「地球とつながるよろこび。」をテーマにアウトドア事業を行うヤマップは、ふくおかフィナンシャルグループで、企業のSDGs達成に向けた取り組みを評価するサステナブルスケールおよび九州大学都市研究センターと包括連携協定を締結し、山を歩くことによる人類の健康と自然環境への影響を測る産学金の連携プロジェクト「人と自然のウェルビーイングラボ」の実証実験を実施してきた。

今回、習慣的に山を歩く「登山者群」と、そうでない「非登山者群」の生体データを比較したこの実証実験において、脳疲労度の低い人は、血圧低下の効果が大きい傾向にあることが明らかになったと発表した。

また、脳疲労度の低いグループには「登山者群」が多い傾向も見られ、習慣的に山を歩くことが、脳疲労の改善に寄与する可能性を科学的に実証したとのことだ。

背景

これまで体感的・経験的に知られてきた効果に科学的な裏付けを提供することを目指して、昨年4月7日に締結した包括連携協定のもと、山を歩くことによる人類の健康と自然環境への影響を測るプロジェクト「人と自然のウェルビーイングラボ」を発足。人類の健康(人的資本)にフォーカスした分析と自然環境(自然資本)にフォーカスした分析を軸に、生体データと医学的なエビデンスに基づく効果検証に焦点を当て研究を重ねてきた。

大分県別府市の日向岳(1085 m)にて実証実験を実施(2022年10月)

実証実験では「登山者群」と「非登山者群」を合わせた46人に、大分県別府市の日向岳を登山してもらい、その前後の血圧や血中コルチゾール濃度等の生体データを比較。全ての変数に対する相関係数を算出し網羅的な解析を行い、その解析結果から山を歩くことの健康効果を科学的に実証したとのことだ。

分析結果

1.「生体データ(血中酸素飽和度)」と「登山経験」との相関関係を分析 ▶︎ すっきりとした目覚めを迎えられている「登山者群」

「登山者群」「非登山者群」の登山前(朝の時間帯)に測定した「血中酸素飽和度」のデータから、血中酸素飽和度が高いグループ(98%以上)には「登山者群」が特に多い傾向が見られたという。

習慣的に山を歩く「登山者群」は、朝の時間帯から身体の状態が活動的になることが多く、血中酸素飽和度の低い寝起きの状態から酸素飽和度の向上が見込まれやすい可能性、つまり「非登山者群」と比べ、すっきりとした目覚めを迎えられている可能性があると考えられるとのことだ。(図1)

(図1)血中酸素飽和度が高いグループ(98%以上)には「登山者群」が特に多い傾向が見られた。

2.「生体データ(血圧)」と「脳疲労度」との相関関係を分析 ▶︎ 脳疲労度の低い人は、血圧低下の効果が大きい傾向

「登山者群」と「非登山者群」の「生体データ(血圧)」と「脳疲労度」との相関を分析したところ、脳疲労度が低い人(脳疲労マーカー=180未満)は、登山前と登山後の最高血圧の差が大きく、山を歩く運動行為/日内変動により得られる血圧降下の効果が大きい傾向にあることが判明(図2a)。

さらに、脳疲労度の低いグループ(脳疲労マーカー=180未満)には「登山者群」が多い傾向も見られ(図2b)、習慣的に山を歩くことが、脳疲労の改善に寄与する可能性が示唆される結果となった。

(図2a)縦軸(登山前後最高血圧差)がマイナスの値になるほど血圧降下の効果が大きいことを指す。
(図2b)横軸(脳疲労マーカー)の脳疲労が低いグループ(180未満)には「登山者群」が多い傾向。図2aにおいても同様の傾向が見られた。

3.山を歩くことによる「ストレス解消効果」を分析 ▶︎ 恩恵を受けやすい条件あり

山を歩く運動行為による「ストレス解消」への影響を調査すべく「登山者群」「非登山者群」の登山後の「血中コルチゾール濃度」を比較。コルチゾールはストレスに関与し、過度なストレスを受けると分泌量が増加するホルモンの一種。

登山後の血中コルチゾール濃度は、「体脂肪率」「体年齢」と正の相関関係が見られ(図3a,b)、「骨格筋率」との間には、負の相関関係が見られた(図3c)ことから、体脂肪率が低く、骨格筋率が高く、体年齢の低い人は、山を歩く運動行為/日内変動によるストレス解消の恩恵を受けやすい可能性があることがわかった。

習慣的に山を歩く「登山者群」は、無条件に「脳疲労改善」の恩恵を受けている可能性が高いものの、より良い「ストレス解消効果」を得るには、望ましい条件(体脂肪率が低い・骨格筋率が高い・体年齢が低い)があると言えるとのことだ。

(図3)「登山者群」「非登山者群」の登山後の「血中コルチゾール濃度」を比較

なお、「非登山者群」と「登山者群」との血中コルチゾール濃度に無条件下での(単純比較による)有意差はなく、血中コルチゾール濃度と「脳疲労度」との関係についても、ほとんど相関関係が見られなかった。(表1)

「非登山者群」と「登山者群」との血中コルチゾール濃度

総括
1.「生体データ(血中酸素飽和度)」と「登山経験」との相関関係を分析 ▶︎ すっきりとした目覚めを迎えられている「登山者群」
2.「生体データ(血圧)」と「脳疲労度」との相関関係を分析 ▶︎ 脳疲労度の低い人は、血圧低下の効果が大きい傾向
3.山を歩くことによる「ストレス解消効果」を分析 ▶︎ 恩恵を受けやすい条件あり

毎月登山実績があり、直近の獲得標高差が500m以上の「登山者群」と「非登山者群」との生体データ比較に焦点を当てた同研究では、実証実験を通じて得られた上記1〜3の結果を統合的に評価し、普段からのエクササイズや運動ではとれない脳疲労を、標高が500m以上の山で、月に1回以上の登山習慣が解消する可能性を結論づけたとしている。

山を歩くことの「何が」脳疲労の改善に寄与しているのかは今後の研究によって確かめる必要があるが、今回の実験を通じて、山を歩くことによる効果の一端を解明できたとのことだ。

これまで体感的・経験的に知られてきた効果に、科学的な裏付けを提供することで、山を歩くことが、現代を生きる人々の健康づくりや未病の改善、予防医療に有意なアプローチとなるよう「人と自然のウェルビーイングラボ」では、今後も様々な機会創出を図っていくとしている。