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AIなどと並び国内外メディアの注目テックトピックの1つとなっている「メタバース」。
このたび発表された、クリプトデータウェブサイト「Coin Kickoff」が世界各国のSNSや検索エンジンを解析した最新調査では、メタバースに対する消費者の注目度や反応は、国によって大きく異なることが示された。
ベトナムを筆頭に、東南アジア各国の消費者がメタバースに対して好意的な意見を寄せていた一方、ネガティブな印象を持っている国には、欧米各国が名を連ねる結果となったこの調査。なぜ、国ごとにメタバースに対する印象の違いが生まれているのだろうか。
Facebookの改名でも注目。仮想空間「メタバース」
没入型の仮想世界である「メタバース」は、仮想現実(VR)と拡張現実(AR)技術の最近の急速な進化を背景に、年々私たちの生活に身近なものになりつつある。
特に2021年にFacebookが、ブランド再構築とメタバースへのフォーカスを反映させ、「Meta」という社名を採用したことで、メタバースへの注目は世界的に高まった。
Meta社の戦略に対する評価は分かれるが、メタバース自体は、2023年現在も引き続き注目の分野となっている。
マッキンゼーのレポートによると、この分野には少なくとも1200億米ドルが調達されており、また、2030年までに5兆米ドルもの価値を生み出す可能性がある。米国のコンサル会社ガートナーの調査でも、2026年までに25%の人が1日1時間以上メタバースに費やすようになると予測している。
メタバースへの印象は好意的なものから批判的なものまで
Facebookの社名を変更させるまでに至ったメタバースだが、一般の消費者が抱くイメージは、ポジティブなものからネガティブなものまで多様だ。
スポーツ観戦やコンサートなどでまるでその場にいるような臨場感が味わえるといったエンタメの在り方を変えるポテンシャルや、家具の配置をバーチャル空間で確認したり、化粧品や洋服をアバターで試すといったようにショッピング体験を新しいものにするビジネス機会、学校や企業研修において没入型の魅力的な学習に役立てる可能性など、メタバースに期待する声は数多く聞かれる。
一方で、メタバースによってもたらされる問題を懸念する人も少なくない。メタバース上で個人データをどのように保護するか、仮想空間内での暴言やさまざまな差別、ハラスメントに対してどう対応するか、法的な枠組みの整備はどうしていくのか、 VRがもたらす健康上の問題にどう対処したらよいか。比較的新しい分野であるメタバースには、議論が十分なされていない問題も多くあり、それが不安を呼んでいるようだ。
クリプトデータウェブサイト「Coin Kickoff」の調査
前述のクリプトデータウェブサイト「Coin Kickoff」の調査では、そんなメタバースへの関心の度合いや、肯定的あるいは批判的な地域を調べるため、160万件のツイートと、最も人気のある19種類のメタバース関連サービス、そして192カ国におけるメタバース関連キーワードのGoogle検索を、AIセンチメント分析ツールHuggingFaceを使用して分析した。
その結果は、東南アジア圏が関心の高さと肯定的な意見で目立つものとなり、メタバースに肯定的な国としては、ベトナム、フィリピン、ウクライナ、ナイジェリア、インドネシアがトップ5にランクインしていた。
逆にメタバースに対する反対意見が多かったのは、欧米諸国であり、トップのアイルランドに、デンマーク、ニュージーランド、アメリカ、カナダが続いた。
メタバースに肯定的な意見が最も多かったのはベトナム
メタバースに対して最も肯定的な国となったベトナムでは、メタバースに関するTwitterの投稿の約57%がポジティブな投稿となっていた。
ベトナムのこの結果の背景にあると考えられているのは、同国におけるクリプトゲームの普及と関連技術の強さだ。日本を含む世界中にユーザーがおり、特に東南アジア全域を中心に人気を博しているクリプトゲーム「Axie Infinity(アクシーインフィニティ)」の本拠地はベトナムであり、ベトナム企業SkyMavis社によって2018年にリリースされたこのゲームは、ブロックチェーンゲームの火付け役とも言われている。
Ernst & Young社の調査によると、97%の経営者がメタバースの成長の中心はゲーム業界であると考えており、多くのゲームユーザーがメタバースを業界に革命を起こす存在として肯定的に捉えている。特にオンラインゲームは、すでにメタバースの要素を取り入れているものも多く、これからもこの傾向は続くだろう。
東南アジア各国で目立つメタバースへの好意的な意見
この「Axie Infinity」は、本国ベトナムだけでなく、フィリピン、タイにもブロックチェーンゲームの急速な需要の高まりをもたらした。
Coin Kickoffの調査でも、メタバースに肯定的な10カ国のうち5カ国が東南アジアにあり、この地域が拡張現実技術にポジティブな印象をもっていることが示される結果となった。
特にフィリピンはメタバースに最も関心がある国という結果とあり、1000人あたり2,421回のGoogle検索が行われていた。
昨年、マルチクラウドサービスプロバイダーのVMwareが行った調査「Digital Frontiers 4.0」においても、フィリピンの消費者の55%はメタバースの存在を認識しており、その影響について楽観的で、43%が「社会にとって好ましいものになると思う」と回答していた。
フィリピンでは昨年10月に、情報通信技術省主催のグローバル・ブロックチェーン・サミットが開催され、Web3、NFT、メタバースなどについて話し合われるなど、国を挙げてメタバースに高い関心を示している。
メタバースに懐疑的な意見が多い国はほぼ欧米諸国
一方で、メタバースに最も否定的だった国となったアイルランドでは、ネガティブなツイートが14.4%となっていた。
否定的な意見の多い国トップ10は、アイルランドとデンマークに続き、ニュージーランド、米国、カナダ、ノルウェー、スウェーデン、英国、ブラジル、南アフリカと、ブラジル以外は、英語圏とスカンジナビアの国々に占められていた。
ART[XR].comの創設者であり、オンライン・モバイルゲームや没入型3DウェブVR/AR/XR技術の開発に25年の経験を持つエリック・プリンス氏は、この結果について、現実の生活水準が高い国ほど、仮想現実であるメタバースへの期待度は低く、懐疑的に見ているのではないかとコメントしている。
ちなみに日本では、メタバースについて1000人あたり31回のGoogle検索が行われ、関連するツイートの30.5%がポジティブなもの、8.5%がネガティブなものだった。
昨年には、MetaのVRプラットフォーム「Horizon Worlds」内で撮影されたザッカーバーグ氏のアバター自撮りのクオリティがあまりに低く、悪い意味で注目を集めた出来事もあり、良くも悪くも話題に事欠かないメタバース。
今後、各国で消費者の受け入れや普及がどのように進んでいくのか、引き続き注視したい。
文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit)