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世の中に長年定着しているイメージを大きく変えることは容易なことではない。しかし、時代の流れと共に企業が持続可能な経営をしていくためには、新製品を販売するだけではなく、そのブランドイメージから変えていくことは、これからの社会で非常に重要なことではないか。そんな挑戦を行った、誰もが知っているであろうコーヒーブランド「ジョージア」の刷新について、日本コカ・コーラ マーケティング本部コーヒー事業部 シニアブランドマネジャー 元木麻由さん(以下:元木さん)へのインタビューを交えながら、その背景や戦略、今後の展望などについて紹介していきたい。
若年層も好むブランドへの刷新を決意した「ジョージア」
コカ・コーラ社の「ジョージア」は2023年3月20日に大きくブランド刷新を行った。誕生した1975年から「ジョージア」は缶コーヒーを中心に、主にビジネスマンに向けたブランドとして世の中にメッセージを打ち出してきた。わたしたちも、オフィスや工事現場などで働くシーンが描かれた「世界は誰かの仕事でできている」がキャッチコピーであるCMが記憶にあたらしく、いわゆる「おじさん」が仕事場で好んで飲むイメージがあるだろう。元木さんによると、やはり、現状のRTD(Ready to drink)コーヒーの購入率および購入金額が高いのは40代以上の消費者とのことだ。
しかし、「ジョージア」はすでに認知度が高い製品であるのに、なぜ今そのイメージを大きく変える必要があったのか。その理由について「近年のコンビニコーヒーやカフェなどの定着により、20代の消費者もコーヒーの飲用習慣があると捉えており、そうした若年層にRTDコーヒーを飲用する習慣を定着させることが、今後の市場成長のカギを握ると考えています。コロナが明けて、市場全体も上昇傾向にあると思われる今だからこそ、若年層・女性層を中心とした新規飲用者の獲得のために、製品もコミュニケーションも従来のやり方と大きく変える必要があると考えました」と元木さんは話す。老舗企業がZ世代をターゲットにブランディングをしていく事例も増えているが、ジョージアも若年層に好まれるブランドとなるため、新たな挑戦を行うことを決意したブランドの一つだ。では、その具体的な戦略はどのようなものか。
新ブランドメッセージは「毎日って、けっこうドラマだ。」
「ジョージアを飲むことによって、なにげない日常も実はドラマにあふれている“前向きな気づき”を与えるコミュニケーション活動を積極的に展開していく」との想いで掲げられた新たなブランドメッセージは「毎日って、けっこうドラマだ。」。そのメッセージを載せた新たなテレビCMは、若者を中心とした何気ない日常での“笑顔”のシーンが描かれており、“日常って素敵だな”と感じる構成だ。さらに、米津玄師さんが書き下ろした「LADY」のBGMとエモーショナルな映像が若年層を惹きつける。
変化したのはテレビCMだけではない。オリジナル参加型体験コンテンツ「毎ドラ部 presented by GEORGIA(通称:毎ドラ部)」も開設した。元木さんはその経緯について「ジョージアがもつ情緒価値を消費者に自分ゴト化してもらうためには、メーカー発信のテレビCMなどの一方通行のコミュニケーションモデルだけではなく、消費者を巻き込み新しいジョージアのブランドストーリーを体験できる仕組みが必要だと考え、消費者調査や多くのディスカッションを経て、このようなコンテンツをつくるに至りました」と語った。確かにSNSやWEBで双方向のコミュニケーションが盛んな今、企業側からの一方的な情報発信はなかなか届きにくい部分がある。若年層を狙うならなおさらだ。試行錯誤を経て作られた「毎ドラ部」は、気軽な“情報シェア”文化が根強い若年層をうまく巻き込む仕組みが取り入れられている。
自分の体験をシェアしたくなる「AIイラストメーカー」
コンテンツの一つである「AIイラストメーカー」は、自身で撮影した写真がイラスト化され、何気ない日常の一コマがまさにドラマチックなイラストに仕上がる。「毎日って、けっこうドラマだ。」のメッセージを体感することができる仕掛けだ。実際に体験してみたが、自分の日常の一コマが美しく彩られたイラストは、思わず誰かに見せたくなる気持ちにさせてくれる。
また、サイト内ではそのイラストを、日本全国のマップ上に撮影場所やコメントとともに登録することができる。他のユーザーの投稿も見られるので、「ジョージア」を通じて様々な人と情報を共有し合える仕組みになっている。「毎ドラ部」はSNSやWEBを通じて情報の発信・シェアを行う若年層の文化に寄り添い、新たなコミュニケーションを生み出せるコンテンツだ。
毎ドラ部 presented by GEORGIA:https://mydrabu.georgia.jp/
長く続く製品ブランドの方針を変える決断
製品に関しては、従来から20代の飲用者が多かった、ペットボトル製品のラインアップを拡大していく戦略だが、長く続いているブランドだからこその悩みも。元木さんは「“刷新”ではありながら、今までジョージアを愛飲いただいている方々にも受け入れてもらえるかは常に意識していた点であり、同時に難しさでもありました」と苦労した点を話した。しかし、試行錯誤の末、これまで “サブブランド”訴求で展開してきたペットボトルコーヒーを、“マスターブランド”訴求に振り切るという大きな挑戦への決断をし、製品ラインアップも「ジョージア THE ブラック」「ジョージア THE ラテ」「ジョージア THE 微糖」「ジョージア THE ZERO※」に一新した。新たなラインアップは、猿田彦珈琲監修の花の香りをイメージした、ちょっと先の時代をいく味わいで、テーマは「五感を刺激するコーヒー体験」。さらに、デザート感覚で楽しめる小容量PET製品の「ジョージア キャラメルアフォガート ラテ」「ジョージア ビターショコラ ラテ」もあり、女性や若年層が楽しめる工夫がなされている。
※「ジョージア THE ZERO」はパッケージリニューアルのみ。
人生に寄り添うライフスタイルコーヒーを目指す
中長期目標では、現在のユーザー比率である、10‐30代:40‐70代=3:7(日本コカ・コーラ調べ)の若年層比率(10‐30代とした場合)を上げることを掲げている。元木さんは今後の展望について「RTDコーヒーは、従来のような働く人のためだけではなく、『もっと自由に楽しめるもの』『自分らしくあるためのきっかけになれるんだ』ということを伝えるコミュニケーションをすることで、皆様の人生に寄り添う“ライフスタイルコーヒー”になることを目指していきます。そして、ブランドを発展させていくと共に、市場全体を牽引していく原動力になれたらと思います」と熱く語った。
今後も、若年層向けの新製品発売や、「毎ドラ部」の体験アップデートも予定しているとのこと。若い人たちが持っている「中高年向け」のイメージを払拭するべく、「ジョージア」がこれからもどのような仕掛けをしてくるのかを楽しみにしていきたい。