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スーザン・ウォジスキCEOの辞任と後任の発表
2023年2月16日にYouTubeのスーザン・ウォジスキCEOが辞任を発表した。
この辞任発表を受け大手ビジネスメディアは、ウォジスキ氏の辞任理由やグーグル創業期からの関係に注目。一方、クリプトメディアは、後任となるニール・モーハン氏(前最高プロダクト責任者=CPO)がweb3関連の取り組みに意欲的である点に注目し、今後YouTubeでのweb3施策の展開に期待を高めている。
ウォジスキ氏がYouTubeのCEOに任命されたのは2014年だが、グーグルとの関わりは創業期となる1998年までさかのぼる。
グーグルが小さなガレージから始まったビジネスであることはよく知られているが、このガレージを創業者であるラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏に貸し出してたのが当時インテルのマーケティング部門で働いていたウォジスキ氏だった。ガレージの賃貸料は、月額1700ドルだったといわれている。
このガレージでの操業期間中、グーグルはサン・マイクロシステムズの共同創業者アンディ・ベクトルシャイム氏から10万ドル、アマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏から100万ドルを調達、翌年にパロアルトのオフィスに拠点を移動した。同年グーグルの売上高は、22万ドルだった。
ウォジスキ氏がグーグルに入社したのは、グーグルがパロアルトのオフィスに拠点を開設した1999年。グーグル18番目の社員として入社、しばらくマーケティング責任者として、現在も使用されている同社ロゴの製作やグーグル画像検索開設などに携わった。
2003年には、広告プロダクトAdSenseの同社初のプロダクトマネジャーに昇格、その後広告・コマース部門のシニアバイスプレジデントに昇格し、AdSenseに加え、AdWords、グーグルアナリティクスなどのプロダクトを担当するようになる。
ウォジスキ氏の担当プロダクトの1つに、動画投稿サービス「Google Video」があったが、当時勢いに乗っていた2005年に操業したばかりのYouTubeに目を付け、グーグル経営陣に買収を提案。16億5000万ドルのYouTube買収案件を主導したのがウォジスキ氏だったといわれている。
ピチャイCEOとともにグーグルをけん引してきたモーハン氏
新たにYouTubeのCEOとなったニール・モーハン氏とは、どのような人物なのか。
モーハン氏がグーグルに入社したのは、グーグルによるYouTube買収の翌年2007年。同年ウォジスキ氏が主導した31億ドルのDoubleClick買収に伴い、グーグルに入社した格好となる。
モーハン氏は、インド北部に位置するウッタル・プラデーシュ州ラクナウ出身。1996年にスタンフォード大学を卒業後、アクセンチュアを経て、1997年にスタートアップNet Gravityに入社。同年、DoubleClickがNet Gravityを買収したことで、モーハン氏もDoubleClickに移行することになる。その後、DoubleClickで実績を上げ、同社の中核を担うようになった頃、グーグルがDoubleClickを買収した。
グーグルでは、ディスプレイ・動画広告部門のシニアバイスプレジデントまで昇格、2010年のInvite Media買収(8500万ドル)などを担った経歴を持つ。
広告テクノロジー/プロダクト分野を専門とするモーハン氏は、テック業界では一目置かれる存在となり、広告収益を高めたい競合企業による引き抜きの試みが何度か遂行されている。
2011年4月の報道によると、当時グーグル・プロダクト部門の重要人物だったサンダー・ピチャイ氏(現グーグルCEO)とモーハン氏がツイッターから引き抜きのオファーを受けていたことが発覚。両者ともに、最高プロダクト責任者の役職がオファーされていたが、これに対しグーグルはピチャイ氏に5000万ドル分、モーハン氏に1億ドル分の株式を付与することで引き止めたといわれている。
こうした経緯もあってか、2015年YouTubeに参画したモーハン氏には、最高プロダクト責任者(CPO)の役職が与えられた。
モーハン氏は、YouTube TV、YouTube Music、プレミアムなど様々なプロダクトの導入を主導したほか、TikTokの台頭を受け、YouTubeの短編動画機能Shortsの立ち上げにも力を注いだ。また直近では、Shorts動画の収益化を推進したのもモーハン氏といわれている。
web3時代のYouTube
モーハン氏がYouTubeのCEOに就任したことを受け、クリプトメディアはYouTubeで今後web3分野での取り組みが加速するのではとの期待を高めている。
その理由は、モーハン氏が2022年2月10日に発表したYouTubeのプロダクト計画にある。
この発表の中で、モーハン氏はクリエイターに新たな機会をもたらすものとして「web3」に言及、またブロックチェーンやNFTによりクリエイターとファンの関係がより深くなるだろうと、前向きな姿勢を示しているのだ。
またモーハン氏は、ブロックチェーンとNFTによってクリエイターとファンが新しいプロジェクトを共創し、共に収益を得るなど、既存のテクノロジーでは不可能なコラボレーションを可能にするだろうと、今後の構想を語っている。
さらに同発表では、「メタバース」についても言及されている。
モーハン氏は、メタバースに触れずイノベーションを語ることはできないと指摘。現在、視聴体験に没入感を与えるための新たな手段について考えていることを明らかにした。YouTubeのメタバースの取り組みは、インタラクションやリアリティの向上を目指し、まずゲーム分野で大きなインパクトを与えるだろうとも述べている。
web3の世界ではすでに、Dtube、Dlive、LBRYなどの分散化ネットワーク上に構築された動画投稿プラットフォームが複数存在している。また、アマゾンが水面下でNFTなどweb3事業を立ち上げているとの報道もある。モーハン氏のCEO就任で、YouTubeはどのようなweb3施策に打って出るのか、競合の動きも含め今後の展開に注目したい。
文:細谷元(Livit)