場調査によると、世界のコンソール市場でトップシェアを有するのはソニー(シェア45%)だ。これに任天堂が27.7%と続き、マイクロソフトは27.3%で3位にとどまる状況。買収により優位性を得たとしても、マイクロソフトが圧倒的シェアを獲得するのは困難で、アクティビジョンのゲームを独占しない限り競争阻害にはならないと、各当局は判断した。
問題となったのは、クラウドゲーム市場。英国CMAは、マイクロソフトのアクティビジョン買収に反対する最大の理由として、クラウドゲーム市場における競争阻害を挙げているのだ。
クラウドゲーム市場での成功要因
クラウドゲームとは、ハイスペックなPCやコンソールなしに、スマートテレビ、スマートフォン、タブレットなどネットに接続された様々なデバイスで、高負荷ゲームをプレイできる仕組み。
グーグルやアマゾンなどが参入を試みたが、いずれも苦戦しており、グーグルに至っては短期間で撤退している。市場規模も小さいため、これまで特に注目されてこなかったが、今回の騒動で、現状や市場機会が洗い出され、注目が高まっている。
CMAは、アクティビジョン買収案件に関する調査報告書(2023年2月8日)の中で、クラウドゲーム市場の市場規模は2025年に60〜100億ドルに達すると推計、また2021年に2170万人だった有料ユーザー数も2024年には5860万人に増える可能性があるという。
またCMAは、複数の情報ソースから独自にクラウドゲーム市場における市場占有率も計算している。それによると、2021年末時点における市場シェアは、ソニー(プレイステーション・クラウド・ゲーミング)が30〜40%でトップ、これにマイクロソフト(xCloud)とNVIDIA(GeGorce Now)がそれぞれ20〜30%、グーグル(Google Stadia)が5〜10%で続く格好となった。
一方、2022年に状況は大きく変わり、マイクロソフトのシェアは60〜70%に急増、これにNVIDIAとソニーがそれぞれ10〜20%、グーグルとアマゾン(Amazon Luna)がそれぞれ0〜5%で続いた。
なお、グーグルは2022年9月にクラウドゲームの終了を発表、2023年1月に完全停止している。
CMAは、グーグルのクラウドゲーム事業が失敗した要因の1つとして、コンテンツ不足を挙げ、クラウドゲーム事業の成功にはコンテンツが特に重要になると指摘している。
Statistaのまとめでは、2023年1〜3月期におけるアクティビジョンのゲームをプレイする月間アクティブユーザー数は9800万人。ゲーム市場調査会社NewZooのデータによると、アクティビジョン・ブリザード社の直近人気タイトルには「Call of Duty: Modern Warfare II/Warzone 2.0」や「Overwatch 1 & 2」「World of Warcraft」などが含まれ、たとえば「Call of Duty」は、ゲーム配信プラットフォームTwitchにおける視聴時間は1900万時間を超えるという。マイクロソフトは、米英当局の反対を覆し、買収を遂行することができるのか、またこれに伴いクラウドゲーム市場はどう変化していくのか、今後の展開が気になるところだ。
文:細谷元(Livit)